151227僻地地域におけるドクターヘリの有効性

 
  • 424読まれた回数:
症例

151227僻地地域におけるドクターヘリの有効性

OPSホーム>症例目次>151227僻地地域におけるドクターヘリの有効性

講座・特異事例

月刊消防のご購読はこちらから

151227僻地地域におけるドクターヘリの有効性

氏 名 : 星川 慎吾 (ほしかわ しんご)
https://ops.tama.blue/wp-content/uploads/2018/04/hoshikawa-1.jpg

所 属 : 南宗谷(そうや)消防組合 中頓別(なかとんべつ)支署

出 身 : 北海道枝幸(えさし)郡中頓別町

消防士拝命 : 平成10年 4月 1日

救急救命士合格 : 平成22年

趣 味 : アウトドア

はじめに

中頓別町は北海道の北部に位置し、南宗谷消防組合3町で構成されています。

当町の中央部には、標高704mの秀峰ピンネシリ岳を中心とした山岳地帯が広く分布しており、近年の登山ブームの影響で道の駅に隣接している「ピンネシリ岳」には、年間約700名の登山客が、中頓別町に足を運んで頂いております。

自然豊かな地域であり、自然災害等も少なく比較的平穏な町でもあります。

過去には、僻地地域が故に、いざ転院搬送依頼がかかると、2次医療機関が存在する名寄市までは陸路搬送で約70分、3次医療機関ともなると旭川市までは約120分もの時間が必要であり(図1:中頓別町の位置。2次病院は名寄市、3次病院は旭川市にあります)、急性期の患者搬送のリスクを痛感することがたびたびでした。

平成21年10月の道北ドクターヘリ運航開始以降は空路を活用して早期に搬送が可能になりました。今回はドクターヘリを要請した2つの事例を紹介します。

事例1

5月上旬の午前7時30分覚知。「施設職員の女性が床に座り込み、意識レベルが落ちてきている」と、同じ職場同僚からの救急要請を受け、救急隊3名1隊で出動しました。
救急隊現場到着時、傷病者は施設の居室にて右側臥位の状態で介助されながら嘔吐しており、直ちに救急隊により介助を引き継ぎ(写真2:嘔吐する傷病者)、その場でバイタル想定を開始しました。

写真2:嘔吐する傷病者

 

痛み刺激及び呼び掛けを繰り返すとかろうじて開眼したことから、意識レベルはJCS30と判断。初期バイタルは、呼吸数30回/分、脈拍数77回/分、血圧は161/86mmHg、SpO2は94%であり、瞳孔初見は両側共に3mmで対抗反射も鈍い状態で、左共同偏視が若干ではあるが確認されました。

傷病者と一緒に勤務されていた方に再度聴取すると、「消防通報する約1時間前は普段と変わらない状態で仕事に就いていた」「午前7時10分頃に施設利用者居室にて床に座り込み、ボッーとしている所を発見した」とのことでした。このことから発症してから短時間で消防通報に至ったことを確認しました。

観察結果から、脳血管障害(解説1)を疑いドクターヘリにて2次及び3次医療機関への施設間搬送も準備しつつ、午前7時43分に直近の医療機関へ収容し(写真3:医療機関へ収容)、医師引継ぎとなりました。

写真3:医療機関へ収容

医師による診断は被殻出血でした。早期に3次医療機関へ搬送との判断により、運航開始時間前ではありましたが、午前7時58分道北ドクターヘリ通信センターへ施設間搬送依頼の一報を入れ、午前9時15分ドクターヘリが到着(写真4:ドクターヘリが到着)。

地元ドクターとフライトドクターの引継ぎ完了後、道北ドクターヘリ基地病院である旭川日赤病院へ搬送となりました(写真5:ドクターヘリ離陸。実際の写真)

