100206泣こよっか、ひっ跳べ(第7回)資機材の安全使用(酸素を知る)

 
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基本手技

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泣こよっか、ひっ跳べ

救急の基礎を紐解く!? 初心者でもわかる救急のポイント

第7回

資機材の安全使用(酸素を知る)

Lecturer Profile

徳永和彦
(とくながかずひこ)

所属:南薩地区消防組合南さつま消防署

年齢:47歳

出身地:鹿児島県南さつま市加世田

消防士拝命::昭和55年

救急救命士資格取得:平成11年

趣味:疲労止め(だれやめ=晩酌のこと)家庭菜園、木工と山菜採り


「泣こよっか、ひっ跳べ」10月投稿:資機材の安全使用(酸素を知る)

「泣こよっか,ひっ跳べ」10月投稿:資機材の安全使用(酸素を知る)

はじめに

第6回では、救急現場で傷病者に安全・迅速な観察・処置を行う上での活動スペースと、傷病者を現場から救急車へ安全に搬送するための経路の確保について述べました。

今回は、救急現場活動に使用する救急資機材は多数ありますが、その中でも取扱いに注意しなければ傷病者や救急隊員も負傷する危険性のある資機材もあります。安全な救急現場活動を行うため、資機材による事故防止について触れてみます。



救急隊員の活動現場と救急資機材について

病院前の救急活動現場は、様々な現場の状況を瞬時に判断、危険な状況を排除し、安全に観察・処置の行える活動スペースを確保するとともに、現場の状況、傷病者の状態を観察して、適切な、救急資機材を選択し、傷病者に適切な観察・評価、必要な処置を行い、病態や症状の安定と改善を図りながら、少しでも早く救急車へ収容し、適切な医療機関へ搬送しなければなりません。

有効な救急資機材の使用により、病院収容まで傷病者の病態を一時的に安定・軽減する事が可能です。中でも、酸素の投与は低酸素状態の傷病者の病態改善に効果があります。心臓疾患や呼吸器疾患の傷病者へ酸素投与を行ったところ、見る間に呼吸が楽になり、脈拍も落ち着き、表情も和らいできた事を多数経験しています。



救急現場活動中に気付いたこと

写真 1 傷病者への酸素投与

救急現場では、呼吸管理用の資機材として、フェイスマスクやBVM・人工呼吸器に接続し、酸素ボンベからの酸素投与を多用しています(写真1)。

写真 2 救急車積載10L酸素ボンベ

救急車内には10リットルのボンベが2本積載され、

写真 3 携帯用2L酸素ボンベ

現場へは携帯用に1.5~2リットルのボンベを使用しています。(写真2・3)救急活動にはなくてはならない資機材ですが、その性質を理解しボンベの取扱いに注意しなければ危険性のある物質でもあります。

私は救急救命士を取得する以前に酸素ボンベの取り扱い中、手に熱傷を負った事があります。車庫の作業台に置かれていた酸素ボンベの残圧を確認しようして、圧力調整器を取付けバルブのハンドルを開いた瞬間、爆発音と伴にハンドルを握っていた右手に衝撃を受け酸素ボンベを倒してしまいました。取付けた圧力調整器の圧力計カバーが破損して酸素ガスが漏れ、小さな炎が出ていました。右手は革手袋を着けていましたが、掌の部分は引き裂かれており、手袋を外すと指の付け根から手の甲、上肢に熱傷を負っていました。

埃の付きやすい車庫にあった酸素ボンベに接続口の発火源となるゴミなどを除去することなく安易に圧力調整器を取付け、バルブを開いたため発火事故を起こしてしまったのです。幸いに、圧力調整器の破損と、右手だけの熱傷のみですみましたが、救急車内などの狭い空間や周りに人が多くいる場所であったら、大きな事故になりかねませんでした。今でも右手には熱傷の跡が残っています。二度とこのような事故を起こさないために、私はこの経験を、自らの戒めとして、後輩たちに伝え、安全管理に努めてもらうようにしています。



酸素の性質とボンベ取扱いのポイント

1 酸素の性質

(1)色:無色(液体酸素は淡青色)
(2)臭:無味、無臭
(3)比重
対空気:1.10
対 水 :1.14
(4)性状による分類:支燃性ガス
(5)有害性
空気中に約21%含まれており毒性はないが、酸素濃度が18%以下になると酸素欠乏症を起こし呼吸困難となり生命の危機を生じる。
(6)特性
イ)酸素は水と共存し、金属を酸化させ錆を発生させる。
ロ)油脂類などに接触すると発火または爆発をおこす。
ハ)支燃性であり、火源があれば燃焼力や爆発力が増す。
ニ)液化酸素が気化すると約800倍のガスとなる。



