健康教室2024/9/10(10月号)p58-9
応急処置アップデートQ and A
現場から動かす?それとも様子を見る?
目次
Q
既往歴がなく、突然意識を失って倒れた生徒がいた場合、どのような場合だったら担架等で保健室に運び、どのような場合だったら動かさずにその場で様子を見た方が良いのか、判断する基準はありますか?意識不明の場合には移動させず、救急要請し、その場で救急隊を待つ対応でよろしいでしょうか。
高校の先生からの質問
A
大人数で愛護的に安全な場所に移動させましょう
解説
私が医者になる前は、倒れている人、特に脳卒中患者は道の上であっても「触るな」「動かすな」が当たり前に言われていました。当時は医学的知識はなかったので理由はわかりませんでしたが、今考えると理由は動かすことで頭蓋内で再出血が起こるのが理由だったのでしょう。
1.「動かすな」の原因となったくも膜下出血(001)
くも膜下出血とは、脳の表面を走る動脈が破裂して脳表面とくも膜との間に出血するものです。予後を決める最大の因子は発症時の意識障害の程度ですが、発症後に予後を悪化させる因子として再出血があげられています。再出血は発症後24時間以内に多く発生し、特に発症初期が多くみられます。再出血を避けるために患者には安静を保たせ、侵襲的な検査や処置は避けた方が良いとされています1)。

一方で、くも膜下出血発症直後から病院に収容されるまでに全身の痙攣を起こす割合は全体の患者の17%に上りますが、痙攣と患者の予後は無関係とされています2)。安静を保つためには搬送しない方がいいのですが、それでは検査や手術はできません。発症直後の全身痙攣でも再出血が起きないのでしたら、静かに移動することは許されるでしょう。
2.外傷患者では(002)
倒れた場所から病院への搬送は患者に負担をかけるし搬送している間は処置がおろそかになります。これに対して倒れた場所で処置を行えば患者への負担を抑えることができ、患者の状態を安定させて病院へ向かうことができます。この観点から、現場で処置を行うか何もせずに病院へ走るかの議論が行われてきました。

銃創などの穿通性外傷患者を対象とした研究では、現場滞在時間が長いほど病院到着時死亡率(心拍再開しなかった患者)・24時間死亡率・病院内死亡率が上昇することがわかってます3)。このため外傷患者では現場滞在時間を最低限にして一刻も早く病院に駆けつけることが求められています。
3.搬送と現場滞在の比較(003)
表1に示しました。搬送によって患者の負担はかかりますが、処置する側は慣れた場所で豊富な資機材を扱うことが可能になります。一方、現場に滞在することで最も厄介なのが野次馬管理です。必要資機材も他から持ってくる必要があるため、搬送より多くの人数が必要となります。これらの項目から、この稿では速やかに保健室などに運ぶことを勧めています。

表1
搬送と現場滞在の比較

4.搬送方法(004)
第一選択は担架です。出来合いの担架がなければ毛布と棒で担架を作ったり戸板などを利用して搬送します。患者が自分で体勢を維持できるのなら車椅子を用います。どの方法であっても可能な限り人数を確保して、患者が落ちないように、揺れを最小限にして運びます。

養護の先生が経験した症例
中学3年の女子生徒で、集会後に立ち眩みを起こして、吐き気、顔面蒼白になり、倒れたことがありました。内線で、体調不良で動けないようだという連絡があり、救急バックを持って駆け付けました。休み時間だったため、近くの空き教室に運びました。救急バックに袋に入れたタオルをいつも準備しているので、それを枕がわりにして寝かせました。他の教員からドアに紙を貼ってもらい、廊下から見えないようにしました。保健室から毛布、車いすを持ってきてもらい、毛布を床に敷いて足を高くして観察しました。20分ほどで顔色が戻り、歩けるようになったので保健室に連れて行きました。車いすは使いませんでした。もし、体調が戻らなかったら救急要請したと思います。
年度始めに、食物アレルギー、運動誘発性アナフィラキシーについての職員研修を行っていますが、体調不良者は動かさない、ためらわずに救急車を呼ぶ、ということをお願いしています。
文献
1)脳卒中ガイドライン2009 p187
2)Neurology. July 25, 2000;55(2):258-65
3)Am Surg 2024 Jan;90(1)46-54


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