240528_今さら聞けない資機材の使い方_125_ブレーキの操作評価にドライブレコーダーを用いる 三田市消防本部 折戸直樹

 
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基本手技

近代消防 2022/09/11 (2023/10月号) 



ブレーキの操作評価にドライブレコーダーを用いる

三田市消防本部

折戸 直樹

目次

はじめに

救急機関員に求められる技術として、安全が第一であることは間違いないと考えます。しかし、救急車で傷病者を搬送する以上、ある程度の速さや、救急車を揺らさずに走行するといった運転技術も必要です。救急車の乗り心地が悪いということは、傷病者や車内で活動する救急隊員に悪影響を及ぼす可能性があるからです。

そこで私は、ドライブレコーダーに搭載されている重力加速度センサーでブレーキの操作を評価することで、転倒防止や不快感の軽減を目指すことにしました。

対象と方法

ドライブレコーダーは トヨタ純正 DRT-H61 を用いました。ドライブレコーダーには映像だけでなく、時間や速度が表示されています(001, douga01)。また、グラフ等には重力加速度が表示されており、どの方向にどれだけの力が加わったのかが分かるようになっています。

(1)ブレーキの強さと加速度の関係

救急車を徐行程度の低速で走行させ、5段階の強さでブレーキをかけた時の加速度を測定しました。

(2)体感の確認

当消防本部の職員20名を対象としました。

1)立位で転倒の危険を感じる加速度の確認

被検者を進行方向に対し右向きで起立した状態(002)として救急車のブレーキをかけます。その後職員に聞き取りを行い、どの加速度で転倒の危険を感じたか調査しました。

2)仰臥位で不快感を感じる加速度の確認

被検者はストレッチャーに仰臥位となり、進行方向に頭部を向けた状態(003)とし、ブレーキをかけます。どの加速度で不快に感じたか調査しました。

  

001

ドライブレコーダーの画面

動画1

走行中の画面。画面下に加速度が表示される

002

被検者を進行方向に対し右向きで起立した状態として救急車のブレーキをかける

003

被検者はストレッチャーに仰臥位となり、進行方向に頭部を向けた状態で救急車のブレーキをかける。

結果

(1)ブレーキの強さと加速度の関係

5段階のブレーキ操作における加速度を表1に示します。

(2)体感の確認

1)立位で転倒の危険を感じる加速度の確認

表2に示します。-0.2Gで危険を感じる被検者が出現します。-0.25G以上では被検者全員が転倒の危険を感じました。

2)仰臥位で不快感を感じる加速度の確認

表3に示します。-1.8Gで不快と感じる被検者が出てきます。-0.25G以上では被検者全員が不快に感じました。

表1

5段階のブレーキ操作における加速度

表2

立位で転倒の危険を感じる加速度

表3

仰臥位で不快感を感じる加速度

指導

これを活用した指導・教育方法についてご紹介いたします。まず、機関員には普段どおりの緊急走行をさせ、ドライブレコーダーで記録します(004)。次に、上記の研究結果を示し、今記録した内容を機関員と一緒に確認します(005)。その中で、-0.25G以上の運転シーンに対して指導を行います(006)。

-0.25G以上になる原因として多かったものは、ブレーキ前のスピード超過、危険予知が不十分、ブレーキ操作の遅さや荒さなどでした。

004

機関員には普段どおりの緊急走行をさせ、ドライブレコーダーで記録

005

記録した内容を機関員と一緒に確認

006

-0.25G以上の運転シーンに対して指導する

考察

速さについては、交通状況によって安全な速度は異なりますが、緊急走行の法定速度のように、速さについてはある程度、数値化された上限というものが存在します。しかし、乗り心地の悪さについては数値化された上限というものが存在しません。どこまでがOKかが不明瞭であり、救急機関員を指導、育成する上で、法定速度のように上限を数値化できないかと考え、今回ブレーキの操作について検討しました。その結果、転倒についても体感についても、-0.25G以上で不快感を与えることがわかりました。-0.25Gは「電車やバスで立ったまま乗っていて、ブレーキにより足が一歩出る」感覚に当たります。

これらの結果から、-0.25Gは救急車で緊急走行する際の乗り心地の悪さの上限として客観的な指標となると考え、運伝技術の向上に役立てています。

本検証の課題といたしまして、今回はブレーキのみの検証であったため、アクセルや左右のハンドル操作、また地面の凹凸など、前後、左右、縦方向での検証も必要であると考えております。今後もこれらの検証を進めることで、運転技術の更なる向上に繋げていきたいと考えています。

氏名
  折戸 直樹


・読み仮名
  オリト ナオキ


・所属
  三田市消防本部


・出身地
  兵庫県伊丹市


・消防士拝命年
  平成15年


・救命士合格年
  平成24年


・趣味
  ラグビー観戦、釣り、スキー

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