月刊消防 2024/11/01, vol 46(11), 通巻545, p34-8
月刊消防「救助の基本α」~水難救助の現場から~
目次
1 はじめに
福島市は、福島県の北部に位置し、西は吾妻連峰、東は阿武隈高地に囲まれた福島盆地にあります。このような地形から、夏と冬の寒暖差が大きく、果物をはじめとした農作物が美味しく育ち、温泉の多く湧き出す地域であることから、「実・湧・満・彩(みわくまんさい)福島市」のキャッチフレーズのもと観光誘致に努めています。
福島市消防本部(001)は、面積767.72㎢、人口約27万人の福島市全域を1本部5課(消防総務課、警防課、救急課、通信指令課、予防課)、3消防署、2分署、3出張所、消防訓練センターの組織のもと、306名の職員(令和6年4月1日現在)により管轄しています。その中で、救助隊は2署に2隊(高度救助隊1隊、特別救助隊1隊)配置され、本部警防課直轄で、水難救助隊1隊が編成されており、普段は各配属署所に勤務している隊員が、水難事故事案が発生した場合は、市の中心に位置する消防本部に集結し、迅速に出動する体制となっています。

【写真1】福島県消防広域図
2 福島市水難救助隊の概要
平成14年に隊員6名で発足した当消防本部の水難救助隊は、現在、隊長以下水難調整員を含め20名の隊員で編成し、市内全域を管轄しています。
活動水域は、東北4番目の貯水量を誇り、提頂標高が300mを超える摺上川ダムのダム湖「茂庭っ湖」(002)をはじめ、市内を流れる4本の一級河川(阿武隈川、荒川、摺上川(003)、松川)となっており、主に淡水域での活動となっています(004)。

【写真2】茂庭っ湖全景

【写真3】摺上川(茂庭)

【写真4】福島市水難救助隊イメージ
3 救助訓練
当本部が行っている訓練についてご紹介いたします。
夏の行楽シーズン前に、資機材点検を兼ねた取り扱い訓練を行い、6月下旬から7月上旬の連続した5日間に集中して救助訓練を行っており、若い隊員の基礎訓練をはじめ、自然環境下での実地訓練を通して、いかなる状況にも動じない潜水知識と技術を養っております。
■市営プールでの基礎訓練
連続した5日間の集中訓練のうち、前半4日間は、潜水知識、基礎技術の確認と習得を目的として日本アクアラング株式会社から講師をお招きし、全隊員が同じ教育を受け、共通認識を持って現場活動を行うことができるように基礎訓練を行っています(005) (006)。
潜水が伴う水難救助活動は、水中という特殊環境下での活動となり、その環境自体が隊員に強いストレスを与える要因となり、ひとたびパニックを起こしてしまうと、任務遂行が出来なくなることはもちろん、重大事故に直結する危険性を有しています。
水中では常にコミュニケーションが制限されてしまう事、陸上隊との情報共有が難しい事などを「非安全要素」と捉え、活動する全隊員が同じ認識とイメージを持ち、訓練を通して仲間同士のコミュニケーションを図り、身体能力面、精神面を相互理解し合うことが、安全性及び迅速性を高めることに繋がるものと考え、訓練メニューを作成しています。
さらに、講師の指導のもと、若年隊員向けの基礎訓練だけではなく、指導を担当するベテラン隊員に対しての訓練にも力を入れています。検索訓練(007,008,009)や応用訓練など、訓練の指導方法や訓練メニューの作成、安全管理時の着眼点などを学び、訓練時には安全かつ適度な負荷の与え方によって、現場活動を行う際に常に冷静な判断と行動が出来ることを目指します。
自然環境下で潜水する際は、隊員が安心して潜水活動を行えるよう、現場環境や潜水環境の注意点や着眼点などについても指導していただき、自然環境下での実活動に向け、各個人の身体的、精神的スキルを磨き、活動中の事故を発生させない仕組み作りに日々取り組んでいます。

