260908救助の基本+α(114)急流下での潜水救助現場における効果的なアンカー設定について_桑名市消防本部_水野昭仁_花井太

基本手技


月刊消防 2026/03/01, p37-41

急流下での潜水救助現場における効果的なアンカー設定について

桑名市消防本部(三重県)
桑名市消防署
長島木曽岬分署
消防司令補
花井太

1はじめに


この度、救助の基本+α「急流下での潜水救助現場における効果的なアンカー設定について」を担当します。桑名市消防署長島木曽岬分署の花井太と申します。

2桑名市消防本部の紹介


私たちの消防本部は本州のほぼ中央、太平洋側に位置し、三重県の最北端に位置する2市2町(桑名市、いなべ市、木曽岬町、東員町)を管轄する消防本部です。東は愛知県、北は岐阜県、西は滋賀県と多くの県境と接しており、他県との交流が盛んな地域です。


桑名市は、木曽三川(一級河川の揖斐川、長良川及び木曽川)の水郷として知られる歴史ある街です。城下町として面影を残す街並み、多度大社をはじめとする歴史ある寺社仏閣、ナガシマスパーランドやジャズドリーム長島等の観光施設も数多く存在する魅力ある街です。
管轄人口は212,562人(令和6年4月時点)、管轄面積は394.9㎢、消防組織は1本部、3署、5分署、職員総数は259人です。

3水難救助隊の体制等について


水難救助隊は、水難救助事案の発生確率の高い木曽三川を管轄する桑名市消防署と長島木曽岬分署に配置されており、発災時にはそれぞれの署から出場し対応しています。隊員は21名(うち養成訓練実施中の隊員4名)で月に2回程度、管内の河川、ダム及び三重県消防学校で水難救助訓練を実施しています。その他、三重県消防学校のカリキュラムの一つである水難救助課程の指導員として1名を派遣しています。

4考案経緯


桑名市消防本部は豊かな緑の鈴鹿連峰と養老山系を背後に、広大な濃尾平野を流れる木曽三川が伊勢湾に注ぐ河川を管轄区域にしています。
このような立地条件のため、管内の河川では年間を通して漁業及びマリンスポーツ等が行われており、年間約10件程度の水難救助事案が発生しています。
管轄河川の水難救助現場(潜水救助活動を要する現場)は水深が5m~10m程度で、水中視界は季節及び気象条件で多少変動がありますが、0.5m~1m程度です。また、水流が速く、過去に出場した事案でも、関係者からの情報で要救助者の水没地点を正確に聴取し、その地点へアンカーを投下しても、アンカーが流されてしまい、潜降索を起点にした検索救助活動に支障をきたし、水没地点を最優先で検索することができない事象が発生しました。安定した潜降索の設定は人命を迅速に救助することはもとより、水難救助隊の安全で確実な活動に必要不可欠な要素であるため、より安定した潜降索の設定方法を検証したいと思いました。
現状の潜降索設定に使用するアンカーは下の写真のような20Lのポリタンクに砕石を入れ、20㎏程度の重量のものを1つ使用しています。
(001)

001
20Lのポリタンクに砕石を入れ20㎏程度にしたものをアンカーとした

桑名市消防本部で配備されている資機材を利用し、急流に対して安定するアンカーを検証しました。

5検証内容


以下の6つのアンカー設定について検証しました。


• Aパターン


・従来から使用されているアンカー※重量20㎏
(002)

•   Bパターン

・鉛垂アンカー(三重県内の水難救助隊が設置されている9消防本部で形や重量はそれぞれ異なるが広く使用されているもの)※重量15㎏
(003)

•   Cパターン

・ダウンフォースアンカー(ボート等で広く使用されているアンカーで川底の凹凸や砂地にめり込むことができるアンカー)※重量3.5㎏
(004)

•   Dパターン

・従来から使用されているアンカー2つを連結させたもの
※重量20㎏×2個
(005)

•   Eパターン

・従来から使用されているアンカーとダウンフォースアンカーを組み合わせたもの※重量20㎏+3.5㎏
(006)

•   Fパターン

・鉛垂アンカーとダウンフォースアンカーを組み合わせたもの
※重量15㎏+3.5㎏
(007)

002
従来から使用されているアンカー


003
鉛垂アンカー


004
ダウンフォースアンカー


005
従来から使用されているアンカー2つを連結させたもの


006
従来から使用されているアンカーとダウンフォースアンカーを組み合わせたもの


007
鉛垂アンカーとダウンフォースアンカーを組み合わせたもの

6検証方法(008)


