050425除細動をめぐる動向:論文から見るAED:一般市民への普及と小児への拡大

 
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050425除細動をめぐる動向:論文から見るAED:一般市民への普及と小児への拡大

プレホスピタル・ケア(東京法令出版株式会社)18巻第2号[通巻66号](平成17年4月1日発行)

特集:除細動をめぐる動向

>消防職員へのAED普及に向けた取り組みと展望

論文から見るAED:一般市民への普及と小児への拡大

玉川 進(たまかわすすむ)

旭川医科大学第一病理学講座

 現在、AEDで最も注目されているのが、一般市民が行うAED, Public Access (to) Defibrillation (PAD) であろう。目の前で突然倒れた人を救う、多分人類史上最大の武器である。この武器を最大限に生かし切るにはどうしたらいいのか、この武器に死角はないのか、文献から探っていこう。
 また現在のところAEDは子供に使えない。でも子供だって倒れることはある。小児への適応についても解説する。

 賢いAED

 PADの出現はAEDがなければ不可能である。ではAEDはどこを見て心室細動と判断しているのだろう。
 初期型AEDはまず患者の心拍数を検知し、それが150/分以上でQRSの波高が0.15mm以上の時に心室細動もしくは心室頻拍と判断していた。さらに現在では複雑な方法を用いて心拍数を判断し、さらにQRSについてもその傾き、形態、パワースペクトラム解析、正常波形復帰への時間の監視によってその波形に放電するかを判断している。心電図の確認頻度は2-4秒となっていて、通常は連続3回異常が続いた場合に放電準備に入るようになっている。
 低電位の心室細動波形の検出には今でも改良が加えられている。検出感度を下げれば低電位の心室細動波形を見逃すことになるし、検出感度を上げれば心停止なのに心室細動と判断しかねないからである。AEDが心室細動を「心室細動である」と判断する確率は76-96%、AEDが判断した心室細動が本当に心室細動である確率はほぼ100%となっている。
 電極に関しては、初期型のAEDは食道に電極を押し込みもう一方の電極を胸部に貼り付ける必要があった。現在のAEDは一方の電極を胸骨右縁に、もう一方の電極を心尖部に貼り付けるだけでいい。この電極は貼る位置さえ間違えなければ、書いてある絵に関係なく、どちらの電極をどちらにつけても効果は変わらない。この電極は心電図モニター電極の役割も果たしている。AEDはさらに施行者に電極の貼り方が悪いと注意したり、準備ができたと教えてくれたり、脈をチェックして電気ショックに適さない脈であることも教えてくれる。

 救急隊から一般市民へ

 心停止患者で蘇生に成功する確率は停止から蘇生開始までの時間と関係し、1分ごとに蘇生の成功率が7-9%低下することは早くから知られていた。それに加え、過去20年間においては突然の心停止患者に対する早期の除細動が単独かつ最強の蘇生方法であることが明らかとなった。アイオワでは早期除細動によって生存率が19%上昇し、ミネソタでは25%も上昇したという報告もされるようになった。
 これを受け、アメリカ心臓学会AHAは1980年代の終わりには早期除細動の重要性を広く訴えるようになった。1993年10月、AHAはAEDのタスクホースを選任した。タスクホースはAEDの普及を図り、AEDの研究に参加し、他の使用者がAEDに何を求めているのか調査するものである。翌年1994年12月にはワシントンDCにおいてpublic access defibrillarionカンファレンスを開催している。これには政府関係者、企業、病院関係者、法律家など300人以上が参加し、一般市民が公の場で除細動器を扱うことに対する見解の一致を目標とした。さらに一般市民がAEDを扱えるようにするにはどのような教育が必要か、など普及についても討議されている。これは1995年6月にAHAの声明として発表された。1997年には全ての救急隊員がAEDを使えるようになった。また同年、28の州で救急隊員以外の第一通報者であってもAEDが使えるようになり、6つの州では救助者であってもAEDが使えるようになった。2000年にはほぼ全ての州で特殊な状況においてのAEDの使用を認める法令を整備したのである。

