近代消防 2024/09/11 (2024/10月号)p86-9
長崎市消防局のオリジナル絵本「おうちのアブナカ」を用いた予防救急の推進
長崎市消防局警防課
川渕崇
目次
1.絵本作成の経緯
「おうちのアブナカ」とは長崎市消防局が平成29年度に作成した絵本で、「アブナカ」とは長崎の方言で、「危ない」を意味する言葉です。
これまで、救急車を呼ばなくてはならないケガや病気を未然に防ぐ取り組みを予防救急と位置付け、この啓発手段として救命講習を利用したチラシ配布を行っていましたが、広報における期待値とは裏腹に、この手段による予防救急の広報が市民の皆様にどれほど伝えられているのか疑問がありました。
当時、予防救急という言葉が世間の認知度がまだまだ低い中、予防救急の啓発においても、これという広報手段にたどり着いておりませんでした。
そこで、より効果的な予防救急の啓発において、こどもたちをはじめ皆様に対して「楽しい」、「わかりやすい」、「親しみがある」オリジナルのキャラクターを用いて広報ができないか工夫した結果、実際に起こりえる事故とその予防策について、楽しく学べる長崎市消防局のオリジナルの絵本「おうちのアブナカ」が誕生しました。

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「おうちのアブナカ」表紙
2.ストーリー
ある日、主人公のゆういち君が、おでかけをすることになり、ペットの「バウ(犬)」と「ニャン(猫)」は、ゆういち君から、留守番をするようお願いされました。
しかし、バウとニャンはゆういち君がいないのをいいことに、家の中でおもいっきり遊んでいて、転んでけがをしてしまいます。
そこに駆け付けた救急隊員の「キューイチ」と一緒に、おうちの中での危ない行動や、危ない場所に潜む謎の生き物「アブナカ」たちを見つけて、予防救急を訴えるという内容です。
この絵本には、様々な救急現場を経験した消防職員たちが、ちょっとした不注意から起こる家の中での事故から子どもたちを守りたいという思いが込められています。

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ゆういちくん

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バウ

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ニャン

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ゆういち君から、留守番するようをお願いされるシーン

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家の中で転んでけがをするシーン

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キューイチ登場シーン

008「アブナカ」たちを見つけるシーン
3.絵本の活用
(1)絵本
絵本は、保育園、幼稚園や図書館などに配付しました。
絵本を読んだこどもたちからは、「あ、あそこがあぶない!」や「そこにアブナカがいる!」といった声が聞かれるとともに、この絵本の内容をこどもたちが家に帰って、家庭内で話をしたり、自分の家の中にいる「アブナカ」たちを家族で探すなど、予防救急を身近に感じてもらうことで、予防救急の輪が広がりをみせ、市民の認知度も高まってきています。
その後、より多くのこどもたちに読み聞かせができるように、平成30年度に、紙芝居も作成し、絵本と同様に保育園、幼稚園や図書館などに配布しました。
読み聞かせの際には、こどもたちは指を指して「そこはアブナイよ!」などの嬉しい声も聞かれました。

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紙芝居の読み聞かせ
(2)かるた
さらに、こどもだけではなく、事故のリスクの高い高齢者への予防救急啓発ツールとして、同年度に、「おうちのアブナカ消防かるた」を作成しました。
高齢者が地域のイベントなどで予防救急を遊びながら学ぶことができます。
消防かるたは、地域のふれあいセンターや老人クラブなどへの配付のほか、消防署でも貸し出しを行っています。
かるたの内容は、予防救急だけでなく、火災予防や応急手当の内容を加え、読み札は、幅広い年齢層からの目線で作成できるように、婦人防火クラブや高校生防災サポーターなどから募集しました。
また、読み札については、高齢者にも読みやすいようにできるだけ大きな文字で、見やすいフォントとするなど、見た目にも工夫を凝らしています。
かるたで遊んだ高齢者からは「キャラクターがかわいい!」「遊びながら学べるからわかりやすい」などの声がきかれ、その後の救急講話や防火講話についても、以前とは比べものにならないほどの興味をもっていただけるようになりました。

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おうちのアブナカ消防かるた






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予防救急火災予防応急手当
(3)リーフレット
日頃から行っている救命講習会でも、予防救急の啓発を効果的に行うために、令和4年度に「おうちのアブナカ」に登場するキャラクターを使って、リーフレットを作成しました。
一方的なお知らせとならないよう、A3版の二つ折り見開きには、絵本のストーリーをベースに、物語の主人公「キューイチ」と一緒に予防救急を学ぶ構成とし、救命講習会のなかで、予防救急について理解を深めるという内容となっています。

014かるたで遊ぶ高齢者


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予防救急啓発リーフレット表予防救急啓発リーフレット裏
4.今後の展開
最近では、地域のイベント等で、リーフレットの配付や、絵本の紹介などをおこなっていると、イベントに参加しているこどもたちが、「あ!アブナカやん!」「キューイチだ!」などの反応を見せてくれるようになり、絵本から生まれたキャラクターたちによって、だんだんと予防救急の輪が広がりをみせています。
今後も、この魅力的なキャラクター達を活用して、工夫を凝らした予防救急や救急車適正利用の啓発などに取り組み、安全で安心して暮らせる街、長崎を目指します。
5.入手方法
絵本、紙芝居、カルタ、リーフレットは長崎市消防局のホームページからダウンロードできます。「おうちのアブナカ」で検索するか、QRコードを使ってください。
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氏名:川渕崇(かわぶちたかし)
所属:長崎市消防局警防課
出身地:長崎県諫早市
消防士拝命年:平成23年度
趣味:釣り


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