月刊消防 2024/10/01号 p74-5
捻挫と骨折を見分けるルール2つ
目次
はじめに
世の中は新型コロナから解放されて、社会活動は正常になった。私も去年から学校関係であちこちに呼ばれて応急処置の話をしている。
どこの会場に行っても聞かれるのは、捻挫と骨折の見分けかたである。「結局のところはレントゲン写真を見ないとわからない」と述べるのだが、参加者は簡便で覚えやすい方法を教えて欲しいという。そこで今回は世界的に普及しているルール1つと、そのあと出てきたルール1つを紹介する。
なお、感度とは、選んだ集団の中に目的の人が含まれている割合のことで、これが大きければ見逃しが少ないことになる。特異度とは選んだ集団の中で目的の人が含まれている割合で、これが大きければ間違って選んだ割合が少ないことになる。
オタワルール(001)
オタワルールとは、足関節の痛みを訴えて来院した患者に対して、レントゲン撮影を行うかどうかの判断基準である1)。1992年、オタワ市民病院の救急医によって、無駄なレントゲン撮影を行わないために提唱された。以下の6つの症状のどれか一つでも当てはまれば骨折を確認するためレントゲン撮影を行う。
①脛骨下端(内くるぶし)より上方6センチまでの後方の圧痛
②腓骨下端(外くるぶし)より上方6センチまでの後方の圧痛
③第五中足骨基底部の圧痛
④舟状骨の圧痛
⑤患肢で4歩以上荷重ができない
①②は足関節(内顆外顆)骨折を、③は中足骨骨折を、④は舟状骨骨折を想定している。
オタワとはカナダの首都である。筆者らによれば、足首の骨折があった患者は689回のレントゲン撮影を行った中で70件であり、「内容は足首の痛みあり」かつ「年齢が55歳以上」かつ「「左右どちらかの踝の前縁もしくは後縁で骨の圧痛がある」もしくは「受傷直後と救急外来の両方で荷重できない」」との条件で骨折の判明率は感度1、特異度は0.40%であった。
先に述べたように、もともとの目的はレントゲン撮影をするかしないかの判断のためにつくられたものであるが、このルールは骨折と非骨折(多くは捻挫)の鑑別として世界中に広まっている。私も「上方6センチまでの後方の圧痛」という介達痛については知っていたが、これがオタワルールの一部だとは知らなかった。
今から30年以上前のルールなので、追試はたくさん行われている。2022年のメタアナリシス論文2)では13カ国15論文8560例を対象とし、感度は0.91、特異度は0.25としている。これより前、2016年に発表されたメタアナリシス論文3)では、66論文を対象としている。この66論文に共通しているのは感度の高さと特異度の低さであり、全体として感度は平均0.994(範囲0.979-0.998)、特異度0.353(0.288−0.423)であった。

ベルンルール(002)
このルールはオタワルールの特異度の低さを補うために2005年に発表されたルールである4)。ベルンとはスイスの首都であり、ベルン大学の整形外科医師によって発表された。以下の3つの徒手検査でどれか一つでも痛みを訴えれば骨折を確認するためレントゲン撮影を行う。
①くるぶしから10cm上方で左右から押す
②内くるぶしを押す
③足を前後から押す
筆者らの報告では、354例に対し前向きに検討したところ感度100%、特異度91%であり、オタワルールより格段に良い成績を収めている。
このルールも発表から20年近く経っているので、追試が行われている5)。検者は救急医レジデントとトリアージナースである。203例に対してオタワルールとベルンルールが実行されており、レジデントの場合はオタワルールの感度0.97特異度0.29、ベルンルールの感度0.69特異度0.45であり、トリアージナースはオタワルール感度0.86特異度0.25、ベルンルールの感度0.86特異度0.40であった。オリジナル論文は整形外科医がデータを取っているのに対して、追試は非整形外科医が行っている。特異性が低いのは仕方ないとしても、ふるい分けに当たる感度が低いのはいただけない。

ふるい分けとして有用
オタワルールは日本では整体師や柔道整復師に広く普及しているらしく、ネットで検索すると大量の記事が見つかる。整体師や柔道整復師はレントゲン撮影はできないので、骨折の判断に有力なルールとなるようだ。今回紹介した2つのルールは、救急隊員にとっても病院選定の判断の一助となるだけでなく、自分が捻挫をした場合にも役立つだろう。ただ、臨床検査として考えた場合に特異度は非常に低い。これらのルールに当てはまった場合は「骨折している可能性ある」程度に考えるべきだ。
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