手技79:知識を整理しよう(1):心臓マッサージ
1999年4月から続いてきた「救急隊員のための基礎講座」も今年6月号で終了となる。あと3ヶ月、分かっているようで分かっていないいろいろな事柄について解説したい。今回は心臓マッサージ(心マ)について解説する。以前の最新救急事情での特集と合わせて読んでいただきたい。
I なぜ30:2になったのか
心マで血液を体に回すために必要なことが3つある。
1)強い力で押すこと
2)速く押すこと。しかし速すぎてはいけない
3)押し続けること
1)強い力で押す
心マでなぜ血が全身に回るか。これは心臓を直接押している説(直接説)と、胸を押すことによって周りの空気圧が上がり心臓が縮む(空気圧説)という二つの可能性が示されている(図1)。
14年前にはやったカルディオポンプは逆に心臓の周りの空気圧を下げて血液を心臓に引き込み、それを一気に押し出そうという工夫である(図2)。
心臓を包んでいる胸郭(肋骨とか胸骨とか)は大事な心臓を包んでいるだけにとても固い。それに対抗して胸を凹ませるのだから大きな力が必要になる。
2)速く押す
1分間に10回よりも20回、それよりも100回のほうがポンプを激しく回すことになる。しかしこの回数にも限度があって、1分回に130回以上になると頭打ちになり、さらに速くするとかえって血液の量は少なくなる(図3)。
1分間に130回で血流量が減るのは、心臓に血が溜まらないうちにポンプを押す「から打ち」になるためである(図4)。
3)押し続ける
今まで15回連続で押していたものが30回に増えた。連続して押すとどこがいいのか考えてみよう。
例えとして、穴の空いた大きな風船を膨らませてみる。一回息を吹き込んでもパンパンにはならない。放っておくと空気が漏れて風船は縮む。この風船をパンパンに膨らませるには続けて何回も息を吹き込めいい(図5)。
心臓マッサージもこれと同じ。一回押しただけでは大した血圧は上がらない。心臓マッサージを止めると血圧はすぐなくなってしまう。続けて押すことによって血圧が上がっていく(図6)。
連続した心臓マッサージが有利なことが分かるだろう。
II 30:2の30と2はどこから
パソコンで計算した論文ではいろいろ条件が振ってあって、呼吸だけ見たら20:1あたりが良さそうだ。(図7)。
でもしょせんパソコンだから、目安程度のものである。動物実験では30:2が他の方法に比べて優れていることが示されている。ただこの論文はいうなれば「たまたま30:2にしてみた」という程度のものである(図8)。
ということで、30も2も「これくらいだろう」という曖昧なものでしかない。
III 呼吸しなくてもいいのか
「庭で世間話をしていた奥さんが急に意識を失った」症例を考えてみよう。倒れた直後ではまだ体の中に酸素は残っているはず(図9)なので、数分間ならば呼吸させなくても助かる可能性はある。数分が何分かは、経験上4分から5分らしい(5月号で解説)。
また心臓マッサージには胸を押すことによって肺から空気を押し出す作用がある。今から40年前、マウスツーマウスが一般的でなかった頃には人工呼吸法の一つとして胸郭圧迫法が行われていたくらいである(図10)。
さらに人工呼吸が悪さをする可能性も示されている。空気を肺に無理矢理押し込むことによって肺が大きくなり、心臓が圧迫される。そうすると本来心臓に戻るはずだった血液が心臓に戻りづらくなる。カルディオポンプの逆である。血が返って来ないので、いくら心臓を押しても血は巡って行かない(図11)。
さらに息を吹き込むと脳の圧力も上がることが示されている(図12)。
脳に血が行きづらくなることは、すなわち脳がだめになってしまうことである。
IV 手の置き場所はあんなのでいいのか
ガイドライン2000ではやれ肋骨をなぞれだの指を置けだの言われたのに、2005になったらおっぱいの真ん中とえらく簡単になった。こんなに簡単にしたのは二つ理由がある。
1)すぐ心マに取りかかれる(図13)。肋骨をなぞる方法では人工呼吸終了から心マ開始まで4秒以上かかる。胸の真ん中に手を置く方法では2秒台で心マを開始できる。
2)心臓はどこにあるか分からない(図14)。人の体の作りは様々である。また空気圧説が正しいとすれば、胸のどこを押しても心マになるはずだ。
次回は除細動の知識を整理する。
イラスト:高田奈奈・木下知世(旭川医科大学学生)
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07.5.22/9:21 PM
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