近代消防 2026/02/15 (2026/03月号)p48-51
指導救命士によるジグソー法を用いた応急手当普及員養成
新沼卓也、市川浩二、坂見匡則、岩崎豊、築田晴之
函館市消防本部
1.はじめに
函館市消防本部では,平成17年から応急手当普及員の養成を開始しました。この度,講師を担当することになった指導救命士が取り入れた「知識構成型ジグソー法」に着目し,より効果的な養成講習について考察しましたので紹介します。
函館市消防本部では,「普及員養成のための講習24時間」を,4日間のカリキュラムに分けて実施しています。従前は一方向的な講義形式としていた「基礎医学」に着目し、この時間にジグソー法を取り入れ、受講者の能動的な学習内容に改めることにしました。
2.ジグゾー法とは
ジズソー法とは、ある問いに対して複数の視点から書かれた資料をグループで読み、その後他のグループと共有し合うプロセスを経て理解を深めるものです*。ジグソー法は,型が明確・簡単で,協調学習に適しています。普及員講習で用いた「知識構成型」ジグソー法の狙いは,関わり合いを通して一人一人が学びを深めることにあります。
*みんなの教育技術。https://kyoiku.sho.jp/279775/
3.ジグソー法を取り入れた養成講座の流れ
私たちで行なっている方法を示します。
(1)事前準備
指導者は「問い(課題)」を設定します。この時,3つか4つの知識を部品として組み合わせることで解けるものになるように設定し,その問いを解くのに必要な資料を,知識のパートごとに準備します。
実例:
指導者は「問い」を「心肺蘇生とは?」に設定します(001)。問いに対応する明確な答えは応急手当講習テキストP2記載のものとしました。
パートは「循環器の基礎」「呼吸器の基礎」「神経の基礎」の3つとして、応急手当指導者標準テキストP45~P50の内容を使用しています(002)。
なお、参考図書のテキスト表紙画像の使用等については,明治図書・東京法令出版から事前に許諾を得て使用しています。

001
指導者間での打ち合わせ。問いの設定

002
問いの設定には応急手当指導者標準テキストを参考としている
(2)講義
ジグソー法を行う前に、一方向的な講義を概ね1時間行います。内容は「心停止と心肺蘇生の基礎」について、応急手当指導者標準テキストP50~P51もとに説明します。
ジグソー法を取り入れる以前は、同じ応急手当指導者標準テキストP50~P51の内容をおおむね2時間で講義していました。
(3)ジグソー法
ステップ1からステップ4までは受講者の活動パートです。
1)ステップ1<個人ワーク>
受講者は「問い」を受け取ったら,一人で今思いつく答えを書いておきます。
実例:
指導者1名、受講者9名(003)。
受講者は「心肺蘇生とは?」の答えを記載します。
以下,指導者が受講者へ出した「問い」です(004)
・あなたは応急手当普及員です
・現在,同僚に対して普通救命講習を実施しています
・受講者(同僚)へ「心肺蘇生とは?」について1~2分(200~300文字)程度で説明してください。

003
指導者1名、受講者9名

004
指導者が受講者へ出した「問い」
2)ステップ2<グループワーク>
同じ資料を持つグループを作り,その講義内容や意味を話し合い,グループで理解を深めます。この活動をエキスパート活動と呼び,ここで各受講者は担当する資料の内容に少し詳しくなります。
実例:
受講者を3人ずつ3つのグループ、ABCに分けます(005)。グループAには「循環器の基礎」、グループBには「呼吸器の基礎」、グループCには「神経の基礎」の資料を渡します(006)。グループ内では三人が同じ資料を読み、講義内容や意味を話し合い、理解を深めます(007)。
なお、パート分けを実施する前に,難易度を循環器<呼吸器<神経と設定している旨を受講者に説明し,医療知識がある方を優先的に神経グループへ参加するよう誘導します。その結果,各グループで答えが出ない・話しがまとまらないといったことはなく,その後の回答についても大きな差は生まれなくなります。

