240917_今さら聞けない資機材の使い方_128_布担架にショートボードを挟むだけでルーカスの位置ずれを防止できる_伊勢原市消防本部_中島 史博

 
  • 237読まれた回数:
基本手技

 

近代消防 2023/12/11 (2024/01月号)p74-6 

 


布担架にショートボードを挟むだけでルーカスの位置ずれを防止できる

伊勢原市消防本部 

中島 史博

目次

はじめに

日本の住宅は階段や廊下など、狭隘箇所が多く安定した胸骨圧迫が困難な現場が多くあります。この場合には、ルーカスなどの自動心臓マッサージ器が有効ですが、階段搬送時には傷病者の身体の傾きによって、自動心臓マッサージ器の位置ずれが生じ胸骨圧迫の質に影響を与える可能性があります。今回私は、傷病者の体幹部を安定化させるためにショートボードを使用し、ルーカス3の圧迫パッドの位置ずれを防ぐことができるか検討しました。

材料と方法

1)材料

高度シミュレーターのセーブマンにルーカス3を装着し、搬送資器材は内因性心肺停止を想定した布担架を用います。また、傷病者の体幹部を安定化させるための補助資器材として、ショートボードを使用します。通常、外傷傷病者に使用する際はオレンジと黄色のバンドをクロスしますが、今回はバンドを色違いに固定し、脇を固めることで、ルーカス3とセーブマンを密着させることを目的としました(001-006)。

        001

布担架、ショートボード、ルーカス3の位置を示す。布担架を敷き、その上にショートボードを置く

002

ショートボードの上にルーカス3の背板を置く

003

セーブマンを載せる

004

ルーカス3の本体を装着する。

005

ルーカス3の装着状態。頭側から。オレンジと黄色のバンドはクロスさせずに脇を固めるように設定する。

006

ルーカス3の装着状態。尾側から。

2)方法

布担架のみのコントロール群と、布担架にショートボードを補助資器材として使用するショートボード群の2群に分け検証しました。

あらかじめ圧迫パッドの位置に印をつけておきます(007)。次に、角度35度の下り階段19段(踊り場あり)を隊員3名で搬送し、搬送前後での圧迫パッドの位置ずれを計測します。搬送は15回行いました。研究に参加した消防職員は4名。全員男性で、身長は175㎝~178㎝です。搬送は、そのうち3名をランダムに選んで行なっています。

008と009に検証風景を示します。頭側に1名、体幹に左右1名ずつ隊員を配置し階段を降りました。セーブマンが比較的平行になるように搬送しています。

007

あらかじめ圧迫パッドの位置に印をつけておく

008

検証風景。頭側に1名、体幹に左右1名ずつ隊員を配置した

009

セーブマンが比較的平行になるように搬送した

結果

コントロール群では、4~6㎝の位置ずれが発生したのに対し、ショートボード群では位置ずれはほぼ発生しませんでした(表1)。明らかな差が出たため検定は実施していません。

表1

圧迫パッドのずれ。コントロール群では、4~6㎝の位置ずれが発生したのに対し、ショートボード群では位置ずれはほぼ発生しなかった

考察

日本では、心肺停止傷病者の67.9%が住宅内で発生しています1)。日本の住宅内は階段などの狭隘箇所が多く、胸骨圧迫の中断を余儀なくされます。ルーカスを用いることで、狭隘箇所でも胸骨圧迫が可能になりますが、階段では、傷病者の身体を平行に保てないことで圧迫パッドの位置がずれる可能性がありました。

この研究で私は、ショートボードを活用することで位置ずれを最小限にできることを示しました。ショートボードにより体幹を安定させることで質の高い胸骨圧迫が可能になるものです。ショートボードは軽く短いため、現場に容易に持参できます。傷病者と布担架の間に挟んでも、狭隘部の搬送に障害とはなりません。

自動心臓マッサージ器は安定した胸骨圧迫をもたらします。加えて、布担架での搬送時には、傷病者の体幹部の安定化のためにショートボードの併用をお勧めします。

 
※氏名:中島 史博(なかじまふみひろ)
※所属:伊勢原市消防本部
※出身地:新潟県加茂市
※消防士拝命:平成24年
※救命士合格年:平成21年
※趣味:城巡り、プロレス観戦

コメント

タイトルとURLをコピーしました