月刊消防 2025/07/01 p25-9
題名
クレーンつるべ救出システム
目次
1はじめに
筑西広域市町村圏事務組合消防本部の紹介をさせて頂きます。
管轄区域:茨城県筑西市、結城市、桜川市
管轄面積:450.97k㎡
庁舎:消防本部・筑西消防署・川島分署・関城分署・明野分署・協和分署・結城消防署・南出張所・桜川消防署・真壁分署
1本部3消防署5分署1出張所で構成されています。
車両:指揮車1台タンク車11台ポンプ車5台梯子車1台化学車1台
救助工作車1台水槽車1台搬送車2台救急車11台広報車8台
調査車2台
筑西広域市町村圏事務組合消防本部は、茨城県西部に位置し、東側には筑波山や加波山系の山岳地帯を管轄に抱え、西側には一級河川の鬼怒川、小貝川が南北に通過、肥沃な田園地帯が広がり、農業が盛んな自然豊かな地域です。
救助隊の構成は、平成23年に救助工作車Ⅲ型が配備され、平成29年12月に高度救助隊を発足し、高度救助隊1隊、特別救助隊2隊の計3隊体制で圏域における各種災害に対応しています
2考案経緯
当広域消防本部管轄内で、ごみ処理施設のピット内へ要救助者が落下した事案があり、高取支点が取れない場所での救出活動をする上で、容易に高取支点を確保する方法はないかという意見がありました。
建物や地物により支点を取れない状況では、これまで三連梯子を活用したクレーンシステムで対応してきました。梯子クレーンも非常に有効なシステムですが、支点が完全に固定されていることや三連梯子全縮3.5mと高さの制限もありました。車両が部署できることが条件とはなりますが、車両クレーンを活用することで支点高さの微調整が容易で且つ強固な支点が確保でき、法令等を遵守しながら安全で臨機に対応するため考案に至りました。
3システム概要
(1)法律による制限
消防参第16号平成20年2月18日クレーン等安全規則第26条、第27条、第72条及び第73条の解釈について(照会)の文章において回答が出されています。
1)要救助者の運搬、又はつり上げについて
要救助者のみを移動式クレーンにより運搬、又はつり上げにより救助する場合については、当該規則に抵触(違反)しない。
2)消防隊員の運搬、又はつり上げについて
消防隊員は、規則第72条の規定による「労働者」に該当することから、救助活動のために消防隊員を移動式クレーンにより運搬、又はつり上げてはならない。ただし、救助活動時、消防隊が保有する資機材で他に進入方法がない場合や緊急上やむを得ない場合等は、第73条第1項の規定に該当することから、それぞれ第73条第2項若しくは第3項を尊守することにより、クレーンのつり具に専用のとう乗設備を設けて該当とう乗設備にとう乗させ、消防隊員を運搬、又はつり上げることは可能である。
(2)当消防本部での取り決め
上記の通り法令解釈によると要救助者は労働者に該当しないため、移動式クレーンによる吊り上げ及び運搬が可能ではあるが、当消防本部ではフックの回転部で巻き込み危険及びフックの巻き下げ限界があることから、フックは救出用の支点とし、救出システムの使用中はクレーン動作を行わないこととしています。
(3)システムの概略
全体写真

写真3
システム全体写真
このシステムの特徴として、三つ打ちロープのつるべ式を採用し通常は支点を二か所使用しますが、今回のシステムを使用する場合、支点は一か所のみで設定することができ、システムの搬送や着脱が容易になります。またフック部分は八の字結びでも可能ではありますが、蝶結びは三方向の荷重に耐えられる結びであり、荷重が掛かったあとでも解絡が容易なため採用しています。(写真3参照)
1)使用資器材

写真4
使用資機材
救助ロープ30m×2誘導ロープ20m×1
小綱(後方支点用)×1小綱(プルージック用)×1
カラビナ×9スーパーカラビナ×2
滑車×2トグル×1
簡易縛帯×1
(写真4参照)
2)システム詳細

写真5
システム詳細
当消防本部が使用しているカラビナの引張強度が2,600kg、滑車が3,000kgのため、カラビナよりも滑車の強度がありますが、滑車の使用状況により強度も変わるため、その数値は正確ではないと考えています。活動上の安全を確保するためにも基本通り補助カラビナを使用して二重の安全を確保しています。(写真5参照)
3)システム作成要領

写真6
救助ロープの先端にもやい結びを作成する
救助ロープの先端にもやい結びを作成する。
ポイント
上記のシステム写真では救助ロープの長さに余裕を持たせるため、シングルロープを二本使用し救助ロープを作成しているためもやい結びとなっているが、左の写真のようにシングルロープを折り返し救助ロープにしている場合は小さい三重もやいにすることで結索部の強度が強くなり、端末の抜けが防止できる。
定滑車の取り付け部分なのでもやい結びは小さく作り長さを出さないように作成する。
(写真6参照)

写真7
もやい結びの直近に蝶結びを作成する
上記で作成したもやい結びの直近に蝶結びを作成する。
ポイント
蝶結びは三方向の荷重に対応できる結びであり、荷重を掛けた後でも解絡が容易である。
蝶結びを作成する際は、もやい結びとの間隔をなるべく少なくすることが重要で、間隔が広いと定滑車を付けた際にシステム全体の長さが出て救出時に支障を来すことがある。
蝶結びはロープが撚れないよう作成し、トグルが脱落しないようしっかりと締め付ける。
(写真7参照)

