近代消防 2025/12/15 (2026/01月号) p49-51
一次医療機関への事前調査が重症者への早期医療介入に奏功した症例
野村将規・大野遥平・有重心・増田慎吾・村本満昭
備北地区消防組合消防本部
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1.備北地区消防組合消防本部の紹介
備北地区消防組合は広島県の北東に位置し、東は岡山県、北は島根県、鳥取県に接しており、管内面積は広島県の約24%にあたる2,024.63k㎡と広大である(001)。中国地方を縦断する中国山地の山陽側に位置する当組合の地勢は、北部においては、道後山、比婆山等の1,000m級の高峰が連なり、変化に富んだ自然環境を形成し、急峻な渓流(002)や棚田の広がる美しい里山の景観を作り出している。管轄する2市のうち,庄原(しょうばら)市には冬になると積雪が1mを超える豪雪地帯もあり、三次(みよし)市では夏に行われる鵜飼や、晩秋の霧の海(003)など四季折々に変化するその姿は私達の目を楽しませてくれる。
当本部は,1本部,3消防署,7出張所を配しており,消防職員は定数210名,救命士数57名(実働救命士51名)で,救急車両は15台(予備車2台含む)を運用している。令和6年救急件数は4,850件であった。

001
備北地区消防組合の地勢及び署所の配置図

002
帝釈峡(庄原市)

003
霧の海(三次市高谷山)
写真協力:一般社団法人三次観光推進機構・12:14庄原観光ナビ
2.はじめに
医療機関は,基幹病院である二次医療機関が2施設あるが,一般道を経由し1時間程度かかる地域もある。また,管内に三次医療機関がなく,高速道を利用しても1時間程度かかるため,重症者に対してドクターヘリとの連携が不可欠である。なお,当本部は地域によって第一選択のドクターヘリ要請県が異なり,広島県はもちろん,島根県,鳥取県もそれぞれ第一選択としている。
ドクターヘリの運行は気象条件に左右される。観光資源である「霧の海」こそが,時にドクターヘリが飛来できない原因になる。このような地域の特性から、ドクターヘリを呼べない場合への何らかの対策が必要だと考えた。
3.直近一次医療機関の調査
そこで私は,直近一次医療機関で応急処置が行われれば有益になると考え,緊急時における初期対応可否の調査を行うことにした。
私の勤務する出張所管内の一次医療機関でアナフィラキシーショックに対して初期対応できるかどうかの結果を表1に示す。この表は救急車内に掲示してあり(004)、誰でも一目で確認でき,有事の際は自信を持って連絡できる体制としている。なお、対応可能であった医療機関が諸事情により対応できなくなっていたり、救急車内の資機材の提供があれば気管挿管可能と協力的な医療機関もあり様々で、毎年、電話調査や予防査察時に聞き取りを行い更新している。

表1
アナフィラキシーショック初期対応医療機関

004
救急車内に掲示してある
4.症例
この事前調査が功を奏した症例を経験したので報告する。なお、写真は全て再現である。
令和5年11月初旬の午前8時頃,75歳男性が蜂に複数箇所刺されショック状態との通報。ドクターヘリは天候不良(濃霧)により飛来不可能,現場から地域基幹病院までは救急車での陸路搬送で25分の時間を要する場所であった。
出場途上,重症アナフィラキシーに対する初期対応可否について調査していた一次医療機関へ状況を伝え(005),初期対応可否の確認を行い現場へ向かった。現場到着時,傷病者は意識レベルJCS20、気道,呼吸,循環すべてに異常があり(006)(表2),皮膚所見(007,008)も含めて明らかなアナフィラキシーショック状態だった。過去3回スズメバチに刺されてるがエピペンの処方はされていないと聴取した(009)。直ちにアドレナリン筋注が必要と判断し,対応可能と返答を得た一次医療機関への搬送を決定した。一次医療機関到着後は医師によりアドレナリン筋注などの処置が迅速に行われた。間もなく嚥下困難まで陥っていた傷病者は会話可能になるまで回復した(表3)。その後地域基幹病院へ転送となり、翌日退院した。

005
出場途上に調査していた一次医療機関へ状況を伝えた

006
傷病者のようす

007
皮膚所見

008
前頸部から上胸部の発赤が著明

009
エピペンの処方はされていないと聴取した

表2
接触時のバイタルサイン

表3
アドレナリン投与前後のバイタルサインの変化
5.考察
現場から医療機関までの所要時間については,一次医療機関までは10分,地域基幹病院までは25分で,医療介入まで15分の差があった。また,現場から一次医療機関,地域基幹病院それぞれの搬送経路は別方向であった(010。出場隊においては,事前の調査結果を救急車内に掲示し,悩むことなく連絡できる体制がとれており,さらには連絡した一次医療機関から対応可能と返答を得たため,迷わず,自信をもって一次医療機関での初期対応実施を選択した。結果,重症アナフィラキシーに対して早期医療介入できた本活動は,傷病者に対して大変有益であったと考える。
当地域は重症者に対してドクターヘリとの連携が不可欠である。しかしながら本症例のように,地域の特性でもある霧によりドクターヘリが飛来できないケースも少なくないのが現状である。しかし,救急搬送依頼を突然受けても対応できない一次医療機関が多いのが現状であり,時間との勝負である重症アナフィラキシーに対し,対応可否不明の医療機関に何も担保がない状態で連絡することはリスクを伴う。予め調査しリストアップすることで結果的に早期医療介入につながった本症例は,各医療機関の医師や看護師から理解や協力を得ることができ,医療機関情報を把握できていたからこそ結実したと考る。これからも医療機関側とは顔の見える良好な関係性を築き,地域医療を盛り上げ,傷病者に対して早期医療介入の一助となれるよう努力を重ねていくつもりである。

010
初期対応の医療機関は地域基幹病院とは別方向であった
ポイントはここ
アナフィラキシーの治療は私が医者になった40年前から変わっていない。すなわち、発見したらすぐアドレナリンを筋肉注射し、次に輸液しながらステロイド投与、あとは症状に応じて気道確保と気管挿管、さらにドパミンなどの循環作動薬投与である1)。アドレナリンの代わりとしてノルアドレナリン・バソプレッシン・メタラミノール・ドパミンが研究対象となったがどれもアドレナリンに勝る効果は証明できていない2)。
アドレナリンは可能な限り早期に投与する。この点から本症例は価値のある報告である。一方で、アドレナリンを速く確実に全身に行き渡らせるためには静脈路を確保したのちに静脈投与したほうがよさそうだが、どの国のガイドラインでも禁中が第一選択となっている。これは静脈投与は筋肉注射に比べて副作用が多く、特に危険な不整脈を惹起する可能性があるため避けられている2)。ただ、手術中などで循環動態の十分なモニターができる環境ではアドレナリンの静脈内投与が行われる2)。
文献
1)Int J Emerg Med 2025 Mar 17; 18;57
2)Clin Exp Allergy 2024 Jul; 54(7);470-88

氏名 : 野村 将規(のむら まさのり)
出 身 地 : 広島県三次市
消防士拝命 : 平成23年
救命士合格 : 令和元年
所属 : 備北地区消防組合消防本部 三次消防署吉舎出張所
趣味 : 高校野球観戦

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