それぞれのアンカーにロープ(ロープの長さは、どのパターンでも一定の長さとする)を取付け、動水圧の影響を大きく受けるため、4人が乗船した和船(動力はニュートラル状態)に固定しました。その状態で2分間にアンカーと和船が共に流された距離をGPSで測定しました。
※常に一定の場所で測定するため、個人所有の大型ダウンフォースアンカーに動水圧の影響が少なくなるよう、水深の5倍の長さのロープと小型の浮環を取付け、定点として設定しました。

(写真8)検証方法ワードに書き込みあり

検証した環境にあっては下記のとおりです。

日時:令和6年12月14日9時00分~10時00分
気象:晴れ、北西の風、風速4.5m/S
気温:9℃
水温:12℃
流速:2ノット程度
潮汐:満潮5時30分、干潮11時00分で潮位差117㎝(大潮)
※三重県四日市市での潮見表カレンダーによるもの
場所:揖斐川(河口から約6.7㎞付近)
川底:砂地

7検証結果
Aパターン:約32m移動
Bパターン:約15m移動
Cパターン:約125m移動
Dパターン:移動なし
Eパターン:約8m移動
Fパターン:約9m移動

8検証結果を踏まえた考察


検証した結果、Dパターンは上記の環境で和船に固定しても流されませんでし
た。流された各パターンを比較すると、移動距離はEパターン≒Fパターン、
Cパターン>Aパターン>Bパターンとなりました。

Aパターン:アンカーの重量は20㎏でありましたが、検証した中で2番目に移動距離が長くなりました。
アンカーの形状が丸みを帯びて比較的滑らかであり、砕石が内包されているとはいえ、材質がプラスチックで水に浮く性質であるため、Bパターンと比較して川底に対しての摩擦抵抗が減少し、この結果になったと考察します。また、Bパターンよりもアンカーが大きく、動水圧を受ける面積が大きいこともわずかながら影響したと考察します。

Bパターン:アンカーの重量は15㎏で、Aパターンより軽いにも関わらず、Aパターンよりも移動距離が短くなりました。
材質が鉛であるため、Aパターンと比較して比重が大きく、接地面積当たりの重量が大きいため、川底に対しての摩擦抵抗が増大し、この結果になったと考察します。

Cパターン:アンカーの重量は3.5㎏で、検証したアンカーの中では最も軽いもので、移動距離も最長になりました。
構造上、斜めになって流されると川底にめり込む形状をしていますが、検証ではロープの長さが一定であるため、流されてもアンカーが斜めになって川底にめり込むことができず、川底に対しての摩擦抵抗を十分にかけることができなかったため、この結果になったと考察します。

Dパターン:アンカーの重量は20㎏が2個で、検証したアンカーの中では最も重く、移動距離がないため、最も安定したアンカーでした。
しかし、重量があり、取扱いが不便で、かつ、狭い船上で20Lのポリタンク2つのスペースがとられることは活動の支障になると感じました。

Eパターン:アンカーの重量は20㎏+3.5㎏で、2番目に移動距離が短く、安定したアンカーになりました。
アンカー投入し、6m程度流された後に流されることがなくなりました。流される間にダウンフォースアンカーが川底にめり込み、川底に対しての摩擦抵抗が急激に増大したため、この結果になったと考察します。

Fパターン:アンカーの重量は15㎏+3.5㎏で、Eパターンとほぼ同じ結果になり、安定したアンカーになりました。
アンカー投入後の具合もEパターンと同様でした。この結果になった理由もEパターンと同様であると考察します。

このことから、急流下での潜水救助活動で使用するアンカー設定に重要なこと
は、アンカー自体の重量と、川底に対しての摩擦抵抗であると判明しました。

9おわりに


今回このような機会をいただきありがとうございました。
急流下での潜水救助活動で効果的なアンカー設定について再認識することがで
き、水難救助資器材の見直しをすることができました。
私たちの消防本部では水難救助事案のなかでも河川での潜水救助する事案が多く、今回の検証内容は安全、確実、迅速な水難救助活動に必要不可欠な要素の一つになると確信しています。
最後に、この記事内容が人命救助活動に微力ながら寄与され、全国で活躍され
る水難救助隊員の安全な活動につながることができれば幸いです。

○著者①
花井太(はないだい)
○階級
消防司令補
○所属
桑名市消防署長島木曽岬分署第1係
○出身地
三重県桑名市
○消防吏員拝命年
平成19年4月
○趣味
歴史名所めぐり

○著者②
水野昭仁(みずのあきひと)
○階級
消防士長
○所属
桑名市消防署長島木曽岬分署第1係
○出身地
三重県桑名市
○消防吏員拝命年
昭和61年10月
○趣味
ウォーキング、釣り

 




基本手技
スポンサーリンク
シェアする
opsをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました