月刊消防 2026/04/01, p16-9
救助の基本+アルファ
「クラッチ」
1 はじめに
今回、月刊消防『救助の基本+α』シリーズを担当させていただきます駿東伊豆消防本部伊東消防署救助係の大川滉平と申します。
今回は、クラッチ(マルチパーパスデバイス)について紹介させていただきます。
私が管轄する伊東市は、静岡県の伊豆半島の最東端に位置しており、市域の44.7%が「富士箱根伊豆国立公園区域」に指定されている風光明媚な地域です。そして、伊豆半島は2018年にユネスコ世界ジオパークに認定され、豊かな自然に囲まれながら、全国有数の湯量を誇る温泉地としても人気があり、主要産業が観光となっていることから、県内外からの観光交流人口も多くなっています。
また、約4000年前に発生した大室山の噴火により大量の溶岩が相模湾に流れ込み形成された数十メートルの断崖が続く特殊な地形がある城ヶ崎海岸を有しています。この海岸は、遊歩道や吊り橋なども各所に点在している観光名所であり、崖や岩場が多いことから、磯釣りやロッククライミングなどのレジャースポットが盛んなエリアになっているため、転落事故事案がしばしば発生しています。
このような転落事故事案に対応するため、当消防本部では、ロープレスキュー資機材を導入し現場活動に活用しており、ロープレスキュー資機材の中でも使用頻度が高く多用途であるクラッチをテーマに取扱いの確認と当消防本部での活用方法を紹介させていただきます。
2 消防本部について
当消防本部は、平成28年4月に発足し、沼津市、伊東市、伊豆市、伊豆の国市、東伊豆町、函南町及び清水町の4市3町で構成された一部事務組合の消防本部であり、静岡県東部の伊豆半島北側を管轄しており、首都から100kmの圏内に位置しています(001)。
北部地域は、沼津駅を中心とする市街地が形成され、比較的人口密度が高い都市的要素を有しており、南部地域は、中山間地が多く、山地が海岸線まで迫る急峻な地形を形成している地域が多く市街地が点在化しています。
管内の東は相模灘、西は駿河湾に面しており、伊豆半島中央の天城山を源に持つ狩野川が縦断し、世界遺産の韮山反射炉や日本屈指の温泉地を数多く持つ豊かな自然環境と温暖な気候に恵まれている地域です。
管轄面積は921.22㎢、海岸線は約130km、管轄人口は約41万人、消防職員定数609人、1本部8署3分署7出張所体制の消防組織となっています。
災害発生時の指揮命令系統を明確化するために方面体制を組織しており、管轄を第1方面から第3方面に分け、各種災害に対応しています。

(001)駿東伊豆消防本部の位置
3 ロープレスキューについて
当消防本部では、編み構造ロープ及び関連する資機材を使用して行う救助技術の基本的事項を定め、災害現場において安全かつ効率的な救助活動を確保することを目的にロープレスキューマニュアルを策定しました。また、高度救助隊及び特別救助隊にクラッチを含む資機材(002)を順次導入するとともに、ロープレスキューに関する研修会を定期的に実施しています。

002
ロープレスキュー用資機材
4 クラッチの紹介
概要
クラッチとは(003)、1器3役のマルチパーパスデバイス(多目的器具)になります。具体的に、ディセント(降下)(004)、プーリー(つるべ式)(005)、ビレイの3役をこの1器でまかなうことのできる器具になります。

003
クラッチ

004
ディセント(降下)

005
プーリー(つるべ式)
⑵ 諸元
| 製造元 | CMC |
| 規格 | NFPA1983 |
| NFPA | Gユース |
| 最小破断強度 | 40kN |
| 最大荷重 | 272kg |
| カラー | グレー |
| 重量 | 836g |
| 適合ロープ径 | 10.5㎜~11㎜ |
⑶ 性能
ア クラッチは、プーリーとディセンダーが内蔵されており、現場に合わせて、器具の切り替えをすることなくシステムの上げ下ろしができます。
イ アンカー部分に結合した状態でも、サイドプレートの開閉操作によりロープの脱着ができます。
ウ 降下中はハンドル操作で、スピードを変えることができ、ハンドルを離せばロープにかかった荷重で即時に停止することができます。
エ ハンドル操作中、握りこみすぎた場合はアンチパニックシステムが作動し、即時に停止することができます。
オ ビレイをする際、同じ径のカーマントルロープ(セミスタティック・ダイナミック等)であれば使用することができます。
⑷ 各部の名称
(006)、(007)
006,007


部品の名称
⑸ 使用方法(ロープ取付け方法)
ア サイドプレートリリース用ラッチを2回動かし、サイドプレートを開きます。(008,009)
イ コントロールハンドルをスタンバイの位置(本器具裏側に記載)まで動かします。(010,011)
ウ ロープガイドからプーリーに対して左回りでロープをセットします。(012)
エ ロープセット後、ロープの持ち手側(端末)がベケット方向に抜けているか確認 します。(013)
オ サイドプレートを閉じ、リリース用ラッチ(2段階ロック)が閉まっていることを確認します。

008
サイドプレートリリース用ラッチを2回動かし

009
サイドプレートを開きます

010
コントロールハンドルをスタンバイの位置(本器具裏側に記載)まで動かす。面から見たところ

011
裏から見たところ

012
ロープガイドからプーリーに対して左回りでロープをセットする

013
ロープセット後、ロープの持ち手側(端末)がベケット方向に抜けているか確認する
5 現場や訓練での使用状況
(1)城ヶ崎海岸での訓練(014)
城ヶ崎海岸周辺で発生する転落事案に対応するため、自然地形を利用した訓練を定期的に実施しています。(015,016)
(2)消防署前での訓練
救出システム作成例(017)、倍力システム拡大図(018)、可変担架作成例(019)を示します。

014
城ヶ崎海岸

015
訓練の様子

016
訓練の様子

017
救出システム

018
倍力システム

019
可変担架
6 おわりに
今回は、クラッチの能力や基本的な使い方についてご紹介させていただきました。
クラッチは救助活動時において最前線で活躍する多目的器具です。全ての資機材に共通して言えることですが、使用方法を誤れば当然危険を伴います。訓練を重ね、習熟したうえで取り扱いましょう。今回紹介させていただいた内容が少しでも皆様の現場活動や訓練の参考になれば幸いです。
プロフィール

(ookawa,JPG)
氏名 大川 滉平(おおかわ こうへい)
所属 駿東伊豆消防本部 伊東消防署 救助係
出身地 静岡県伊東市
拝命 平成29年4月
趣味 マイホームデザイン、ゴルフ、サーフィン


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