131107口頭指導と小物の効果

 
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131107口頭指導と小物の効果

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ガイドライン2010では119番通報時の口頭指導の重要性が強調されている。今回は通信員の口頭指導に関連した項目をお伝えする。

以前は口頭指導の効果は不明だった

まずは2011年12月に出た、過去の論文を横断して検討した報告1)を見てみる。調査対象は1985年から2009年12月までに発表された論文である。病院外心停止の症例(小児を含む)に対して119番口頭指導を行い、生存退院率の上昇など良好な結果が得られたか調べた。対象期間中に発表された関連論文は665編、このうち検討に値する論文はわずか5編しかなかった。後ろ向き研究の1編は口頭指導によって生存率が上がったとしている。3編の論文、このうち2編は前向き研究で1編は後ろ向き研究なのだが、有意差はないものの口頭指導で生存率が上がる傾向が見られたとしている。残り1編は逆に有意差はないもの生存率が低下する傾向が見られたとした。これら5編とも無作為割り当て研究ではなく、また小児対象の研究ではない。単純に考える結論は「口頭指導の有効性は不明」となるのだが、筆者らは強引に「口頭指導はバイスタンダーCPRを増やすことになるので、通信員は心肺停止症例に対しては全例口頭指導をするべき」と結論づけている。

ガイドライン2010では効果あり

2009年から2011年までの症例を集めた報告2)が韓国から出ている。ソウルでは2011年からガイドライン2010による口頭指導を行っている。ガイドライン2010での口頭指導の徹底により、バイスタンダーCPRは2009年の5.7%から2011年では12.4%へ上昇、生存退院率は同じく7.1%から9.4%に、神経学的に良好な生存退院患者は2.1%から3.6%へと、全て有意に上昇した。

前段で挙げた論文1)はかなり古い論文からも引っ張って来ていて、人工呼吸を省略できなかったり固定電話のために119番と会話するためには患者の元を離れる必要があったりと、今とはかなり条件が異なる。韓国の例ではガイドライン2010の前から口頭指導はやっていたのだろうが、人工呼吸の省略と携帯電話の普及により口頭指導の有用性が高まったと考えるべきだろう。胸骨圧迫だけなら見たことがなくても教えられればできそうだが、人工呼吸は見たことがあっても実施は難しいからだ。

メトロノームやビデオによるガイド

誰もが携帯電話を持ち、今はスマートフォンが普及してきている。胸骨圧迫をしながら指導を受けられること、スマートフォンなら画面を見ながら真似できることから、いろいろな方法が試されている。

最初はメトロノーム。過去に全く蘇生法の練習をしたことのない人を対象に、口頭指導でマネキン相手にCPRを行い、メトロノームがCPRの助けになるかどうか検討した3)。CPR訓練未経験の67名をメトロノーム群33名と対照群34名に分けた。メトロノーム群は口頭指導に加えて毎分110回のメトノローム音を流した。結果として、メトロノーム群では胸骨圧迫のテンポが対照群に比べて有意に速くなり、それも平均してメトロノームより速く胸骨圧迫を行うようになった(メトロノーム群は毎分120回、対照群毎分97回)。また胸骨圧迫中に適正のテンポとされる100回から120回を上回るテンポを短時間でも示した割合がメトロノーム群で97%、対照群で15%あった。胸骨圧迫の深さは平均すると両群で有意差はなかったが、120回より速い部分だけを見るとメトロノーム群で押す深さが有意に浅くなっていた。結論として筆者らはメトロノームは胸骨圧迫に有利に働くが押しが浅くなる危険性を指摘している。

救命講習や各種セミナーではメトロノームを聞かせてこのテンポを体に覚えさせるように言われる。だが胸骨圧迫を全くやったことのない人にとってはメトロノームはリズムを合わせる音ではなく煽られて聞こえるようだ。

次はスマートフォンによるビデオガイダンス。音に加えてビデオを見せたら胸骨圧迫が良くなるか試したものである4)。音声ガイダンス群が39名、ビデオガイダンス群が39名。被検者は携帯電話を渡され、音声群は電話からの音声をたよりに、ビデオ群は音声に加えて画面を見ながらマネキン相手に蘇生を行った。結果、音声群に比べてビデオ群は胸骨圧迫のテンポが適正(ビデオ群は毎分100回、音声群は毎分77回)で電話を受けてから胸骨圧迫の開始までが短かった(ビデオ群31秒、音声群28秒)。さらに手の位置も適切で胸骨圧迫の中断も少なかった。ビデオ群の欠点としては押しが浅い(ビデオ群28mm、音声群31mm)ことだった。

百聞は一見に如かずで、聞いて想像するより見せてくれた方がずっと正しい胸骨圧迫ができるだろう。胸骨圧迫がビデオ群で浅くなったのは見ることに気をとられていたためと思われるが、音声群と有意差があるとしてもたった3mmである。これはビデオや音声を内容を改良することによって改善できるだろう。

メトロノームなら普通の電話の横でカチカチさせればいいだけだろうが、ビデオは実際に写すとなると仕組みが大変だし、慌てふためく家族がスマートフォンで動画を映し出せるだけの余裕があるか分からないが、将来的には誰でもビデオを見ながら蘇生できるようになるだろう。

勉強しよう

消防庁では去年から通信員の教育について検討を始めた。私がよく知っている田舎の消防では消防の最上層部以外はみな救急隊員で、通信は職員が持ち回りで担当しているため、住民が119番で話す相手はまず間違いなく救急隊員である。しかし大きなところへ行くと通信専門の人がいて、救急をやったことがないのに口頭指導をしている人も数多くいるらしい。プロトコールやフローチャートがいくら充実しても、経験があるのとないのとでは受話器の向こうに見るものが違うだろう。経験を積むのが無理なら、せめて重要な病気やケガの仕組みを覚えてもらえると、説得する力も説得する熱意も変わってくる。覚えることがいっぱいあって大変だが頑張ってほしい。

文献
1)Resuscitation 2011;82:1490-5
2)Song KJ:Resuscitation 2013 epub ahead
3)Emerg Med J 2013;30:657-61
4)Resuscitaiton 2011;82:64-8


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13.11.7/7:48 PM

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