近代消防 2022/02/11 (2023/3月号) p76-7
今さら聞けない資機材の使い方
高崎救急隊員シンポジウムシリーズ(最終回)
救急隊員教育
B
事後検証を新鮮にわかりやすく
圓尾隆晴
神戸市消防局警防部救急課事後検証担当
目次
はじめに
私は現在神戸市消防局で事後検証を担当しています。過去3年間の事後検証結果では、D(要改善)は3%台でほぼ一定となっています。要改善項目はすべての救急隊へ通知し共有化を図っているのですが、同様の検証事案は繰り返し出てきます。同じことの繰り返しを避けるために、神戸市では二つの対策を実行しています。
対策
(1)見える化
繰り返される検証内容を事後検証担当者及び組織が繰り返し救急隊員に伝えていき、救急隊員が自然と又は強制的に情報を目にすることができる「見える化」を行っています。誰もが同じ認識を持ち、救急隊員が現場で迷わず、同じ間違いを繰り返さないことを目指します。
図1には、過去にどのようなことが検証対象となっているか示しました。第一位は活動関係、第二位はDNAR(不蘇生宣言)関連、第3位は気道トラブル関係です。次に、その3項目の内容を表1,2,3に示します。
事後検証担当者は、過去の事後検証症例と照らし合わせ、救急隊員が行った観察・判断・処置等に対し研修担当者やMC医師にアドバイスを添えています。症例研修会(図2)当日にも参加し、救急隊員へ事後検証の視点から説明を行います(図2)。
逆に良い点として、迅速な活動より現場での自己心拍再開につながっている事案が2件あることも分かり、これも隊員研修で伝えています。
図1
過去5年間における検証事案の内訳
表1
活動関係の内容
表2
DNAR(不蘇生宣言)関連
表3
気道トラブル関係
図2
Web救急症例研修会
(2)新鮮事例を周知
新鮮事例を取り上げることで印象を強くし、同じ失敗を繰り返さないようにするものです。
令和3年11月24・25・26日に開催された臨時本部教養研修の例を紹介します。指示医師とのコミュニケーション不足や救急隊のプロトコールの理解不足から、結果的にプロトコールを逸脱した活動が発生しました。この報告を受け、すぐに臨時事後検証委員会を開催し問題点を抽出しました。当該救急隊員へは結果報告として事案のフィードバックを実施しました。再発防止のためPCM(Project, Design, Matrix)手法での問題分析を行い、全救急隊員に対し臨時本部教養研修を実施しました。
まとめ
上記二つの対策が進めば、救急隊が現場で迷うことは少なくなり、ピットフォールの共有化が図られ、より救急隊の円滑な活動につながるといえるます。よくある間違いだで終わらせるのではなく、少しでも解決の方向へ進み現状を打破したいと考えます。
O15-6
●事後検証から見えるもの
今回提案された「事後検証の見える化」は、救急活動中に繰り返し行われ、改善が必要とされる課題を、文字だけでなく、グラフや表という視覚情報を加えて提示することで、記憶に残りやすくする工夫を試みている。全救急隊のピットフォールの共有化が図れれば、救急隊が現場で迷うことが少なくなり、救急活動の質の向上に繋がるが、救急活動の核となる救急救命士の意識に働きかけるには少し弱い。そのため、救急救命士の人数別や個人単位でのグラフや表があると、救急救命士の人数でできることやできないこと、また、個人のピットフォールを認識しやすく、救急活動中に意識するべきことが明確となり、繰り返す課題の改善により繋がるのではないか。
座長
木嶋浩之
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