月刊消防2021/09/01, p28-31
題名 都市型救助「新しいファーストコンタクト」
目次
著者
氏名:渥美雄也(あつみゆうや)
所属:千葉県野田市消防本部
特別救助隊隊長兼
水難救助隊副隊長
拝命:平成16年
出身:東京都
趣味:映画、ドラマ鑑賞(韓流)
1.はじめに
今回、『月刊消防』『救助の基本+α』シリーズを担当させていただきます千葉県野田市消防本部の渥美雄也と申します。
⑴ 位 置
野田市は千葉県最北端に位置し、市の最北端部で利根川から江戸川が分流し、東 を利根川、西を江戸川、南を利根運河が流れ、三方を河川に囲まれた水と緑に恵まれた地域です(001)。市では平成24年からコウノトリの飼育を始め、これまでに12羽を放鳥してコウノトリの棲める自然と共生する地域づくりを目指しております。
001 野田市の地勢
⑵ 消防本部概要
消防体制は、1本部、1署、4分署、1出張所に職員187名(令和3年4月現在)を配し、南北に細長い地形を考慮して救助隊を消防署と関宿分署に配置するとともに、周囲を一級河川に囲まれていることから、水害や水難事故に対応するため令和2年 8月に水難救助隊を発隊させ、市民の安心安全を守るために邁進しているところです(002)。
002 野田市消防本部の体制
(3) 都市型救助について
平成16年から資機材を導入して研修の受講や訓練及び検証を重ねており、実際に高所宙吊り事案等が10件発生し、都市型救助技術を実践してまいりました。
近年は、迅速かつ安全に要救助者への「ファーストコンタクト」を追求しており、関宿分署では十分な活動人員が確保できないことも相まって、少人数でも迅速かつ安全な活動を可能とする都市型救助法を考案しましたので紹介いたします。
2.モバイルフォールアレスターの導入
通常、都市型救助におけるダブルロープシステムのビレイ方法はMPDやプルージックコードを使用しますが、どちらも摩擦抵抗を利用したもので、メインロープが破綻するとビレイロープに全ての荷重が移り、救助者や要救助者に過度な衝撃荷重がかかります。
この様な衝撃荷重を軽減するために、当本部では衝撃荷重軽減機能を備えたモバイルフォールアレスターを令和2年度から導入しました。(003)
この資器材は、救助者や要救助者の墜落を短距離で止めることと墜落の衝撃を緩和できることが特徴で、墜落を短距離で止める墜落停止器具(アサップロック)(004)と、墜落時の衝撃荷重を抑えるショックアブソーバー(アサップソーバーアクセス)(005)から構成されています。
(003, 004, 005
003
(モバイルフォールアレスター)
当本部の墜落停止器具
004
アサップロック(ペツル社製)
005
アサップソーバーアクセス(ペツル社製)
3.アサップロックの特徴
⑴ 最大の特徴は、ビレイロープにセットするだけで、隊員が操作することなく救助隊員の動きに合わせてロープ上を移動することからビレイ操作員を必要としません。
⑵ アサップソーバーアクセス装着により、ビレイロープから距離を確保できるため、作業効率が上がり、救助活動時において救助者と要救助者2人(250kg)での使用にも対応できます。
⑶ 対応できるロープ径は10mm~13mmで、幅広いビレイロープに使用可能です。
⑷ 作業中や強風時にはロックボタンを操作することで、墜落距離を短くする事が可能です。
⑸ 降下時の急加速などコントロールを失った場合には、ロープ上でロックし墜落距離を最小限にとどめます。
005
↓
006
↓
007
4.アサップロックで実現「救助の3S」
アサップロックは安全性に優れているだけではなく、「操作及び設定が簡単」「ヒューマ
ンエラーの軽減」「要救助者へのファーストコンタクトが速い」を満たしており、私達が
目指す救助の3S(simple safety speedy)」が可能となりました。
⑴ 操作及び設定が簡単であること。【Simple:シンプル】
アサップロックはワンタッチでビレイロープに通すことができるため、複雑な操作はなく設定が簡単です。(006, 007, 008)
⑵ ヒューマンエラーの軽減。【Safety:セーフティー】
腰確保や肩確保、MPDやプルージックコードの設定及び操作においては、訓練を重ねた隊員でもヒューマンエラーを起こすことがありますが、アサップロックは救助隊員の動きに合わせてロープ上を移動します。また、支点側のビレイ資器材として使用可能で、どちらも操作員の配置も必要ないことからヒューマンエラー要因が減少します。
(009)(010)。
⑶ 要救助者への「ファーストコンタクト」が速いこと。【Speedy:スピーディー】
従来の低所進入は、高吊り支点や引揚げ用システム設定後にしておりましたが、アサップロックの導入により、進入隊員はシステム設定等に携わることなく進入できます。設定も簡単でビレイ操作員が必要ないため、要救助者への「ファーストコンタクト」が従来よりも速くなります。
5 要救助者への「新しいファーストコンタクト」
救助の3S(simple safety speedy)が備わった、当本部の新たな救出方法です。
〇 低所救出を例に、隊長1名、隊員4名、計5名での活動を想定します。
A班1名:アサップロックを使用したビレイ方法で低所へ進入(011)。
011
A班(1名)
A班:進入隊員の装備品(012)
①フルボディーハーネス
(チェストアッセンダー付き)
②アサップロック
③ID
④AZTEKアズテック (*注2)
⑤ピタゴール(縛着器具)
⑥ハンドアッセンダー
⑦プルージックコード
(*注2)ツインプーリー、ロープ、プルージックコードで
構成されており、ロープを引く力が4倍又は5倍になって作用
する構造となっている資器材。
進入隊員が登はん用資器材を携行し進入することで、降下し過ぎたり、環境が悪化した際は進入隊員の判断で登はんに切り替えてこれを回避できます。アサップロックは、登はん時においても救助者がアサップロックを引き上げることができるので、ビレイ操作員を必要としません。
B班3名:引揚げ用システムを高所にて設定。(013)
(A班とB班は作業を分離させ同時進行で活動させます。)
①活動開始(014)
②活動開始から3分経過(015)
③活動開始から4分経過(016)
従来の低所からの救助活動は、システム設定を隊員全員で行い、その後1名が進入していましたが、これに対し、アサップロックによる進入では、システム設定と隊員の進入が同時進行で行え、要救助者へのファーストコンタクトが従来の低所救助活動よりも圧倒的に早く、結果的に救出完了時間も大幅に短縮することができました。
6.おわりに
アサップロックを使用したビレイ方法により「救助の3S」の向上させることができましたが、進入隊員は「資器材準備、進入、要救助者の観察から縛着」までを1人で完結させる必要があり、高度な技術と適切な判断力が必要です。
要救助者の観察に関しては、救助隊員の約8割が救急科を修了、JPTECインストラクター及びプロバイダーの資格を有しています。
「救助の3S」を確固たるものにするためには、日々訓練を重ね救助技術を向上させることが必要であり、我々の使命であると考えます。
今回紹介した救助法が皆さんの参考となれば幸いです。
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