近代消防 2024/11/11 (2024/12月号) p88-90
初産婦の墜落分娩・臍帯巻絡症例の活動について
佐藤幸伸、大和田徹
日立市消防本部北部消防署
目次
1.日立市の概要
日立市は茨城県の北東部、県北地域にある太平洋を臨む都市(001)で、人口は16万6028人、消防組織としては、1本部、4消防署、2出張所、1派出所からなり、職員数は286名、うち運用救命士は55名である。救急車は9台で運用しており、令和5年の救急出場件数は1万0772件であった。
また、日立市内の三次医療機関の協力のもと、市民が安心して暮らせる生活環境を整備するため、平成28年4月から日立市、高萩市、北茨城市の茨城県県北3市においてラピッドカーの運用を開始。令和2年6月に常陸太田市が加わり、現在は県北4市で運用している。ラピッドカーは救命救急センターに専用の車両が常駐し、24時間365日、要請に応じて、医師、看護師を乗せ現場へ出場するものである。

001
日立市の位置
2.はじめに
当本部では日立市地域医療協議会の協力を得て保育器を管理・運用している(002)。協議会の構成機関は日立市医師会、新生児医療機関、保健所、市役所担当部局、当消防本部である。平成25年から令和4年までの10年間の保育器搬送件数を003に示す。運用当初、市内には産婦人科医院が多くありましたが、現在では分娩に対応できる医療機関が1施設となった。
今回、初産婦の墜落分娩・臍帯巻絡症例に対し、母体搬送と保育器を使用した活動を経験したので報告する。

002
運用している保育器。

003
保育器搬送件数。青は転院搬送、オレンジは現場までの保育器搬送件数。
3.症例
25歳女性。
8月某日、22時25分覚知。通報内容は「25歳女性、腹痛、妊娠9か月」であった。出場隊は、先着救急隊1隊、応援隊で保育器搬送隊とラピッドカーである。
現着時、傷病者は自宅居間に立位で床に少量の血液あり(004)。会話可能で初期評価は良好。本人より児は娩出していないことを聴取した(005)。
傷病者を移動中、急に奇声を上げたと同時に性器から多量の出血があり、確認すると児が娩出し、ハンモック状になっていたため、保育器を要請した。
児を確認すると、首の周りに2重半の臍帯巻絡(006)を確認、四肢に若干のチアノーゼがあった。臍帯をほどき清拭・吸引(007)・保温・酸素投与を実施(008)。母親は腹痛のみで、出血は治まっていたため、会陰部の止血及びバイタルサインを測定したところバイタルサインに異常は見られなかった(009)。
並行してアプガースコアを評価し8点と判断。5分後のアプガースコアで5点に低下したため、ラピッドカーを要請。再度、口腔鼻腔内吸引、人工呼吸(010)を実施。児は保育器搬送隊到着前に、アプガースコアで8点に改善した(表1)。また、保育器隊が現着するまでの間、随時容態やアプガースコアなど保育器搬送隊と情報共有を図った。
ラピッドカーとドッキング後、現在の状況等を医師に説明。ラピッドカー医師から かかりつけの市内産婦人科医院の医師と協議してもらい、母体はかかりつけの産婦人科へ、新生児は市外にある周産期母子医療センターへ2名とも容態変化することなく搬送した。
搬送中のバイタルサインを表2に示す。時間経過を表3に示す。応援要請した保育器搬送隊は現場ドッキング、ラピッドカーは最寄りの消防署でのドッキングしている。

004
傷病者は自宅居間に立位で床に少量の血液あり

005
本人より児は娩出していないことを聴取した

006
首の周りに2重半の臍帯巻絡

007
臍帯をほどき清拭・吸引

008
さらに酸素投与

009
母親は腹痛のみで、出血は治まっていた

010
5分後のアプガースコアで5点に低下したため人工呼吸を実施

表1
アプガースコアの推移

表2
搬送中のバイタルサイン

表3
時間経過
4.考察
本症例は容態変化に適切に対処し、救急隊同士での情報共有と連携が円滑に行え、保育器搬送隊やラピッドカーなど、本市の医療資源を有効に活用したことで、市外の周産期医療センターへ搬送できた。後日、今回の症例を振り返りしたところ、多くの職員が周産期事案に対して経験が少なく、不安や苦手意識があることが分かった。この苦手意識に対してはNeonatal Cardio-Pulmonary Resuscitation (NCPR:新生児蘇生)コース、Basic Life Support in Obsterics(BLSO:周産期一次蘇生)、周産期研修など外部プログラムを通し、隊員間の共通認識を図ることが必要である。
令和5年8月1日に茨城県北部地区MC協議会救急活動プロトコルが改正されたことで、新たにNCPRが明文化され、活動の統一化が図られました。このことで訓練の質の向上や知識の引き上げが期待ができると考える。また、日立市地域医療協議会とさらなる連携強化を図り、引き続き保育器を効率的に運用していくことが重要である。
ポイントはここ
出産介助や新生児蘇生に自信のある救急隊員はいないだろう。私も目の前で出産された経験はないので読者の皆さんと同じ気持ちである。
JRC蘇生ガイドライン2020によれば早産児、弱い呼吸と啼泣、筋緊張低下を認めた場合には保温、体位保持、胎便除去を含む皮膚乾燥と刺激を与えつつ呼吸・心拍を確認し、SpO2。心電図モニターの装着を検討する、とある。本症例では出産直後にチアノーゼがあり、アプガースコアが5分の時点で1分より低下したことで人工呼吸を行なっている。

名前 : 佐藤幸伸(さとうゆきのぶ)
所属 : 茨城県日立市消防本部
出 身 地: 茨城県日立市
消防士拝命:平成10年4月
救命士合格年:平成27年
趣味:音楽鑑賞・レコード収集


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