260523最新救急事情(269)現場滞在時間の最適値

最新救急事情

月刊消防 2025/10/01号 47(10), 通巻556号 p78-9

現場滞在時間の最適値

目次

はじめに

救急隊は現場でどれほどの時間をかけて患者をケアすべきか。Load and go(現場で最低限の処置をして出発), scoop and run(掬い上げて病院へ走れ)という対立する概念はそれぞれ説得力を持っている。論文ではどう解釈されているだろうか。

8-16分が最良だという論文

2014年、京都大学の石見先生のグループが発表した論文1)では現場滞在は8-16分がベストとしている。だが内容はかなり怪しい。

ソウルで2008年から3年間、大阪で2007年から3年間で発生した目撃のある心臓由来の病院外心停止症例についての後ろ向き解析である。ソウルと大阪を混ぜたのは、ソウルでは現場滞在時間が短く、大阪では長いためらしい。対象患者はソウルで3594例、大阪で4163例。現着から車内収容までの時間(現場滞在時間)で3群に分けた、すなわち8分未満の短時間群、8分から16分未満の中時間群、16分以上の長時間群である。評価項目を見ると、心臓の動きが戻り入院にこぎつけた生存入院率は短時間群31.8%、中時間群35.7%、長時間群32.6%であり、時間群が有意に優れていた。生存退院率は短時間群13.7%、時間群13.1%、長時間群11.5%で有意差なし。神経学的に良好な退院患者の割合は短時間群に対して中時間群と長時間群で有意に高かった。

本当だろうか。なぜソウルと大阪を混ぜたのだろうか。東京と大阪を混ぜるならともかく、違う国を混ぜるのは筆者の望む結果を誘導している可能性がある。

論文の考察では、ソウルと大阪の違いが載っている。大阪と比較してソウルの救急隊員は気道確保器具は使わず、病院に一刻も早く病院に担ぎ込むことが推奨されているらしい。実際に短時間群の86%の患者はソウルの患者であり、時間群の66%は大阪の患者である。患者背景では大阪と比較してソウルの患者は若く、公共の場所以外で卒倒を起こし、バイスタンダー心肺蘇生は少なく、心室細動の割合も少ない。若い以外は蘇生に不利である。だから、この論文は信用できない。時間群はソウルの状況を示しており、時間群は大阪の状況を示しているに過ぎない。

4-8分が最良という論文

2017年には、今度は韓国単独のデータを用いた論文2)が出ている。2012年から2014年の心原性病院外心停止患者79832例を対象とした後ろ向き研究である。現場滞在時間は0-4分未満の短時間群、4ー8分未満の中時間群、8ー12分未満の長時間群、12-60分未満の超長時間群とした。評価は神経学的に良好な退院患者の割合である。結果は4つの群とも有意差は見られなかった。これを病院到着前に自己心拍が再開した患者としなかった患者を区別した場合、自己心拍再開患者では有意差はなかったが、自己心拍が再開しなかった患者では中時間群で有意に神経学的に良好な患者割合が高かった。この結果から現場滞在時間は4-8分未満が最良としている。

この論文を読むと、最初に紹介した論文はやはり、大阪とソウルを混ぜることで恣意的に結論を作ったのだろうと考えてしまう。さらに、現場で自己心拍再開しなかった群を無理やり取り上げていることから、現場滞在時間と予後の関連は極めて薄いことがわかる。

自己心拍再開のためには現場滞在41-60分

前述した論文2つは神経学的な患者評価であった。2018年にアメリカ・マイアミの患者データを使った論文3)では自己心拍再開を評価ポイントとしている。対象は2016年にマイアミ市消防局で扱った病院外心停止患者583例。そのうち外傷性心停止などの患者を除外して384例を解析した。その結果、現場滞在時間が41-60分の群で最も良好な自己心拍再開率(52%)を得られたとしているが20分以下、21-40分以下、61-80分以下の群との有意差は見られなかったとしている。

自己心拍再開を得るためには現場で粘れば良いことを示しているのだが、この論文の最大の欠点は標本数が少ないこと。61-80分以下の群は全部で3例、自己心拍再開はそのうちの1例しかない。なので本当かどうかはわからない。

自己心拍再開は16分まで

最後は2013年にアメリカ・ピッツバーグから発表された論文4)。2005年から2011年の間に病院外での非外傷性心停止患者のうち、医療従事者による心肺蘇生または除細動を受けた患者1014例について、自己心拍再開までの時間と退院時の神経学的後遺症の程度の関係を調べた。その結果、生存退院率は11%で、ほぼ介助を必要としない状態の患者は6%であった。このほぼ介助不要な患者の89.7%は蘇生開始から16.1分以内に自己心拍が再開した。逆に、心肺蘇生時間が16分を超えてしまうと、自己心拍が再開しても神経学的後遺症が軽く済む確率は1%未満であった。考察で筆者らは、10分から15分で自己心拍が得られない場合は、同じことを繰り返しても良好な生存率の増加には繋がらないと述べている。

結局正解はなさそうだ

神経学的に良好な患者割合はもとより、自己心拍再開率という単純な事象を取ってもそれぞれの論文で結論は異なる。また研究が行われた国によっても救急隊が行う処置は異なる。現場にどのくらいの時間滞在するか。論文から正解を探すのは難しそうだ。

文献

1)Resuscitaion 2014 Feb;85(2):203-10

2)Am J Emerg Med 2017 Nov;35(11):1682-90

3)Cureus 2018 Oct 9;10(10):e33434

4)Circulation 2013 Nov 17:128(23):2488-94



 
 

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