250804救急隊員日誌(243)自伝という教科書

救急隊員日誌
月刊消防 2024/11/01, p17
食いしん坊万歳

わが町は山々に囲まれた人口の半数以上が高齢者の過疎化が問題の田舎消防。この町の消防士として採用されて17年、10年の子育て日勤生活を経て、現場に戻って2年になる。救急救命士ではない私が救急車に乗れるのは月2・3回、その日に救急がなければ出動がなく、ひと月救急現場に行かない月もある。

先輩には、救急隊員として経験の違いなんて救急車を呼んでいる人にとっては関係ないのだから、消防のプロとして自覚を持てという言葉と、1件1件を大切に学べという言葉を胸に、救急車に乗り始めてからずっと、ノートに出場した日付、内容、バイタル、注意されたこと、反省点などを書き残すようにしている。そのおかげもあり、10年現場を離れ戻ってきた時にそのノートを見返してみると、現場に行っていたときの記憶が頭に思い出され、少ない件数ではありながらも、復帰の教科書となった。今は歳も階級も上がり、責任とプレッシャーに負けないよう勉強し、訓練をしているが、やはり自分が経験して失敗したこと、学んだことは教科書を見るよりも頭に残る。失敗をしてはいけないが、わかったふりや、できないことをかくして嘘をついたりするより、救急隊員同士協力して、傷病者にとって最善を考えた活動をすることが消防のプロとして必要である。そして、その時に自分ができなかったこと、今後に向けて何ができるかを振り返り、同じ失敗をしないことが大切である。出動のない日はざらにあるが、学ぶべきことはたくさんある。今後は隊員だけでなく、機関員や隊長目線での経験を自分の教科書となるよう、1件1件を大切に書き残していきたい。

ちなみに私のノートには救急出動以外にも、消火活動や救助活動、避難訓練、操縦訓練や消防署内のルールなど、業務での反省点、上司に言われた良い言葉も、忘れたくないものはすべて書き残している。嫌なことは残さない。

それは自分のためでもあるが、今後後輩たちにも教えられるように先人の知恵に学び、後進に引き継ぐためである。

人間の脳は積極的に忘れるようにできている。嫌なことは忘れるのが一番だが、そこから学ぶこと、消防隊員にとって必要なことをいかに記憶に残すかは人それぞれ。脳が積極的に忘れるようにできているなら、積極的に覚えられるよう色々なことをたくさん経験し、書き残していきたい。

誰かに見せるつもりなければ、売るつもりない。自慢するつもりもないし、同じことをすれと押し付けるつもりもない。

でも、この「自伝という教科書」は、私の宝物である。

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