健康教室2024/10/10(11月号)p62-3
応急処置アップデートQ and A
鎖骨骨折やアキレス腱断裂の固定について
目次
A
鎖骨骨折の固定(三角巾など)と、アキレス腱断裂の副木固定の方法を知りたいです。
Q
固定の原則は、骨折部が動かないように上下の関節を含めることです。ただ学校にはそこまでの要求はしませんので、骨折部が動かないようにすれば大丈夫です。
解説
1.固定の目的(001)

2つあります。
(1)痛みを和らげる
骨の表面には骨膜があり、ここに知覚神経が分布しています。骨折により骨膜が裂けることで痛みを感じます。骨の周りには脂肪など組織がありますので、骨折部分が動くと周りに擦れてさらに痛みが増します。骨折部が動かなければ、少なくとも擦れる痛みはなくなります。
(2)損傷を防ぐ
上肢でも下肢でも、動脈や太い神経は骨に並走しています。骨折端が動くことで動脈や神経を傷つける可能性があります。
2.整復するか(002)

手足が折れて曲がっている場合は、望ましいのはその形のまま固定することです。そのままなら整復する時の痛みもありませんし、整復時に組織を損傷することもありません。
ただ、曲がっているそのままを固定するのは難しいことがあります。その場合は骨折部の体幹側を別の人に持ってもらい、末梢側を引きながら元の形に戻します。
3.実際の固定例(003)

(1)四肢の長幹骨
上下の関節を含めて固定します。
(2)鎖骨
三角巾など幅広い布を使って八の字を作り、両肩を固定します
(3)指
シーネを当て、周囲の指と一緒に固定します。
(4)アキレス腱
爪先立ちの形で固定します。ただすぐ病院に行くのなら、固定は不要です。腱は柔らかいので、骨のように周りを傷つけることがないためです。
4.その他の処置
(1)観察
骨膜反射といって、骨の痛みで血圧が低下することがあります。また大腿骨などの大きい骨が折れた場合には内出血でショックになる可能性があります。観察は必須です。
(2)救急車
骨折が強く疑われる場合には救急車を考慮します。全身状態が良好で痛みも自制内なら臨床的には救急車は不要ですが、学校活動で骨折した場合は救急車を呼んでも許されると思います。
(3)冷却
痛みには冷却が有効ですので、冷やしながら病院に向かいます。
養護の先生が経験した症例
<鎖骨骨折事例について>
事例1:小学6年生男子。体育で跳び箱の学習中、手を着く際にバランスを崩してしまい、右肩からマット上に転落した。保健室まで歩いて移動。両肩の高さに左右差あり、右上腕を90度以上には挙上できなかった。全身状態良好だったので、タクシーでの移送を判断し、患側上肢と体幹とを三角巾で固定し、整形外科へ搬送した。診断は右鎖骨の若木骨折とのこと。数週間、装具(バンド)を使用していた。
・・・実はこの直後、もう1件跳び箱での骨折があり、二人を一緒に搬送することにしましたが、連日の病院搬送で三角巾がなくなってしまい、ストッキネットで固定して連れて行きました。これ以後、跳び箱学習前に、三角巾の在庫を多めに確保しています。
事例2:小学3年生女子。リレーで足がもつれて転倒し左肩を地面に打ったと。体育終了後、「肩が痛い。」と来室。出血のない擦過傷があり、打撲部位が赤くなっていた。冷却では痛みが軽減せず、保護者に事情を説明の上、痛みが引かない場合は受診を勧めた。翌日整形外科で「左鎖骨骨折、頚椎捻挫」との診断された。
・・・こちら、新卒1年目で経験した事例です。肩関節の可動域を確認しませんでした。肩の擦過傷に気を取られ、肩関節と思い込み、まさか鎖骨とは考えませんでした。子どもが痛みを訴える部位と受傷部位が違うけがについて、注意点を知りたいとのことでした。→骨折があれば介達痛で把握できる可能性があります。痛いという部分を触ることが見落としは少なくなります。
<アキレス腱断裂事例について>
事例1:小学校50代担任。縄跳びの模範試技をしようと跳んだ時、着地時にバチンとアキレス腱を蹴られたような感覚とふくらはぎの痛みがあり、歩けなくなった。連絡を受け、車いすで保健室まで移送した。患側の足関節は動かすことができず、うつぶせのままシーネ固定をし、救急搬送した。アキレス腱断裂との診断だった。弾性包帯で強めに圧迫し、大腿と、ふくらはぎから足関節にかけてシーネに固定したが、救急車内で救急隊員から包帯の緩みを指摘され、アキレス腱断裂のシーネ固定には三角巾を使用した方がよいと指導された。


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