写真8
支点を高く取った場合には、あらかじめ救出側に補助カラビナを設けている。
蝶結びをフックへ掛け定滑車と動滑車を付けロープを通す。
ポイント
フックに掛ける際はフックに破損がないか、フックの外れ止めが正常に作動しているかを確認し取付けシステムが直下になるよう設定する。
もやい結びに定滑車を付け、もう片方の救助ロープを通し蝶結びと定滑車の間の救助ロープに動滑車を付け救出側に補助カラビナを設ける。
補助カラビナは掛け替えが基本であるが、今回システムを下す際に荷重が掛からないことが前提であり、支点を高く取った場合には、掛け替えが出来ないので、あらかじめ救出側に補助カラビナを設けている。(写真8参照)
後方支点写真

写真9
車両後方に救出システムの引き込みを実施するために必要な方向変換用の支点を作成する
車両後方に救出システムの引き込みを実施するために必要な方向変換用の支点を作成し、プルージックを設定することで、落下防止を図る。支点が長すぎると支点が上に引っ張られ扱いにくくなるので注意が必要です。
※この支点は救助工作車後方のピンドルフックを活用(耐荷重=3,000㎏)
(写真9参照)

写真10
誘導ロープを設定せずに要救助者を上げた場合、要救助者が回転してシステムが捻れてしまうので注意
誘導ロープを設定せずに要救助者を上げた場合、要救助者が回転してシステムが捻れてしまい救出活動に支障が出てしまうので注意が必要です。(写真10参照)
(4)システムが選択される救助現場
ごみ処理施設、橋、幅の広い用水路、立て坑、高所でもブームが届く範囲など
「展開例立て坑」

写真11
展開例立て坑
フックへのシステム設定は安全が確保された場所で行う。
定滑車への補助カラビナは救出側に設定する。

写真12
救助ロープと誘導ロープの流れに注意
システムを救出ポイント上部へ移動させる。この時、救助ロープと回転防止の誘導ロープの長さ調整は確保隊員がブームの動きに同調して行う。
プルージックで救助ロープがロックされないように注意する。
救出ポイント上部へ移動させた後は救助ロープと誘導ロープの流れに注意して設定する。
(写真12参照)

写真13
救出活動へ移る際はオペレーターへクレーン操作を行わないよう指示する
システムを救出ポイント上部へ移動させ、救出活動へ移る際はオペレーターへクレーン操作を行わないよう指示する。(写真13参照)

写真14
システムの引き込み。救助開始
システムの引き込みを行う。
進入隊員から要救助者の縛着完了の合図があったら救助ロープを引き、地切りし最終確認を実施後、救出開始。(写真14参照)

写真15
立て坑から要救助者が出たら一旦確保する
立て坑から要救助者が出たら一旦確保する。
要救助者の落下防止としてプルージックで救助ロープをロックする。
救出位置を隊員に周知し共通認識を図る。
救出ラインに資機材など活動障害になる物が無いように注意する。
容易に移動できる物はあらかじめ移動しておくこと。(写真15参照)

写真16
上部へ突き出ている立て坑の場合は支点を高く設定することで、誘導が容易になる
ロックしていたプルージックを緩め要救助者の動きを注視しながら、誘導ロープを操作し救助ロープを緩め救出する。
上部へ突き出ている立て坑の場合は支点を高く設定することで、誘導が容易になる。
(写真16参照)

写真17
要救助者を地面から約1メートルの位置まで救出し隊員に確保させ救出完了
要救助者を地面から約1メートルの位置まで救出し隊員に確保させ救出完了。
救出時は救助ロープと誘導ロープを同調させ要救助者に負荷が掛からないよう注意する。
(写真17参照)
5システムのメリット・デメリット
(1)メリット
1.強度のある高取支点が確保でき、クレーンの操作により高取支点の位置を微調整することができる。
2.三脚や梯子クレーンと比べ設定が容易で、地上隊員の活動障害が軽減される。
3.低所以外でもクレーンのブームが届く場所であれば支点を確保することができる。
4.システムの構成は基本結束と基本的な資器材のみで作成できるため高度な知識や技術を要しない。
(2)デメリット
1.車両進入のできるスペースが必要で地盤が強固でないと使用できない。
2.補助カラビナの掛け替えが出来ないケースがあるので、救出時に注意が必要になる。
6まとめ
本考案についてカーンマントルロープとギアを使用したシステムも候補の一つとして挙げられました。昨今ではカーンマントルロープを導入している消防本部も多くなり多彩なシステムにより、小出力化を図ることが可能となっていますが、当消防本部では三つ打ちロープでは対応困難な場合によりカーンマントルロープを使用することとしており、三つ打ちロープによる「つるべシステム」を採用しました。「基本+基本=応用」との理念を大切にして、基本に忠実な三つ打ちシステムとすることで共通の認識が取りやすく、より高い安全性が保たれると考えています。
クレーンを設定できる場所は限られますが、災害現場により救出プランの適性を見極め、保有している車両・資器材を有効に活用して迅速で安全な救助活動に繋げて行きます。皆様の参考になれば幸いです。

・名前・・・髙野兼輔
・所属・・・筑西消防署高度救助隊
・消防士拝命年・・・平成22年4月
・趣味・・・ゴルフ、バイク
出身地・・・茨城県筑西市

・名前・・・藤木恭之
・所属・・・筑西消防署高度救助隊
・消防士拝命年・・・平成24年4月
・趣味・・・魚釣り
・出身地・・・茨城県筑西市


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