005
3つのグループに分ける

006
グループごとに別の資料を提示する

007
グループに分かれて資料を読み理解を深める
3)ステップ3<グループワーク>
違う資料を読んだ人が一人ずついる新しいグループに組み替え,さきほどのエキスパート活動でわかってきた内容を説明し合います。このグループでは,元の資料を知っているのは自分一人となり,自分の言葉で自分の考えが伝わるように説明することになります。この活動が,自分の理解状況を内省し,新たな疑問を持つ活動につながります。同時に他のメンバーからの説明を聞き,自分が担当した資料との関連を考えながら理解を深めた後,それぞれのパートの知識を組み合わせ,問いへの答えを作ります。
実例:
「循環器」・「呼吸器」・「神経」が1人ずついるグループを3組作ります(008)。それぞれがステップ2のエキスパート活動で学んだ内容を伝えあい(009),新たにグループとして「心肺蘇生とは?」の答えを考えます。

008
メンバーを組み替え、違う資料を読んだ人が一人ずついる新しいグループを作る

009
それぞれがステップ2のエキスパート活動で学んだ内容を他のメンバーに伝える
4)ステップ4<共有化ワーク>
答えが出たら,クロストークです。他者の意見に耳を傾けて,自分たちも全体への発表という形で表現をし直することになります。各グループから出てくる答えは同じでも根拠の説明は少しずつ違います。互いの答えと根拠を検討し,一人ひとりが自分なりのまとめ方を吟味することで,それぞれが納得する過程となります。
実例;
各グループから代表者を1名選出し,それぞれのグループで出た答えを全体に向けて発表します(010)。自分達との答えや根拠の違いを感じさせステップ5に繋げます。

010
クロストーク。代表者がグループで出た答えを発表する
5)ステップ5<個人ワーク>
初めに立てられた問いに再び向き合い,最後は一人で問いに対する答えを記述します。
実例:
改めて「心肺蘇生とは?」に対し,個人で答えを記載させます(011)。

011
最後に一人で問いに対する答えを記述する
4.考察
ジグソー法による研修は,指導者自身初めての経験だったので,1年目の実施にあたっては,所属救急隊員を受講者に見立てて予行演習を行いました。予行演習では,「問い」の設定の難しさを実感したため,実際の1年目の指導では「明確な答え」とともに「問い」を設定しました。また,1年目の指導では,指導救命士は能動的学習のメリットを実感できたものの,学習者自身がこのメリットを実感しにくいという課題がわかりました。
よって,2年目の実施にあたっては,あえて従前の講義時間を併設して対比学習を行い,能動的な学習のメリットを受講者自身が実感できるようカリキュラムを更新,約2年をかけてジグソー法による指導として確立しました(012)。
ジグソー法により,受講者の学習定着度が高いとされる「議論する」「他の人に教える」という体験をさせることができました。一連の活動により,考え方や学び方そのものが身につくものですが,この方法の真の学習効果は,その後の普及員としての指導場面で生かされるものです。
なお,ジグソー法を取り入れたことで,受講者自身が考え,発言する時間が増加したことで,講義時間が少なくなり,講義資料作成等を含めた指導者の負担軽減という副次的メリットも実感しています。
ジグソー法による学習効果と従前の指導方法との単純な比較はできないため、ジグソー法の評価は難しいですが,指導救命士が培った指導スキルを普及員養成にも生かせた意義は大きいと考えています。また,アクティブラーニングを重視した養成講習が,受講後,普及員としての指導に影響を与え,その先の学習者の行動変容へ繋がることを期待しているところです。

012
ジグゾー法導入までの流れ
5.参考文献
1)知識構成型ジグソー法(一般社団法人教育環境デザイン研究所)https://ni-coref.or.jp/archives/5515
2)「主体的・対話的で深い学び」を実現する知識構成型ジグソー法による数学授業。飯窪真也・齊藤萌木・白水始編著(明治図書)3)「主体的・対話的で深い学び」を実現する知識構成型ジグソー法による中学校国語授業。飯窪真也・齊藤萌木・白水始編著(明治図書)

【氏名】
新沼 卓也(にいぬま たくや)
【所属】
函館市消防本部救急課
【出身地】
北海道函館市
【拝命年】
平成23年度拝命
【救命士合格年】
平成23年
【趣味】
旅行,子供と遊ぶこと


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