260519救急隊員日誌(254)ラスボスは倒した。でも、冒険はまだ終わっていない

救急隊員日誌
月刊消防 2025/10/01, 47(10)通巻556号 p71
勇者

今朝の出場は、80代男性の胸痛。呼吸は浅く、脈は橈骨で触れず、血圧も低下傾向。

奥さんが不安そうに「この人、大丈夫でしょうか…」と何度も繰り返す姿に、緊張と責任の重さを改めて感じた。早急に直近の循環器病院へ搬送。消防署へ戻る帰り道、ふと学生時代に書いたレポートが頭をよぎった。

あれは実習中のミニテストで微妙な点数を取ったときだった。教授から「次回の実習までに、観察と判断についてレポートを書いて提出するように」と指示された。

翌週、面倒だと思いながら適当に済ませたレポートには、赤ペンでこう書かれていた。

「このままだと現場で正確な判断ができない。このレポートの意味を考えて。」

当時は「毎回レポートかよ…」と正直うんざりしていた。

でも今ならわかる。あの時のレポートは、ただの“宿題”じゃなかった。

それは、大きなアウトカムに向かう過程の中の、ひとつのアウトプットだったのだ。

教授が授業の終わりによく言っていた言葉がある。

「目的と目標、アウトプットとアウトカム、よく聞くよね。某テレビゲームを思い出してみて。魔王を倒すのが目標でありアウトプット。世界に平和が戻るのが目的でありアウトカム。目標と目的を混同してはダメだ。レポートを出すことが目的じゃダメだ。それは目標であり、目的ではない。君たち学生の今のラスボスは国家試験。でも本当の目的は、市民の命を救い、安心を届けることだろ。毎回のレポートを適当に書いていたら、レベルは上がらない。」今、その言葉が痛いほどリアルに感じられる。

よく少年漫画のラストで「彼らの戦いはまだまだ続く!」なんて文字がドーンと出てくるけれど、まさに俺たちのことだ。ただの連載打ち切りなんだと思っていたけど、違うのかも知れない。

たしかに、数年前に国家試験という学生時代のラスボスは倒した。けれど、俺が退職すれば役割は終わるかもしれないが、市民の命は尽きることがない。だから、救急隊の戦いは終わらないのだ。

出動から帰ってきたあと、後輩がぼやいていた。「隊長、この事案は活動要約の提出ですか?」

私は、判断に苦慮した事案などは隊員にレポートとして活動要約の作成を課している。

「当然、そうだよ」と返す。

「(またか、みたいな顔)・・・はい、了解」という隊員。俺は笑って返した。

「お前が書いてるその活動要約、ただの宿題じゃないぞ。それが、お前を“本物の勇者”にしてくれるんだよ。」隊員はきょとんとしていたが、いつかわかる日が来るだろう。

スライムと戦っていたあの頃の勇者は、いつの間にか中ボスを倒せるようになっている。

俺も、まだまだレベルを上げていこう。市民の安心・安全というアウトカムのため、次の現場へ向かう。

そうか、ここで使うのか。

「俺たちの戦いは、まだまだ続く。」

(…ちなみに俺の違う意味でのラスボスは、うちの嫁さんかもしれない。これは伏せておこう。)

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