この患者さんは現在、自宅へ戻られ1日約3kmの歩行訓練等に励み、社会復帰に向け懸命にリハビリを行っております。

————-
解説1

脳血管障害の分類
A.脳出血 1.脳内出血
2.クモ膜下出欠
3.慢性硬膜下出血
B.脳梗塞 1.脳血栓症
2.脳塞栓症
3.ラクナ梗塞
4.一過性脳虚血(TIA)
C.その他の脳血管障害
1.高血圧性脳症
2.脳動脈瘤
3.脳動静脈奇形
事例1はA.脳出血 1.脳内出血に含まれます。

—————

事例2

7月中旬の14時29分覚知。「○○さんがトラクターの下敷きになって動けない」との救急要請。救急隊3名1隊、その後、非番、公休者を召集し、ポンプ隊4名1隊、消防指令車1名1隊にて出動しました。

現場は消防から約30km離れた場所でした。出動途中の救急隊長により「農業用トラクターによる横転事故及び傷病者が下敷きによる高エネルギー交通外傷」と判断し、午後14時38分にドクターヘリ出動要請を行いました。

事故は山の斜面を利用した牧草地で起こったため、現場直近にSUV車である消防指令車以外乗り入れることができず、救急隊は徒歩、ポンプ隊は油圧救助器具等を消防指令車へ載せ替えて、救急車及びポンプ車の停車位置より約300m離れた現場へ移動しました。

現場到着時、傷病者は車体左側を下にして横転したトラクター(写真6:横転したトラクター)の下敷きになっていました。

トラクターのステップ部分が左胸にあたり脱出不可能(写真7: ステップ部分が左胸にあたり脱出不可能(再現写真))ではありましたが意識は清明であり、それ程痛みは訴えていませんでした。

写真7: ステップ部分が左胸にあたり脱出不可能(再現写真)

 

ステップチョークで車両の再横転を防ぎ、油圧カッター(写真8:油圧カッターにて切断を試みる)により左胸を挟んでいるトラクターのステップ部分を切断し

写真8:油圧カッターにて切断を試みる

写真9:切断されたステップ。実際の写真

 

(写真9:切断されたステップ。実際の写真)救出完了となりました。完了の6分後ならびに、ドクターヘリ出動要請から36分後の午後15時19分に現場直近である牧草地にドクターヘリが到着し、フライトドクター、フライトナースへ傷病者を引き継ぎ、緊急を要する外傷はないものの、精密な検査が必要とのフライトドクターの判断により、2次医療機関である名寄市立総合病院へ搬送となりました。(写真10:牧草地に到着したドクターヘリ)

写真10:牧草地に到着したドクターヘリ

トラクターの横転下敷きにもかかわらず、幸いにもこの方は、左胸部打撲、右前腕手背裂創の軽症と診断され、その日のうちに退院となりました。

考察

ドクターヘリの目的は、救急現場における初期治療時間の短縮が第一目的であり、さらに医療機関への迅速な搬送を行い、決定的治療の開始時間を短縮することが第二の目的です。
今回の事例1では、ドクターヘリでの施設間搬送(解説2)及び早期の医療介入により、病態悪化などのリスクを最小限に抑えられた事例だったと考えられます。陸路搬送では長時間を要することに加え、路面からの揺れを完全に防ぐことはできず、出血量の増加が懸念されるためです。
事例2については、覚知時出動要請(解説3)を行っています。中頓別町はドクターヘリの基地である旭川市から160km北に位置します。ドクターヘリの到着時間を考え、覚知段階でドクターへリ出動を要請することにより一刻も早い治療開始を期待した事例でした。

中頓別町の場合、ドクターヘリ到着までは約40分かかります。この40分間を無駄にすることなく、傷病者にとって最良の救急救命処置を施したいと思います。

中頓別支署は年間100件弱という救急出動件数ではありますが、常に傷病者の立場に立ち、最良な活動手段を選択できるよう、今後も日々精進していこうと思います。

解説2) 地元医療機関からの施設間搬送の場合

2次医療機関(名寄市)搬送「距離=90㎞」

 


OPSホーム>症例目次>151227僻地地域におけるドクターヘリの有効性


https://ops.tama.blue/

15.12.27/5:14 PM]]>

症例
スポンサーリンク
opsをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました