近代消防 2024/12/11 (2025/01月号)p80-3
「ショック状態に移行する前に、代償反応を察知する」
目次
はじめに
今回、「今更聞けない資機材の使い方」を執筆させていただくことになりました、高知県の幡多中央消防組合四万十消防署の常石と申します。この度、「ショック状態に移行する前に、代償反応を察知する」と題して、執筆させていただきます。自分の少ない知識の研鑽の機会として、お伝えさせていただきますのでどうぞよろしくお願い致します。また、全国で活動されている皆さんの、「気付き」に少しでも繋がれば嬉しく思います。
1.管内の紹介
私の勤務している幡多中央消防組合消防本部は四万十市・黒潮町の2市町で構成されています。高知県が誇る豊富な山林資源(001)と日本最後の清流四万十川(002)、そして太平洋に面しており自然環境に恵まれた地域です。

001
西熊山。徳島県と高知県の境界に位置する

002
日本最後の清流四万十川
2.ショックについて
まず初めに、皆さんはショックに対してどのようなイメージをお持ちでしょうか。顔面蒼白、弱く速い脈拍、収縮期血圧の低下。ショックの分類によって様々な身体所見が表れ、私たち医療者に「生命が危険な状態であること」を伝えます。その中でも、収縮期血圧の低下は、循環不全を数値で示す、重要なバイタルサインの一つです。循環不全によって、重要臓器への血流が滞り、代謝異常と細胞の機能障害を起こす状態。まさにその状態がショックの定義とされています。しかし、収縮期血圧の低下は、いわゆるショックの代償期を過ぎて、非代償期となった状態となって初めて現れます。救急救命士標準テキスト第10版465ページの表III-3-6を参照ください(003)。私たち救急隊は、ショックを早期に認識し、必要な処置を行うとともに、搬送先の医療機関へショックであることを伝え、医療機関の受入れ準備へ繋げる重要な役割を担っています。

003
出血に伴う循環の指標の変化
出典:救急救命士標準テキスト第10版465ページ
3.エピソード
私は、救急救命研修所で教わったことの中で、特に印象に残り、現場で意識している教えがあります。それは「ショックは、血圧の低下で気付いていてはもう遅い。代償反応に気付いてこそ救急救命士」という教えです。この言葉の意図は、ショックの代償機序と反応(004)を理解して、早く気付く。そして病態の悪化を予測するということでした。その「予測する力」をショックの早期認識に繋げるためには、ショックの代償反応を正しく理解し、状況評価の段階から“目的意識を持った”評価を進めていく必要があります。

004
ショックの5P
4.代償反応について
それではまず、ショックの代償反応から整理していきたいと思います。ショックの代償期には、皮膚の蒼白、弱く速い脈拍、末梢の冷感と湿潤といった所見が現れます。これは、血圧低下を察知した交感神経系と内分泌系の作用により、心拍数が増加するとともに末梢血管が収縮することで現れる所見です。詳細な説明につきましては、救急救命士標準テキスト第10版705ページの表III-6-5を参照願います(005)。

005
出血量と生体反応、各種症状との関係
出典:救急救命士標準テキスト第10版705ページ
5.変化
ここで、注意が必要なのは、交感神経系反射による所見はショックの代償期以外にも表れます。例えば、呼吸不全や頭痛、低血糖など体に強いストレスが加わったときには交感神経が緊張し、同様の所見が現れる場合があります。ではどのように交感神経緊張症状から、非代償性ショックへの移行を予測するか。ここで重要なのが、“目的を持った”状況評価です。増悪するショックの要因となる出血の持続や、熱中症の発症に繋がる背景や現場の状況を把握し、ショックへのアンテナを張る。そして、代償反応を察知して、次に起こりうるバイタルサインの変化を予測することで、早期のショック認識ができると考えています(006)。救急隊から連絡を受けた病院では、ショックの離脱に向けた戦略も早い段階でスタートすることができます。

006
収縮期血圧と心拍数の継時的変化を予想する
6.具体的な観察要領
私は初期評価の段階で、脈拍数の数値化を実施しています。その理由は、傷病者の循環動態をより客観的に評価するためです。初期評価で橈骨動脈を触知し、頻脈または徐脈を判断します。自分の胸骨圧迫のリズムより速ければ、110回/分以上であることが分かるので、頻脈であると判断します。逆に1回/秒未満であれば、60回/分未満であることが予測できるので、徐脈の可能性がある。ここでのポイントは初期評価の段階から、「数値化」するということ(007)。ここでの「数値化」は観察資器材によるものではなく、自分の五感を使った数値化です(008)。これも私たち救急隊に求められる「予測する力」ですね。この時に、頻脈でかつ血圧が低下している可能性があれば、ショック指数※1が1に近いスコアであるかもしくは1を超えている可能性があると予測できます。その場合は“目的を持った”情報収集を行い、ショックの要因となるエピソードや手掛かりはないか評価します。これが“目的を持った”情報収集と考えて実施しています。参考までに普段、私が実施している、状況評価と初期評価そして評価に基づく判断について表1でご紹介させていただきます。
特に見ていただきたいポイントは、表1の中に収縮期血圧の低下が所見として現れていないというところです。また、皆さんの地域プロトコールにおいて、増悪するショックの定義に収縮期血圧の記載があるところは少ないのではないでしょうか。これは、救急隊の「予測する力」(009)が求められていることも一つの理由ではないかなと思います。
※1ショック指数とは、心拍数/収縮期血圧で導き出される循環血液量減少性ショックの指標です。

007
循環動態の観察

008
五感を使った観察

表1
状況評価と初期評価そして評価に基づく判断の例

009
予測する力
7.まとめ
救急隊が早期にショックを認識することは、傷病者にとって有益です。特に搬送先医療機関と「ショック」であることを早期に共有する(010)ことで、医療機関での早期の初療開始に繋がると考えています。救急隊の「予測する力」によって、ショックに対する「早期医療介入」に繋げる。これもまた救急隊の使命であり、腕の見せ所であるように思います。私たちが活動する病院前救護において、はっきりとした所見がないことも少なくありません。ショックに関して言えば、高齢者や服用薬によって代償反応が著明でない場合もありますし、産科危機的出血(011)であれば、出血の速度が速く、血圧低下が所見として現れる前に生命危機に瀕していることもあります。だからこそ、ショックの代償反応を“意識して”察知することが大事だと考えています。
結びになりますが、今回、執筆というかたちで、救急救命士としての自己研鑽の機会をいただけたことを深く感謝申し上げます。皆さんの安全な活動とご活躍を祈念し、結びとさせていただきたいと思います。

010
特に搬送先医療機関と「ショック」であることを早期に共有する

011
産科危機的出血の例

tsuneishi.png
名前
常石幸樹
読み仮名
ツネイシコウキ
所属
幡多中央消防組合四万十消防署
出身地
高知県高岡郡四万十町
消防士拝命年
平成21年
救急救命士合格年
令和5年
趣味
釣り・ランニング


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