 PADの威力

 救急隊員以外がAEDを使用できるようになってからの一番有名な論文はアメリカ・シアトルから発表されたものである1)。これは救急隊員に加えて警察官にもAEDを持たせたところ、蘇生率が30%になったというものである。さらに、シアトルで一般市民もAEDを使えるようになると、AEDの威力はさらに強固に認識されるようになった。シアトル周辺の4年間で心臓疾患を原因とする病院外心肺停止症例3754例を集めた報告では、救急隊到着前にAEDで除細動が試みられたのが50人(1.33%)であった。この50人のうち38名(76%)が病院に生存入院し、25名(50%)が生存退院した。著者らは「50人中25人も助けられるPADは素晴らしい」と手放しの賞賛を与えている2)。
 しかし一方では、AEDを用いても用いなくても蘇生率に変わりはないという報告もある。この限界はひとえに心室細動発生の瞬間から除細動までの経過時間によるもので、シアトルは市街地が小さく発症からすぐに除細動を行えたことがこの好結果に繋がっている。
 このため、AHAではPADの目標として次の項目を掲げている。

(1)1マイル四方に100人以上(1km四方に39人)住んでいる地域にAEDを設置する
(2)通報もしくは発見から平均で4-6分でAEDがもって来れるような配置をする
(3)初めての一般市民AED施行者が出た時点から後には、AED機械や配線の構造変化を最小限にする
(4)配置されるAEDが救命士も使う可能性がある場合には、心電図モニターのついているものを設置する
(5)イベントを記録できるAEDを配置する。

 (1)(2)は可能な限り早期に除細動をすることに繋がる。文献によると覚知から除細動まで平均10分を越えるとAEDの効果は認められなくなる。(3)は住民が機械を手にした時に戸惑わないような配慮である。(4)(5)はメディカルコントロールの一環である。

 将来は頭打ちに

 では、これからもPADがこの調子で発展していって、心臓疾患で死ぬ人がどんどん減っていくのだろうか。PADの先進国で楽観的に見ている人は少ない。それは患者数が頭打ちになること、それに伴って費用対効果の議論が起こってくるからである。
 患者数の頭打ちについて考える時、突然の心停止はどこで起こるか調べた報告3)が参考になる。スエーデンのGoteborg市で1994年からの8年間に心停止で救急出動した症例を集めたものである。8年間で心停止患者は2197人であり、その65%は自宅で停止していた。次が野外での13%であり、PADの対象となりそうな公衆の集まる場所での心停止は6%、わずか135人に過ぎなかった。1年に直すと17人に過ぎない。PADが設置できそうな場所に全部設置したとして計算し直しても、最大で17%の人間がPADの対象になるに過ぎなかった。この割合については他の文献でもだいたい一致しているところであって、どんどん金を使って全部置いても17%ではPAD実施者がすぐ頭打ちになりそうである。
 日本の場合はどうか。AEDはまだ置き始めたばかりで頭打ちまで何年もあるので今のところ心配はいらないだろう。それに、機械本体の値段はたかだか30万円。日本の財政規模に比べれば何台置こうが大したことはない。

 AED講習は最小限で

 救急隊員と話をすると、よく「人の命は金じゃない」という発言を耳にする。AEDならば金に糸目は付けずどこでも置けばいいということになるだろう。先ほど書いたように、AED本体はいくら置こうがそれで財政が傾くことはないだろう。しかし財政がどこでも厳しいのはご存知の通りである。
 では、PADで一番金を食うのは何か。それは一般人に対する講習費用である。もっと詳しく言えば講師の人件費である。これを削減できればその分AEDを多く買うことができるため、教育法についても多くの研究がなされている。
 まず、高学歴の人間については、15分間簡単に使用方法を見せるだけでAEDは使えるようになる4)。つまり、特別な講習は要らない。老人に教える際にも、ビデオを見せて簡単に指導するだけで、講師がみっちり指導するのと同等の効果が得られる5)。さらに、講習を受けた人間が次の講習を開くネズミ算方式であっても、講師となる人間が事前に学習さえしていれば満足できる講習を開くことができる6)。消防人が勤務中に自分の人件費を消費しながら教える必要はなく、ボランティアを募って教えさせる方式で十分なのである。

