071003 公衆AEDの今

 
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071003公衆AEDの今

 2007年7月5日の毎日新聞に「<AED>救急隊到着前に使用 蘇生率7倍に 東京消防庁」という記事が載った。AEDについては2005年3月号で一度取り上げている。今回はその後発表になった論文から公衆AEDの今を報告したい。

本当は4倍

 この稿で言う公衆AEDとは駅や学校などにAEDを置くことを指す。毎日新聞はこう述べている。「昨年中、一般市民の目の前で心肺停止状態になった傷病者は3107人。うち41人が公衆AEDを受け17人(41.5%)が病院搬送前に心拍が再開した。それに対してバイスタンダーCPRを受けず救急隊到着まで放置された2193人中、心拍再開は141人(6.4%)で公衆AEDは7倍の心拍再開率であった。AEDを使用しないバイスタンダーCPR873人では心肺再開は1割程度だった。東京消防庁では「普及が進むAEDの有効性がデータから初めて裏付けられた」と述べた」

 7倍ってすごい。「AEDは誰でも助けられる機械」と誤解する人もますます増えるだろう。この記事のミソは対照群がバイスタンダーCPRを受けていない群に設定してあることだ。本当ならバイスタンダーCPRをした上でAEDの有るなしで比較すべきで、それでも4倍で有意差もある(カイ自乗検定p<0.01)のだから十分に記事になるはずだ。新聞としてはAEDの効果を持ち上げたかったのだろうが、それにしてもやり過ぎと感じる。もう一つ、病院前の心拍再開率がいくら良くても生存退院率に結びつかないのはこの連載でも数多く紹介しており、東京消防庁の発表は中間報告に過ぎない。

公衆AEDの成績

 では、生存退院率も含めて本当に公衆AEDは有効なのか。3年前に出た報告1)では、バイスタンダーが救命講習+AED講習(CPR+AED)を受けているか、もしくは救命講習(CPR)だけを受けているかでCPA患者の転帰を比較した。患者は心原性で卒倒した人に限った。結果として、CPR+AED128例、CPR107例であった。このうち実際にAEDが放電した症例はCPR+AED34%、CPR2%であった。心電図を確認した時の心室細動の割合は差がなかった。119番通報から自脈確認までの時間はCPR+AED群が早かった。生存入院率は両群で差はなかったものの、生存退院率はCPR+AED群30例(23%)に対してCPR群15例(14%)と有意差を認めた。しかし神経学的な改善度は差は認められなかったとしている。他の論文でも生存退院率は1.5倍程度になることが示されている。

 このように公衆AEDは使われれば威力を発揮する。問題は使われるかどうかである。CPRの講習とCPR+AED講習を受けた人たちがどれだけAEDを持って来たか調べた報告2)がある。目の前で誰か倒れた場合、CPR+AED講習修了者がAEDを持って来させた割合は47%であったのに対して、CPR講習のみ修了者がAEDを持って来させた割合は61%もあった。CPR+AED修了者はCPRに着手する割合は高いものの、AEDには考えが及ばないというのがこの論文の趣旨である。救命講習では今まで以上にAEDを強調する必要があるのかもしれない。

どこに置くか

 大阪医大からは心停止の場所からAEDをどこに置くか検討した報告3)が出ている。高槻市で6年間に病院外心停止になった症例を集め、どこで心停止になったかを施設の数で除したもので検討している。それによると自宅での心停止は6年間で870例あったが世帯数が85万(14万世帯x6年)もあるため1年間の心停止件数は0.001となり、ある家で心停止が起こるのは1000年に1回という計算になる。これを見て行くと頻度が高いのは駅で0.3、次に病院0.18、老人ホーム0.11と続く。100年に1回以上の心停止件数を満たすのはこの3つの他に運動場、ゴルフコースがあり、これらの施設には優先してAEDを置くことを勧めている。

 アメリカからの報告4)では高いところはフィットネスクラブとゴルフコースになっている。

公衆AEDの事故

 救命講習ではAEDの事故についても聞かれることがあろう。アメリカでの2万6000回の放電では36回の事故が報告5)されている。患者本人の肋骨骨折が2例、バイスタンダーの事故が7例で、内訳は筋肉の引きつけ1例、抑うつ気分4例、残り2例は施行の重圧とされている。事故の残り27例は器械本体に起因するもので、手の届かない所にしまっていたのが17例、残りは故障であった。患者に危害を与えるような事故はなかった。どこかにしまい忘れたりボタンを押す重圧が事故かどうかの判断は別にして、安全な器械であることには間違いない。

自宅AEDは患者のいる家で

 倒れる人が最も多いのは自宅だから自宅にAEDを配置すれば蘇生率はさらに上がるとは誰でも考えることである。これに関しても病院外心停止の割合を勘案した報告6)が出ている。AEDを自宅に持とうとすればAEDを買わなければならない。またバッテリーなどの維持費用も必要となる。使えるようになるには講習も受けなければならない。AEDに反応せず死ねば経済的損失が出るし、逆に生き残っても病院費用がかかる。これら雑多な要因を勘案してみると、60歳を越える人1人をAEDで救うためには年間2500万円を使ってAEDをばら撒かなければならない。それに対して何らかの心停止要因を抱える人を救うためには1500万円、以前に心筋梗塞をやっている人では1180万円、虚血性心疾患を現に持っている人では1000万円となる。カナダからの論文でも同様な検討7)を行っていて、心停止のハイリスク患者が住む家に置けば82万円、病院に置けば137万円なのに対して、オフィスビルに置けば5520万円、55歳以上が住む家に置けば1億6000万円、アパートすべてに置こうとすれば2億3600万円がかかると試算している。

 これらの結果からは、家庭でAEDを買っても宝の持ち腐れになることが多いことが分かる。過去に致死的不整脈のエピソードを持つ患者の家庭なら持っていていいかもしれない。

消防はAEDの把握を

 119番通報で通信員がAEDの場所を知っていればバイスタンダーに対して素早くAEDを持って来させることができるだろう。しかしAED先進国アメリカではどこに置いてあるか分からないAEDが多くある。アメリカではAEDを販売した場合には救急施設もしくはアメリカ心臓学会にAEDを登録することが法律で定められている。ノースカロライナ州からの報告8)では州内にある公衆AED552台のうち、救急施設で場所を把握していたのはその2割にも満たない99台に過ぎなかった。

 日本でも公衆AEDの配備は急速に進んでいる。通信員がAEDの場所を教えることができれば助かる症例も多くなろう。会社が自前で購入する機器も含めてAEDの場所をきちんと把握することがさらなる救命率向上へと繋がる。

引用文献

1)N Eng J Med 2004;351:637-46
2)Acad Emerg Med 2006;13:659-65
3)Circ J 2006;70:827-31
4)Prehosp Emerg Care 2006;10:61-76
5)Resuscitation 2006;70:59-65
6)J Gen Intern Med 2005;20:251-8
7)Int J Technol Assess Health Care 2007;23:362-7
8)Prehosp Emerg Care 2005;9:339-43


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07.10.3/9:50 PM

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