近代消防 2022/05/11 (2023/6月号) p66-8
今さら聞けない資機材の使い方
レスキュースライダー:バックボード上を滑らせる救出方法
松田幸一郎1
與那嶺健也1
三戸正人2
1沖縄県東部消防組合消防署第一警備課
2ハートライフ病院救急総合診療部
目次
1.はじめに
バックボードを滑り台のように使用し救出を行う方法を考案しました。私たちはこれをレスキュースライダーと名付けています。本稿ではこの救助方法を解説します。
2.レスキュースライダー
大型車両と中型車両が対象となります。傷病者を毛布やKEDを用いて固定します。固定が完了したら、傷病者をドア側に90度回転させシート付け根にバックボードを立掛けます。車内に進入した隊員1名は毛布もしくはKEDを保持します。バックボードに正対した隊員が腰部を保持します。車内の隊員とバックボードに正対した隊員の二人が協力し、バックボードを滑り台の様に使用し車外へ救出します。その際、バックボードの両サイドには隊員1名ずつを配置しバックボードを保持し、それに加え傷病者の脇も同時に保持します。スライドした後、反対の手で頭部の保持を行います(立位のバックボード固定要領と同じです)。その後、仰臥位にして通常のバックボード固定を行います。
ポイントは3つ。
1つ目。両脇・下肢・バックボードを3人で確実に保持すること(001)。
2つ目。バックボードが滑らないように足で固定すること(002)。
3つ目。傷病者は3名でしっかり保持して仰臥位にすること(003)。
動画を供覧しますのでご覧ください。
レスキュースライダー
レスキュースライダー倍速
3.レスキュースライダーと3S
救助で欠かせない、3S(Safety:安全性、Simple:単純性、Speedy:迅速性)について、従来の脚立を用いた方法と比較・検討しました。比較のため動画を供覧しますのでご覧ください。
脚立を使用した救出法
脚立を使用した救出法倍速
(1)Safety
一般的な脚立を用いた方法では隊員の足場が不安定で、傷病者を救出する際にバックボードがぐらつき、傷病者を落としたり隊員がケガをするリスクがあります(004)。一方レスキュースライダーは坐位のまま少ない体位変換で救出することで傷病者に与える動揺が少なくて済みます(005)。
(2)Simple(006)
脚立を使用した方法に比べ使用資機材が少なく最低人員も4名で救出が可能です。
(3)Speedy
脚立を使用した方法に比べ救出時間が1/3になります。
004
脚立を用いる方法では不安定である
005
レスキュースライダーは安定している
006
レスキュースライダーは使用機材・人員とも少なくて済む
4.考察
大型車両の交通事故で運転席や助手席に傷病者がいる際、私たちは車外へ救出するために脚立を使用しバックボードを差し入れる方法を主に行ってきました。脚立上での作業は不安定なため車内でバックボードに傷病者を載せる際に円滑な活動ができず、時間を要すことが多々ありました。そこで傷病者を安全・確実・迅速に車外救出するために、レスキュースライダーを考案しました。この方法は脚立等を使用した救出に比べ、体位変換が少ないこと、傷病者、隊員共に安全なこと、使用資器材が少ないこと、迅速に救助できることを示しました。
我々管内では大型車両救出の経験はここ数年ありません。今後レスキュースライダーで対応できない事案にも備え、知識技術を向上させ、多種多様な災害に立ち向かっていきたいと考えます(007)。
007
研究協力者の皆さんと
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