月刊消防 2024/08/01, vol 46(8), 通巻542, p40-4
「救助の基本+α」
三連梯子を活用した斜めブリッジ救出について
熊本市消防局東消防署東特別救助小隊
目次
【はじめに】
今回の救助方法は、斜めブリッジ救出を行う際の課題を三連梯子と、担架作成方法の2点のみで克服できる救助法である。
また、特殊な機材を使うことなく、どの救助隊、さらには消防隊でも幅広く活用できる発展性を兼ね備えた救助方法として、本救助法を考案した。
【訓練概要】
想定
地震により耐火造5階建て(1階駐車場・2階から5階共同住宅)がパンケーキクラッシュ、5階部分に要救助者が1名いるとの情報。建物周囲には瓦礫が多数存在している。(ブルーシート部分)(001)
道路は寸断され、現場には車両も重機も入らない状況で、指揮隊、救助隊、ポンプ隊、救急隊は必要と思われる三連梯子及び都市型救助資機材、収容器具を徒歩にて搬送する(002)。
ポンプ隊は建物周囲のセーフティー、救助隊は狭隘空間を通り5階部分に到着、救出は5階部分のベランダから斜めブリッジが最善であると判断する。
001
想定建物
002
道路は寸断されている想定
必要資機材
三連梯子、舟形担架(タイタン)、都市型救助資機材一式
【課題と改善策】
斜めブリッジ救出を行う際の課題
・上部、下部ともに強固な支持物が必要となる。
・支点の高取りをしなければ担架をブリッジ線に移行する際は困難を極める。
課題に対する改善策(当隊の工夫)
・三連梯子を水平に全伸梯し、掛金が外れないよう小綱で連結部を結着する(003)。三連梯子を下部の支持物として活用する。
・通常の1箇所吊り、2箇所吊り担架ではなく、4箇所吊り担架を作成する(004)ことにより容易かつ安全にブリッジ線への移行が可能となる。
003
三連梯子を水平に全伸梯し、掛金が外れないよう小綱で連結部を結着する
004
4箇所吊り担架を作成
【斜めブリッジ救出の流れ】
救出システム編(上部)(005)
ブリッジ線2本は、タンデムプルージックとしジャンプさせる。
メインロープの端末は担架の頭部側に結着し、バーラックを使用して制動をかけて救出する。
ビレイロープはサムズアップで緩める。
005
救助システム(上部)
救出システム編(下部)(006)
下部は、三連梯子を支持物として活用、3つの支点を作成するが各支点は分散させ、局所荷重を軽減する。
2つの支点はブリッジ線をそれぞれ3倍力で作成、もう1つはビレイロープで同じく3倍力で作成する。
006
救助システム(下部)
救出編(007)
要救助者を舟形担架(タイタン)に収容、4箇所吊りを作成、ブリッジ線に通し担架を容易に移行させることができる張り具合まで3倍力を操作する。なお、4箇所吊りのスリングの長さが違ったとしてもブリッジ線の張り具合を変えることにより常に平行を保つことができる。メインロープはバーラックで制動を掛け緩め、上部のビレイロープはサムズアップでメインロープに合わせ緩める。下部のビレイロープは、タグラインとしても活用する。
担架足部が三連梯子に到着後、ブリッジ線を緩め、担架頭部を保持後メインロープを緩め担架のすべてが梯子上に到着した時点で救出完了となる。
なお、ブリッジ線は3倍力としているため荷重が掛かった状態でも容易に操作が可能である。
007
救助の実際
【三連梯子周囲に掛かる荷重について】
全体の位置関係
斜めブリッジを構築した時の荷重について説明する。
荷重は様々な条件で変化するが、今回は約7mの高さから要救助者を救出(008)、建物付近には瓦礫が散乱していると想定し建物から三連梯子を3.4m離れた地点に伏梯させる(009)と仮定して計算を行う。
図Aのように上記の仮定で設定すると要救助者の救出口、救出口直下の地面、三連梯子の先端を頂点とした三角形の三角比はおよそ1:2:√3となり、θ≒30°、この値を元に荷重を計算する。

図A
↑図A
ロープにかかる荷重
図Bの通り、斜面上の物体に掛かる荷重は斜面に垂直な分力 a と斜面に平行な分力 b に分散する。
θ≒30°物体の重量を80kgと仮定すると、a=80・cos30°=80・√3/2≒69b=80・sin30°=80・1/2=40となり、ブリッジ線に約69kg(1本では約34.5kg)、メインロープに40kgの荷重が掛かることになる。

図B
↑図B
図Cの通り、69kgの力が掛かるロープのなす角120°を維持するためには等倍の69kgの展張力が必要となるため、80kgの要救助者の場合は69kgの力で展張する。

図C
↑図C
梯子に掛かる荷重
②で示した通り、今回の状況では80kgの要救助者の場合、69kgの力で展張する必要がある。
よって梯子に掛かる分力は以下の通りとなる。
θ≒30°
x=69・cos30°=69・√3/2≒59
y=69・sin30°=69・1/2=34.5
xは地面に平行な分力なので、建物の壁面側に59kgの力が掛かり、yは地面に垂直な分力なので、三連梯子を持ち上げる方向に34.5kgの力が掛かる。(図D)

図D
↑図D
図Eの通り、三連梯子の重心は基底部から3.9m、全長は8.7m、重量は39kgなので、梯子先端部を持ち上げる力zは8.7・z=3.9・39z≒17.5となる。よって梯子の先端部を持ち上げるには17.5kgの力が必要なので、34.5-17.5≒17となり、約17kgの力で抑えれば梯子が起き上がることはない。

図E
↑図E
008
約7mの高さから要救助者を救出。
009
三連梯子を3.4m離れた地点に伏梯させると仮定
使用可能範囲
図Fのθが大きいほど、梯子が持ち上がる方向に掛かる力が大きくなる。

図F
↑図F
よって今回の仮定より梯子が壁面に近い場合や、救出口が高くなると、より、梯子が持ち上がる方向に力が掛かるが、梯子の先端部の重量22kgは自重で支えられるので、60kgの人一人は82kgまでの力を支えられることになる。
80kgの要救助者を支えるブリッジ線は69kgの力で展張すれば良いので、図Fの分力yは69kgを超えることはなく、
要救助者が80kg以下の場合、理論上60kgの人が支えればどの位置に三連梯子があろうとも梯子が起き上がることはない。
注目すべきは要救助者の体重がより重い場合であるが、例えば体重が倍の160kgとすると138kgの力で展張する必要がある。その時梯子を持ち上げる分力yは69kgとなり、梯子の先端部の重量22kgを引けば47kg、つまり60kgの人一人で十分支えることができる。
またその際、三連梯子が壁面に近い場合、分力yは大きくなるが、前項に示した斜面に垂直な分力aは小さくなり、ブリッジ線の展張に必要な力も小さくなる。よって分力yも小さくなるため160kgを超えるような高体重の要救助者であっても、三連梯子の位置が与える影響は小さい。つまりほとんどすべての場面で使用可能となる。
【参考】
前項までの計算に基づき、20m(010)の位置に三連梯子の基底部を合わせ(011)検証すると、計算上、梯子が浮き上がる力は梯子の先端部の重量22㎏以下の18㎏しかかからないため、梯子はほぼ浮き上がらず、壁面に押さえつける力は73㎏とのことで一般的なブロックを使用したが一切破損は見られず計算の立証ができた。
また、ナイロンロープを使用し同様の救出システムを作成、検証した結果、都市型救助資機材と同様の効果が得られ、都市型救助資機材を導入していない消防本部や、救助隊のみならず消防隊でも実施可能である。
010
三連梯子の長さが20m
011
基底部の状態
【まとめ】
・特別な知識や資機材を必要とせず、安全、確実、迅速に救出可能である。
・開口部直下に障害物等があり、斜めブリッジ救出が有効な場合、下部に強固な支持物がなくとも作成可能である。
・理論上、ほとんどすべての場合で、要救助者の体重、三連梯子の位置が変化しても人一人で支えることができる荷重しか掛からないため、安全である。
・窓枠やベランダの手摺り部分からでも安全にブリッジ線への移行ができる。
【最後に】
熊本地震の際は、数多くの事案の発生や資機材の不足により、我々が思い描いた救助活動は展開することができず、なかでも通常時であれば救助隊が対応するような事案において、救助装備を持たないポンプ隊が活動するなど、様々な困難に直面した。
しかしながら、全国からのご支援により熊本地震を乗り越え、今現在復興に向け強く歩みを進めている。
今後、首都直下地震や南海トラフ地震等のさらなる激甚化する災害も予測され、これらに対応すべく、資機材や人員確保の充実化など様々な課題もある。
ただ、人間には考える力がある。さらにはその考えに基づき行動する力がある。
すべてを資機材に頼ることなく、一人一人の創意工夫が激甚化する災害を乗り越える1つの手段となるのではないかと考える。
我々消防職員一人一人が自分の可能性を信じ、創意工夫し日々精進することが市民の幸せに繋がるのではないか。(012)
012
熊本市消防局東消防署東特別救助小隊

熊本市消防局 東消防署 東特別救助小隊
著者
消防司令補 小形 圭史(オガタ ヨシフミ)
所属
熊本市消防局 東消防署 警防課 救急救助班
二部 東特別救助小隊
消防士拝命
平成12年4月1日
趣味
スポーツ観戦
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