近代消防 2024/11/11 (2024/12月号)p85-7
今さら聞けない資機材の使いかた
ビデオ喉頭鏡を使いこなすために
B
ビデオ喉頭鏡と硬性喉頭鏡の比較
中野 裕章
大阪南消防局
目次
1.はじめに
今回の研究のきっかけは、気管挿管について新型コロナウイルスを契機としてビデオ喉頭鏡が優先して使用されることとなり、私自身、硬性喉頭鏡を使用していた頃よりも成功率が高くなったため、始めからビデオ喉頭鏡を選択できればいいのにと思ったことでした。そこで当市でのビデオ喉頭鏡の実績を研究し、もし、硬性喉頭鏡よりも良い結果が出れば、元々は硬性喉頭鏡を第一選択としているプロトコルを変更することもできるのではないかと思い、今回の研究に至りました。なお、この研究は令和6年3月以前の河内長野市消防本部で行ったので、以下の消防本部に関する記載は河内長野市消防本部に関するものです。
001が当市消防本部が属する南河内Medical Control (MC)のビデオ喉頭鏡認定救命士の気管挿管プロトコルになります。まず硬性喉頭鏡で喉頭展開し、声門が確認できなければ次にビデオ喉頭鏡で喉頭展開します。それでも声門が確認できなければ気管挿管は諦め、他の器具を用いた気道確保を行うというプロトコルになっており、まず第一選択は硬性喉頭鏡を使用することとなっています(注)。

001
南河内MCの気管挿管プロトコル
注
2024年4月の大阪南消防局発足により新プロトコルが策定されビデオ、硬性の選択性が認められました。本内容のプロトコルは2024年3月までのものです。
2.対象と方法
調査期間はビデオ喉頭鏡を優先するように変更された活動方針が南河内MCより発出された令和2年5月21日~令和5年6月29日の約3年間です。検討項目は硬性喉頭鏡とビデオ喉頭鏡それぞれの成功率と実施時間です。実施時間とは傷病者接触から気管挿管後の聴診完了までの所要時間と定義しました。
3.結果
(1)実施件数
研究期間中に発生した心肺停止患者件数は365件で気管挿管を試みた件数は203件でした。実施割合は硬性喉頭鏡115例、ビデオ喉頭鏡が88例でした。
(2)成功率と実施時間の比較(002)
成功率は硬性喉頭鏡80%、ビデオ喉頭鏡72%で硬性喉頭鏡が少し高い結果となりました。実施時間の比較では硬性喉頭鏡がビデオ喉頭鏡より32秒速く終了しています。
成功率・時間ともに硬性喉頭鏡の方が成績の良い結果となり、現状のプロトコルを変更する理由にはなりませんでした。しかし、果たしてデバイスの違いだけでこのような差が生じたのか、他にも気管挿管の成功に関わる要因が何かあるのではないか?両者の差の裏に隠れている要因をさらに詳しく調べてみることにしました。

002
成功率と実施時間の比較
(3)全体の成功率に関与する因子(table001)
性別、吸引の有無、挿管実施場所、挿管認定から経過年を成功率に関与する因子と考え比較検討しました。その結果、吸引なし症例と車内での挿管の成功率が高いことがわかりました。性別、経験年数は成功率に影響しませんでした。

Table001
全体の成功率に関与する因子
(4)ビデオ喉頭鏡と硬性喉頭鏡の成功率に関与する因子
吸引の有無、現場/車内での挿管。この2項目をビデオ喉頭鏡と硬性喉頭鏡で比較してみます。
1)吸引の有無での成功率
吸引ありではビデオ喉頭鏡の成功率が38%と非常に低い結果となっています(003)。一方、吸引なしでは両者とも成功率は高く、またビデオ喉頭鏡の方が高い成功率となっています(004)。
2)現場/車内での挿管の成功率
現場では硬性喉頭鏡の方が高い成功率となっています(005)。車内での成功率は両者とも非常に高い成功率となっており硬性喉頭鏡については成功率100%でした(006)。

003
吸引ありではビデオ喉頭鏡の成功率が38%と低い

004
吸引なしでは両者とも成功率は高い

005
現場では硬性喉頭鏡の方が成功率が高い

006
車内での両者とも成功率は非常に高い
4.考察
ビデオ喉頭鏡と硬性喉頭鏡の成功率・実施時間を比較したところ硬性喉頭鏡の方が成績の良い結果となりました。また、成功に関わる要因をさらに詳しく調べたところ、実施場所別で現場での成功率が車内での成功率に比べて低く、また、吸引の有無別では吸引を実施している症例は非常に低い成功率であることがわかりました。特に吸引を実施している症例では硬性喉頭鏡よりもビデオ喉頭鏡の成功率が非常に低いことがわかりました。
当初、ビデオ喉頭鏡は硬性喉頭鏡では気管挿管できない場合に使用するものとして認識していました。しかし、新型コロナウイルスの流行を機に感染対策としてビデオ喉頭鏡が重要視され、全国的にも認定が一気に加速しました。私もその流れでビデオ喉頭鏡認定救命士となり気管挿管時はメインで使用する機会が増えたました。使用しているうちに硬性喉頭鏡よりも成功率が上がり、感染対策としての臨時措置とは関係なくビデオ喉頭鏡を第一選択として使用できればと思い、今回の研究に至ったものです。しかし、調べていくと成功率や使いやすさの感覚は救命士各個人でバラつきがあり、さらには状況により硬性喉頭鏡の方が格段に成功率が高い場合があることも分かりました。結果、どちらが優れているということはなかったため、選択性を持たせ、状況に応じ救命士の判断に任せるのが良いと思われます。
河内長野市消防本部は2024年4月から富田林市消防本部、柏原羽曳野藤井寺消防組合と合併し大阪南消防局としてスタートしており、新組織となることを契機にプロトコルの見直しがなされ、全国救急隊員シンポジウムで研究発表した内容を考慮したビデオ喉頭鏡・硬性喉頭鏡の選択性をもたせたプロトコルに変更されました。新組織運営のためプロトコルの見直しがなされたという側面はありますが、今回の発表をMC医師に現地でご覧いただいていたことや、普段から消防、医療機関との良好な関係性を構築できていたこともあり、研究結果を考慮したプロトコル改正(007)となったものです。
救命士は医師の診療の補助としての資格にすぎませんが、現場で実際に活動するのは救命士です。感じたこと、思ったことを救命士自身が声を上げ行動することが大切です。救命士は地域医療を担うチームの一員であることを強く認識し、福祉、行政等様々な職種と連携しながら市民の安全安心を守る存在であるべきだと考えています。

007
改正プロトコル.2024年4月から運用中

名前 中野 裕章(なかの ひろあき)
所属 大阪南消防局(旧 河内長野市消防本部)
出身地 大阪府河内長野市
消防士拝命 平成18年
救命士合格年 平成27年
趣味 トレイルランニング
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