【写真5】潜水教養の様子

【写真6】水中を想定した陸上での検索訓練

【写真7】検索訓練

【写真8】検索訓練

【写真9】検索訓練
■自然環境下(摺上川ダム湖)での実地訓練
訓練の最終日は、集中訓練期間の集大成として摺上川ダム湖『茂庭っ湖』での実地訓練を行います(010)。
好条件が揃うプールとは環境が大きく異なる自然環境下での潜水活動は、より厳重な安全管理が必要となります。透明度が高く陸上からも常に各隊員の様子が伺えるプールでの訓練に対し、ダム湖での訓練は、山間部で高所潜水となる他、水温は夏季であっても約15度と低く、また透明度、透視度ともに極めて悪いため、潜水隊員の視界はほぼゼロでの活動となります。
事前に潜水を行う水域の下見を行っていますが、天候等によって水量や水温など活動環境が大きく変化することも少なくありません。同じ場所=同じ環境ではないことを念頭に、訓練に臨んでいます。
【訓練内容】
検索ロープ設定訓練、潜降訓練、潜水深度約10m地点での広範囲検索訓練(環状検索・ジャックステイ検索等)、ボートを使用した救出訓練など実現場を想定した訓練を行います。
【訓練隊員の声】
市民プールでも数多く検索訓練を行っていますが、ダム湖での訓練は、自然環境という潜水環境も相まって、潜水深度及び検索隊形の維持はとても難しく、視界が自身の腕の長さ程度の距離であるため、目だけに頼らず、ロープの角度、張り具合などを手で感じ取り、前後左右だけではなく上下も調整し一列に検索しなければならないという通常の消防活動ではあまりない3Dな検索隊形維持が求められます。

【写真10】自然環境下訓練
さらに、プールは深度が1.6mであるため、耳抜きが必要ありませんが、ダム湖の訓練では、耳抜きが必須となり、訓練当日の体調によって耳抜きが上手く出来ないときは、潜水活動には参加せず、陸上部隊もしくはボート部隊として活動し、検索ロープの設定補助や救出したダミー人形のボート内収容訓練の船上隊員として訓練に参加することで、訓練時間を無駄にしない訓練体制となっています。
また、福島市消防本部の水難救助隊は、兼任部隊であるため頻繁に訓練を行うことができません。そのため、自然環境下で行う実地訓練は大変貴重な機会と捉え、時間を無駄にしないように隊員同士でも訓練準備や機材設定など工夫して訓練に参加しています。
4 福島県警察との合同訓練
当消防本部では、令和3年度から災害現場での連携強化を目的として、福島県警察機動隊との合同訓練を行っています(011)。
以前、福島市内で水難救助事案が発生した際、福島市水難救助隊と福島県警察機動隊の潜水部隊が同じ現場に出動し活動しましたが、検索方法やロープ信号等に違いがあり、円滑な共同活動を行うことが出来ない場面がありました。
そのことを契機に、福島県警察機動隊との合同訓練を始めて今年で4年目となり、今では練度が高まっていますが、初めて合同で水中検索訓練を行った際は、とても円滑とは言えない合同訓練だった苦い思い出があります。
そこで、訓練の都度消防・警察で何度も話し合い、意思疎通が困難となる水中で円滑な連携活動を行うため、検索手順やロープ信号などの基本事項の確認からはじめ、検索ラインの設定など陸上での活動手順についても協議、共通認識を持つことで、災害現場での消防・警察が連携した迅速性の高い救助活動につなげることが出来ました。
水難救助活動に限らず、住民の安心安全を守る組織同士、人を助けたいという思いは消防も警察も同じです。今では毎年の恒例となった合同訓練を通じ、消防・警察間で積極的にコミュニケーションを図り、お互いの顔が見える関係を構築することは、より良い現場活動、ひいては充実した住民サービスに繋がるものと考えております。

【写真11】消防×警察訓練風景
5 福島県消防防災航空隊との合同訓練
不定期ではありますが、福島県消防防災航空隊との合同訓練も行っています(012)。要救助者を救出した際に航空隊への要救助者の引き渡し手順やヘリコプターによるダウンウォッシュを実際に受け、水面活動にどのような影響があるか体験し、水難救助現場で消防防災航空隊との連携活動が必要となった場合、スムーズな連携がとれるよう努めています。

【写真12】福島県消防防災航空隊との訓練
6 結びに
平成14年に福島市水難救助隊の発足にご尽力いただいた関係者及び諸先輩方に敬意を払い、発足より22年間、つないできた知識と技術を基に築き上げてきた福島市水難救助隊をさらにアップデートし、安全・確実・迅速な水難救助活動を継続して参ります(013)。

【写真13】集合写真
完
寄稿:福島市消防本部水難救助隊

水難救助副隊長
斎藤 直樹(さいとう なおき)
所属:福島市消防本部 消防総務課
趣味:食べ歩き
顔写真添付

水難救助隊員
濱名 大樹(はまな たいき)
所属:福島市消防本部 福島南消防署 信夫分署
出身地:福島県南相馬市
趣味:登山、バイク


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