2 酸素ボンベの取扱いポイント

消防庁救急救助課長通達(救第9号 平成13年1月17日)
(1)酸素ボンベと減圧調整器とを接続する際は、連結部に燃焼物となる可能性のある油脂類、塵あい、金属粉が付着していないことを確認するとともに、酸素漏れを防ぐため、パッキンの有無、消耗を確認する。
(2)酸素ガスの噴流は、摩擦による発熱や静電気の帯電によるスパーク又は遮断圧縮による発火の原因となるので、酸素ボンベのバルブは決して急激に開かないこと。
(3)酸素ボンベのバルブを開く際に圧力調整器の損傷事故や、破損事故を防止するため、減圧調整器の正面に顔を出さないように開放すること。
(4)酸素ボンベと減圧調整器とを接続した際は、連結部からの酸素漏れがないことを確認する。
(5)救急自動車など閉鎖空間で酸素を用いる場合には換気を十分にすること。
(6)酸素の使用場所において喫煙等の火気の使用を禁ずるとともに、近くに引火性又は発火性の物を置かないこと。
(7)酸素ボンベのバルブ等の損傷を防ぐため、粗暴な取扱いや転倒等による衝撃が加わらないようにすること。また、圧力調整器も同様に取り扱うこと。
(8)酸素ボンベは、直射日光を避け40℃以下に保つこと。
(9)酸素ボンベは、高圧ガス保安法及び容器保安規則に基づき再検査を受けること。
(10)圧力調整器についても、使用頻度に応じて保守点検を行うこと。



3 圧力調整器を取付けるとき:断熱圧縮や摩擦熱による発火事故を防ぐ(写真4・5・6)

写真 4 圧力調整器と酸素ボンベ

写真 5 圧力調整器の接続部とパッキン

写真 6 酸素ボンベの接続部

(1)継手部のパッキンに金属粉の付着やキズ、よじれ等がないこと。(パッキンは消耗品であり、定期的に新しいものと交換してください)
(2)油脂類やアルコール類が付着した手や手袋で取扱わないこと。
(3)火気および発火性、引火性のものを近づけないこと。(AEDや除細動器を使用する時にも、換気に注意し、マスクからの酸素流出を考慮し離れること。)
(4)ボンベを機器に接続する前に、ゆっくりとボンベのバルブを開けて空吹かしする操作で、発火源となる接続口付近に付着したゴミ類を除去する。(必ず、人のいない方に向けて行ってください。)
(5)ボンベに圧力調整器を接続した後の、バルブ操作は、急激に行わないこと。



4 ガス漏れ等を防ぐためには

(1)圧力計や加湿瓶などに落下キズや歪みがないか、確認する。
(2)圧力調整器の接続ナットは、手で軽く回転させて止まる位置まで回して、ボンベの傾きに関係なく加湿瓶が垂直になるように設定し、手で奥までしっかり締め付ける。



5 圧力調整器を外すときや、位置を変えるときは。

圧力計に酸素ガスを残したまま、無理に接続ナットを回して圧力調整器を外したり、位置を変えることはパッキンを傷つけ、高圧の酸素ガスが漏れる原因となり危険です。
(1)必ず、ボンベのバルブを閉じる。
写真 7 圧力計

(2)流量調節ダイヤルを一旦、開いて酸素ガスを放出して、圧力計の針が「0」を指していることを確認する(写真7)

(3)接続ナットを緩めてボンベから一度外して位置を変えること。その際は、必ずパッキンの状態を確認すること。



6 酸素ガスを使用する前に(酸素切れ等を起こさないためには)

写真 8 圧力計(酸素ボンベ残量を表示)

(1)ボンベのバルブをゆっくりと開くと、酸素ボンベ内の残圧が圧力計に指針される。この時、十分な残量であることを確認する。(写真8)

(2)流量調節ダイヤルを閉じてボンベを一旦閉めた時、圧力計の指針が下がらないこと。(ボンベと圧力調整器本体との接続部や、圧力計等との接続部からガス漏れがないことを確認するため)
(3)使用中にガス漏れが確認された場合は、直ちにボンベのバルブを閉め、圧力調整器内の酸素ガスを完全に放出してから、点検や増し締め、必要に応じてパッキンの交換を行うこと。

写真 9圧力計の正面には立たないこと

※酸素ボンベや圧力調整器を操作する際には、圧力計の正面には立たないこと。(万一、急激にバルブを開けた時など、圧力計のカバーが破損して飛んでくる場合があります)(写真9)



まとめ

救急資機材の中には、衣服の裁断する時使用するハサミや静脈路を確保する時の留置針、喉頭鏡のブレードや除細動器など、酸素ボンベ限らず、使用方法を習熟して、取扱いに十分な配慮がないと、傷病者や救急隊員が負傷し、感染症を引き起こす可能性ある資機材は多数あります。また、現場活動中は、現場状況の変化や傷病者の突然の容態変化や不穏な動きによっても、資機材による事故を引き起こしてしまう可能性はあります。救急隊員それぞれがお互いの活動状況を把握し、チーム一体となって事故防止に努めなくてはなりません。救急現場においては隊員一人ひとりが安全管理の責任者であり、自分や同僚の安全確保に優るものはないことを忘れてはなりません。また、資機材の保守点検や消毒は常に怠らず、取扱いについても、自信を持って行えるよう知識と技術を磨いておきましょう。


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10.2.6/4:17 PM

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