月刊消防 2026/03/01号 48(03), 通巻561号 p62-3
最新事情
心肺蘇生ガイドライン2025(1)
はじめに
心肺蘇生ガイドライン2025が発表された。アメリカ版(AHA)とヨーロッパ版(ERC)は2025年度中に公開されていて、日本版(JRC)は2026年3月に書籍として販売される。今回からはシリーズで、ガイドライン2000からの変更点をお伝えする。なお、日本語版原案は2025年11月30日までは読めたようだが執筆時点では読めなくなっているので、日本語版について述べている数多くのサイト(代表として 3))を参照した。
活動を変える項目なし
アメリカ版は日本語版のハイライトを出している4)ので最初に読んでみたのだが、全然変わっていないなあというのが感想である。
アメリカ版ハイライトでアルゴリズムが載っているのは新生児蘇生、気道異物除去、心拍再開後の治療、埋め込み型補助心臓の4つで、普通の救急隊が関係するのは気道異物除去くらい、まれに新生児蘇生に当たるくらいか。アメリカ版ハイライトでは大きな変更があればアルゴリズムを載せてきたので、この点からも大した変更はないことがわかる。
気道異物除去
日本、アメリカ、ヨーロッパに共通した変更点は「背部叩打法5回と腹部突き上げ法5回を交互に繰り返す」である。回数が入ったのが新しい。手技の順番はガイドライン2020の時から変わっていない。背部叩打法を先に行うのは、この方法の方が腹部突き上げ法より異物除去効果が高いからと書かれている。
原本5)にあたってみると、カナダでの709件の集計報告を元にしている。バイスタンダーが心肺蘇生を行なったのが77%、バイスタンダーが窒息を解除できなかったのが全体の24%、救急隊員が解除できなかったのが全体の17%であった。異物除去成功率は背部叩打法が腹部突き上げ法と胸骨圧迫法より高かった。背部叩打法と腹部突き上げ法の両方を受けた患者は全体の5%しかいなかった。胸部圧迫法を行った症例では死亡率が高かった。手技に伴う身体損傷は腹部突き上げ法と胸骨圧迫法で認めたが背部叩打法では認めなかった。
著者は考察の中で、5回という数字はカナダの応急処置団体が2010年に提唱したとしている。また背部叩打法と腹部突き上げ法を交互に繰り返すのは、この集計報告で両方の手技を受けた患者は5%しかいないことを反映している。
人工呼吸
訓練を受けた救助者を対象とした記載で、日本版では成人の心肺蘇生ではバックバルブマスク換気をするように書かれている。アメリカ版でもハンズオンリーではなくて換気も行なうようにとされた。人工呼吸なしより人工呼吸ありの方が転機が改善されることがわかってきたためで、長いこと心肺蘇生時間をしていると、胸骨圧迫のみでは時間経過とともに動脈血酸素飽和度が低下してくるのがその原因としている。
ラリンゲアルチューブよりigel
ヨーロッパ版ではラリンゲアルチューブよりigelを使うように勧告している。これはigelを使った方がラリンゲアルチューブより生存入院率および神経学的後遺症の軽度な生存退院率で優位に優れていたとの報告に基づいている6)。
ビデオ喉頭鏡
ヨーロッパ版では、ビデオ喉頭鏡がすぐ使える状況なら通常の喉頭鏡でなくビデオ喉頭鏡を使うようにとも書かれている。ただ引用されている文献を読むと、救急外来を含む病院内でビデオ喉頭鏡を使う分にはビデオ喉頭鏡が優れている7)が、救急隊員が現場で使う分には通常の喉頭鏡の方が優れているようだ8)。両方とも文献が10年近く前のものである。新しい文献を調べると、2023年の論文は病院内を対象としておりビデオ喉頭鏡の方が初回成功率が高いことしている9)が、2024年の病院外を対象とした報告では救急救命士がビデオ喉頭鏡を使う分には気管挿管の初回成功率は上昇するが医師や看護師が使う分には成功率は変わらなかったとしている10)。このことから、ビデオ喉頭鏡を救急現場で使う場合は症例を選んで、つまり今までと変わらないことになる。
文献
1)Circulation 2025 Oct 21;152(16):Suppl 2, https://www.ahajournals.org/toc/circ/152/16_suppl_2
2)https://www.erc.edu/news/2025-erc-guidelines-is-released
3)https://appleqq.hatenablog.com/entry/2025/10/24/163000
5)Resuscitation 2024 Aug; 201:110258
6)Resuscitation 2023 Jul;188:109812
7)Resuscitation 2016 Aug:105:196-202
8)Crit Care 2017 Nov 24;21(1):288
9)N Eng J Med 2023 Aug 3;389(5):418-29
10)Prehosp Emerg Care 2024;28(2):221-30


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