250528_救急活動事例研究_84_画像転送機能を活用し医療機関への情報伝達が迅速かつ適切に行うことができた1症例〜百聞は一見に如かず_茨木市消防本部_津田和宏

症例

近代消防 2024/07/11 (2024/08月号) p63-5


画像伝送機能を活用し医療機関への情報伝達が迅速かつ適切に行うことができた1症例

~百聞は一見に如かず~

津田和宏1)、大倉義孝1)、片山祐介2)、船津光司1)、大川祥弘1)、若松勇樹1)、上水流弘高1)、山内勇気1)

1)茨木市消防本部、2)大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター

目次

<茨木市消防本部の救急概要>

茨木市消防本部は1本部、1署、7分署を有し、消防職員は263名、救急救命士は88名(うち指導救命士7名)で、8隊の救急隊を運用しています。(令和6年6月現在)令和5年中の救急件数は18,771件で、前年度に比べ961件(5.39%)増加しています。茨木市は大阪府三島地域メディカルコントロール協議会に属しており、地域には救命救急センターと小児救命救急センターがあります。

<茨木市の概要>

茨木市は大阪府北部に位置し、面積76.49平方キロメートル、人口約28万5000人の都市です。自然豊かな茨木川緑地や文化的資源、音楽イベントなどが特徴です(zu001)。

昨年11月には文化・子育て複合施設「おにクル」が開館し、多機能な施設として多くの市民に利用されています。

また、市北部地域(通称「いばきた」)には美しい緑の風景が広がっており、昨年完成した安威川ダムには周辺の公園「ダムパークいばきた」も順次オープンし、日本最長420メートルの歩行者専用吊り橋や水上アクティビティが楽しめる予定です。

図001

茨木市の位置図

 図002 

文化・子育て複合施設「おにクル」

図003

ダムパークいばきた(完成イメージ図)

1.はじめに

画像伝送機能を活用し、医療機関への情報伝達ができた症例について報告する。

2.症例

60代男性。

5月の夕方、16時09分入電。「農作業中に膝を負傷している」と通行人からの通報があった。プレアライバルコールで詳細な情報を聴取しようとしたが、通報者と傷病者の距離が離れており、よくわからないということであった。

救急隊が現場到着すると、傷病者は畑の中央で座位で「はさみを持ってきてくれ」と救急隊に訴えた(001)。救急隊が接触すると、手押しの耕運機に右下肢が巻き込まれ、耕運機の歯で複雑に右下肢を切り裂いている状態(002,003)で、明らかな活動性出血はないが、広範囲の挫滅創を認めた。

医療機関への情報提供では言葉で説明しても状況が伝わりにくいと感じたため、画像伝送を用いることにした。

画像伝送システムを立ち上げ「受入要請です。耕運機による外傷事案です。先生、画像を送っているのですがみれますか?」

「ちょっと待ってください今から確認します…」ホットラインを受けた医師は画像伝送を受信できるパソコンまで移動します。

「右下肢を耕運機に巻き込まれました。現在救出作業中です。活動性の出血はないですが、挫滅創が広範囲であり、皮膚蒼白、呼吸浅く速い、橈骨動脈微弱でショックです。受入いかがでしょうか?」

「わかりました。受け入れます」

救出後の耕運機を示す(004, 005)。刃がどれぐらい刺さっていたのかがわかる。

救急隊の活動としては、

・救助隊要請

・初期評価

・応急処置・ターニケットの装着

・衣服の切断による救出活動

・情報伝達(ファーストコール)

を3人で分担して行なった。

結果、接触から救出完了まで8分で行うことができ、その間にファーストコールも行うことができた。

医療機関側からは

「傷の汚染具合などを受け入れ前に把握することができたため、必要物品や手術の準備などを事前に行うことができ、診療開始までの時間を1時間から2時間短縮することができた」との意見をもらった。

001

畑の中央で座位で「はさみを持ってきてくれ」と救急隊に訴えた。再現写真

002

巻き込まれの様子

003

巻き込まれの様子。別の角度から。

004

原因となった耕運機

005

刃の部分。どれぐらい刺さっていたのかがわかる

3.画像伝送がうまく機能しなかった例

しかし、すべての救急事案において万能であるわけではない。うまくいかなかった事例を紹介する。

(1)薬物の大量服用

「薬物の大量服用で意識障害の傷病者です。先生、画像(006)を送っているのですがみれますか?」

「ちょっと待ってください今から確認します…  薬をたくさん服用したのはわかるんですが…  具体的に薬の名前と量を教えてください」

「すいません…えー、○○が20錠、□□が8錠…」

(2)オンラインMCで医師の助言を仰ごうとした事案

「加害事案で首を絞められた傷病者についてオンラインMCを受けたいのですが。先生、画像を送っているのですがみれますか?」

「ちょっと待ってください今から確認します…今見れました。」

「〇歳、女性、首を絞められ眼瞼結膜に点状出血が認められます(007)。2次医療機関に数件断られました。バイタルサインは安定しています。医療機関の選定など助言を下さい。」

「 ….画像ではよくわからないです。こちらの救命センターで受け入れます。」

006

薬物の大量服用の例。

007

溢血斑の例。再現写真

4.考察

救急隊として 救急現場における臨場感や詳細な損傷の程度などは言葉では伝わりにくい。画像を共有することで、伝える時間も短縮することができた。具体的には、写真を撮影し、データの送信に10秒、ホットラインを受けた医師が画像伝送を受けるパソコンまでの移動、立ち上げで10秒ほど、画像を見ながら言葉のやり取り10秒ほどで約30秒ほどで受け入れ可否が分かった。画像がなければ状況の説明に数分必要になったと思われる。まさに「百聞は一見に如かず」である。画像と口頭による情報伝達の手法を組み合わせ、うまく活用することが大切である。

現在、大阪府救急・災害医療情報システム(通称ORION)の搬送支援システムに含まれる画像伝送アプリでは夜間モード等のカメラ機能を調整する機能がないため、うまく写真が取れないことがある。またデータ量が多すぎると送信時間が長くなってしまったり、エラーになったりするため、機能を十分に理解することや、システムの改善を要望していく必要がある。

5.結論

(1)手押しの耕運機に右下肢が巻き込まれた症例を経験した。

(2)画像転送により医療機関へ情報を伝えたことで手術の待機時間を大幅に短縮することができた。

ポイントはここ

外傷における画像の威力はここに書かれている通りである。口では伝わらないことも、写真や動画があれば瞬時に伝えることができる。この症例の場合なら、受傷機転や受傷部位が把握できることから、大まかな術式や必要機材を決めることができる。今は相手の電話番号さえ分かればスマホで簡単に画像を送ることができるのだから、積極的に活用してほしい。

名前:津田和宏(つだかずひろ)
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所属:茨木市消防署水尾分署
出身地:大阪府高槻市
消防士拝命年:平成11年
救命士合格年:平成24年
趣味:植木の剪定

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