 小児へのAEDの適応

 日本では「8歳未満または体重25kg未満の小児には使用できません」とされている。これは小児用の電極がまだ認可されていないのが原因であり、そう遠くない将来に使用が許可されるだろう。
 小児へのAED使用については2000年のガイドラインではその使用を明確には規定していなかった。その後、2002年の国際蘇生委員会ILCORにおいて1歳から8歳までのAEDの使用が規定された。さらに翌年の2003年、1歳未満の乳児についても規定がなされた7)。それらをまとめると、

(1)AEDは1歳から8歳までの循環兆候のない小児に対して使えるかもしれない(AEDs may be used for children)。理想的には小児用の電極を使うべきであり、不整脈監視のアルゴリズムは小児の除細動適応波形に高い特異性を持つべきである(注意:小児は心拍数が高く、またV1誘導でSTが逆転しているなど、成人と波形が異なることが知られている)(Class IIb)。
(2)1歳未満の小児に対するAEDの使用についてはそれを勧めるにも拒否するにも明らかなエビデンスはない。
(3)しかし、循環兆候のない乳児においてタスクホース(前項参照)は119番通報やAEDを装着する前に1分間のCPRを続けるよう勧告する。
(4)心室細動や無脈波心室頻拍が明らかな乳児については除細動が適応になる(Class I)。

 小児へは何J流すか

 小児への出力に関しては意見が分かれている。一つは「成人と同じでいい」というものであり、もう一つは「体重割りにするべきだ」というものである。ILCORが紹介する実際に3歳の患児にAEDを行った報告8)では、9J/kgの除細動をかけても心筋からの逸脱酵素は上昇しなかったとしている。しかし、これはわずか1例のみの報告に過ぎない。その後もAEDを小児に使った報告は単発の症例報告9)程度しかない。
 今の時代、ヒトを相手に規格外の医療行為をすることはなかなか難しい。それで人間によく似た呼吸循環器を持つブタを小児に見立てて実験するのが、それでも結果が分かれている。
 2002年に出た論文10)では、成人用の二相性除細動器を改造して50Jに出力を落とし、いろいろな体重,(3.8kg, 7.5kg, 15kg, 25 kg)のブタを相手に除細動を試みたものである。その結果、全てのブタは生存し、また心機能も心室細動前に復帰した。このことから筆者らは3.8kgから25kgという広い範囲で二相性除細動の出力は一定でいいと結論づけている。
 それに対して今年3月に出たばかりの論文11)では、成人の出力を小児にそのまま当てはめるのは危険だとしている。実験方法は上記とほとんど変わらず、さまざまな体重(13-26kg)の32頭のブタに対して電気的に心室細動を起こした。その後、小児の二相性除細動出力を想定した50, 75, 86Jの除細動を行う群と、成人の二相性出力を想定した200, 300, 360Jの除細動を行う群に分けた。4時間後の心筋逸脱酵素は小児出力群で有意に低く、心拍出率は有意に高かった。そして、24時間後の神経学的後遺症を残さない生存頭数は小児出力群が13頭であったのに対し、成人出力群はわずか4頭であった。この結果から、小児を想定したモデルには成人用の出力は大きすぎて患者に障害を与える可能性があると警告している。ただ、この実験は変だ。二相性除細動なのに単相性と同じ出力を子ブタに与えれば変になるのが当たり前ではないのか。

 標準は何Jか

 現在のところ、小児に対する明確な出力は上述のように決められていない。ただ文献を読む限り、成人と同じ出力で電極は小児用を用いるのが優位のように感じる。ただ、出力が小さければそれだけ心筋をはじめとする全身臓器へのダメージは少なくなるので、これから症例を重ねていけばどんどん出力は小さくなっていくことが予想される。

1)Circulation 1998; 97:1315-20
2)Circulation 2004;109:1859-63
3)Resuscitation. 2005;64:171-5
4)Crit Care 2005;9:R110-6. Epub 2005 Jan 31
5)Ann Emerg Med 2001;38:216-22
6)Resuscitation 2004;63:305-10.
7)Circulartion 2003;107:3250-5
8)Am J Cardiol 2000;86:1051-3
9)Arch Dis Child. 2005;90:310-1
10)Crit Care Med. 2002;30:2736-41
11)J Am Coll Cardiol. 2005;45:786-9


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