120616高齢者への救急対応(10)老人・介護施設

 
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基本手技

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高齢者への救急対応(第10回)

『老人・介護施設』

講師

山内正彦(留萌消防組合消防署)

名前:山内正彦(やまうち まさひこ)

所属:留萌消防組合消防署
年齢:27歳
出身地:北海道 留萌市
消防士拝命年月日:平成15年4月
趣味:サッカー、読書

 

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120616高齢者への救急対応(10)老人・介護施設
OPSホーム>基本手技目次>120616高齢者への救急対応(10)老人・介護施設高齢者への救急対応(第10回)『老人・介護施設』近代消防のご購読はこちらから講師山内正彦(留萌消防組合消防署)名前:山内正彦(やまうち まさひこ)所属:留萌消防...

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1. はじめに

シリーズ構成第10回『老人・介護施設』を担当させて頂きます、北海道留萌消防組合消防署に勤務する山内正彦と申します。当消防組合は過疎・高齢化が進む地方都市(管轄人口約2万9千人)のため専任の救急隊を編成することができず、救急隊員がいろいろな職域を担当しているのが現状です。私自身も予防課に所属しており、救急事案のみならず査察等で介護施設を訪ねる機会も多くあり、それらの経験を総合して今回執筆させて頂きたいと思います。

2. 要介護度について

まず、介護施設を論じる上で必ずついてまわるのが『要介護度』というものです。この要介護度とは厚生労働省令により定められた認定基準により認定されるもので一次判定(全国一律の解析ソフトによる判定)、二次判定(保険・医療・福祉の専門家による審査会)を経て決定されます。

個人によって状態が異なるため、定義を定める事は難しいのですが下記の状態がひとつの目安といわれています。

3. 介護施設について

一口に『介護施設』といってもさまざまな種類があり、介護保険制度下において①自宅で介護を受けるもの、②通って介護を受けるもの、③入所して介護を受けるものの3種類に大別されます。今回は特に③入所して介護サービスを受けるものについて説明していきます。

介護施設に入所するためには前述の要介護度判定を受けている事が前提となります。つまり、介護施設に入所している高齢者は大なり小なりADL(Activities of Daily Living)に支障があるということです。救急活動を行う上でまずはこの大前提を覚えておきましょう。

また、各施設のおける法的義務付けのある医療スタッフの配置については表—2のとおりです。(これによらず任意に医師や看護師を配置している施設もあります)自身の管轄内にどのような施設があるか一度確認してみてください。

4.介護施設における活動のポイント

ここまで介護施設の説明をしてきました。ここからは介護施設における救急活動のポイントついて説明していきます。各病態や手技についてはこれまでのシリーズ構成(高齢者への救急対応)を参考にしてください。

ポイント〜出動時〜

写真1
介護施設職員に誘導を依頼する

あたりまえの事ですが、住所・施設の特定は慎重に行いましょう。特に同じ法人が複数の施設を経営している場合、同じ敷地に施設が二つあったり、似たような名前の施設を運営していることがあります。また、施設が大規模な場合、職員の誘導を依頼することも必要です(写真1)。

ポイント〜現場到着時〜

写真2
職種を尋ねましょう

現場到着後、施設職員に要請内容の確認を行います。その際のポイントとして『看護師さんですか?』等と職種を訪ねる(写真2)と後々の活動がしやすくなると思います。特に、要請者が医療従事者の場合は、要請内容・バイタル・時間経過・病歴・服薬、投薬状況等を通常の救急出動よりも深く聴取し、処置についても支援を要請します。

写真3
カーテンなどで遮ります

また、心肺停止症例などでは可能な限り他の入所者への心理的影響を考慮しブラインド措置(写真3)を取ることも必要です。

ポイント〜車内活動〜

写真4
処置の支援をしてもらいましょう

通常の救急活動同様、可能な限り施設関係者(看護師等)の同乗を求めましょう。誰よりも普段の傷病者の事を知っているはずです。また、車内でも必要に応じて処置の支援(写真4)を要請します。

ポイント〜病院到着時〜

救急隊到着前の傷病者情報が有効な場合も考えられます。救急隊からの医師引き継ぎと合わせて施設関係者(看護師等)からの引き継ぎもお願いしましょう。

5.事 例

それでは、実際に私が経験した介護施設での事例を2例ご紹介します。

事例1 76歳 男性

通報内容:顔面蒼白、SPO2低下、意識あり

現場到着時の状況:施設2階居室内ベット上に仰臥位。
看護師によるCPRが実施中であった(写真5)

現場バイタルサイン:意識JCS300、呼吸感ぜず、脈拍触れず

搬送途上:バイタル変化無し。CPR継続し搬送

診断:心不全

事例説明:

事例1は通報内容と現場到着時の状況が著しく異なっていた事例です。病院収容後に時間経過を詳しく尋ねると、救急要請の30分前から心肺停止状態であったことがわかりました。通報の遅れは明白であり、救急隊として非常に無念さを感じる事例でした。また、心肺停止状態であることを想定していなかった事から資器材の準備に手間取り、結果としてベストな救急活動とは程遠い活動となってしまいました。通報時に心肺停止と告げていてくれれば・・・

事例2 90歳 女性 既往症:認知症

通報内容:意識混濁及び血圧が高く救急要請

写真6
3階居室内ベット上に仰臥位
蘇生後でした

現場到着時の状況:3階居室内ベット上に仰臥位(写真6)
現場バイタルサイン:意識JCS300、顔貌:正常、表情:正常、血圧207/91、脈拍91、SPO2 96%、体温36.3℃、ECG:不整無し

搬送途上:バイタル変化無く、病院到着

診断:蘇生後脳症

事例説明:

事例2は施設内(療養型病床群)で一時心肺停止状態になったものの、その事が救急隊に伝達されず、病院収容後の医師引継時に施設関係者の発言から発覚した事例です。一番重要な情報を把握することが出来ず、観察・処置ともに遠回りをしてしまいました。一時心肺停止状態になったと伝えてくれれば・・・

上記2例は介護施設からの救急要請の中で非常に残念な思いをした事例です。

通報内容と現場到着時の状況が違うという事は介護施設に限ったことではなく、みなさん日常的に経験していることと思います。また、通報時からのバイタルサインの変化や容体悪化は当然の起こり得るものと思います。しかし医療従事者が傷病者の傍にいる状況下で正確な情報共有が出来ないことに対しもどかしい思いを抱くことも事実です。救急隊はあてにされていないのかと自問自答させられます。

6.おわりに

高齢化社会を迎えた現在の日本では、どの地域も介護施設からの救急要請数は増加の一途を辿っていることと思います。中には施設側で搬送可能な軽傷症例が続いたり、同じ施設から一日に何度も救急要請が続くこともあろうかと思います。時には愚痴のひとつでも言いたくなるような場面があったとしても、そこはグッとこらえ、高齢者は社会の功労者であり、人生の大先輩であるという感謝と尊敬の念をもって活動をしていきましょう。

暗に慣れることなく、我々にとっての1000回目の出動は傷病者にとっての1回目の要請であるという気持ちで・・・


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12.6.16/10:11 AM

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