170910クモ膜下出血の2例

 
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救急事例解説

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170910クモ膜下出血の2例

プロフィール

氏名  佐藤直幸(さとうなおゆき)
所属 釧路北部消防事務組合 消防署
出身 川上郡町
消防士拝命 平成13年
救急救命士合格 平成24年
趣味 釣り、特技 バレーボール

はじめに

釧路北部消防事務組合は北海道東部にある釧路管内の北部に位置し、弟子屈(てしかが)町、標茶(しべちゃ)町、鶴居(つるい)村の2町1村で構成されます。私が住む標茶(しべちゃ)町は周囲を山に囲まれた盆地(写真1)で夏と冬の寒暖差が大きく、町の中央には釧路川が流れ、日本最大の湿原である釧路湿原(写真2)を保有する、水と緑の豊かな町です。

写真1  標茶町風景

写真2  西別岳から見た虹別原野

人口は約8千人、管轄する町の面積は1,099.56 km2であり、日本全国の町村では、6番目に広く、東京23区より広い面積を管轄しています。

主産業は酪農業(写真3)で乳牛の頭数は人口の約3倍の数がおり、良質且つ豊富な牛乳が生産されています。

写真3  標茶町の乳牛

特産品の一つである飲むヨーグルト「プリティア」(写真4)は添加物を使用せず適度な酸味とまろやかなコクのあるヨーグルト飲料となっています。

写真4  特産品「プリティア」

今回は私の住む標茶町でおきたクモ膜下出血*1についての救急事例をご紹介いたします。

解説
*1 くも膜下出血とは

救急現場で使うキーワード。
救急課、救命士重要事項
くも膜下出血とは

Subarachnoid hemorrhage=SAH(ザー)と呼ばれ、頭蓋骨の内側には3つの膜があり外側から硬膜、くも膜、軟膜で形成され脳を覆っています。このくも膜と軟膜の間(くも膜下腔)に出血が生じ、脳髄液中に血液が混入した状態をくも膜下出血といいます。

くも膜下出血の原因で最も多いのは脳動脈瘤の破裂で約70〜85%を占める。それ以外には脳動脈の動脈解離、脳動静脈奇形からの出血や外傷によってくも膜下腔にある血管が破綻して起こるくも膜下出血もある。

症状は突然発症する激しい頭痛と嘔気・嘔吐、重症例では意識障害を伴い、まれに片麻痺や失語症といった脳局所症状をきたす事もある。発症直後の意識レベルによく相関し、くも膜下出血の重症度が決められる。(表1)

重症のくも膜下出血では、発症直後に心肺停止や神経原性肺水腫により呼吸困難を起こすことがあり、急性心筋梗塞に類似した心電図変化に加え、心不全をきたす「たこつぼ型心筋症」とよばれる合併症もある。頭蓋内圧亢進症状として除脈と高血圧※1(クッシング徴候)の有無を観察する。よく知られる髄膜刺激症状である項部硬直は、発症直後にはみられず、数日後に顕著となる。

典型的な症状がある場合に「くも膜下出血」を疑うことはあまり難しくない。発症直後は仮止血した動脈瘤の再破裂が死亡の原因となる。嘔吐や興奮、疼痛などの刺激による血圧上昇をできるだけ回避する。再出血は死亡率が高いので急ぐよりやさしく搬送することを心掛ける。

※1 クッシング徴候とは 脳は脳血流を一定に保つために全身の血圧を上昇させ、高血圧となりその反射(迷走神経反射)で除脈となります。この現象をクッシング徴候といいます。

事例1 外因性クモ膜下出血

平成××年1月×日 覚知5時00分

通報内容:75歳。 男性。 廊下で転倒し動けずにいる。手から少量の出血があるが血は止まっている。

意識と呼吸に異常ないとのこと。

外因性、内因性の両面を考慮し傷病者に接触しました。

現着時、傷病者は小階段(高さ1m程度5段)の前に仰臥位で管理人が寄り添っていました。

開眼しているが刺激に反応せず、意識レベルJCS300、GCS−E4,V1,M5計10点、呼吸は鼾様呼吸のため、用手にて気道を確保しました(写真5)。

写真5
鼾様呼吸のため用手にて気道を確保

除細動器装着しバイタル測定実施。接触時バイタル 呼吸深く18回/分、脈拍50回/分、血圧182/96、SPO2  98%、瞳孔所見 両側4㎜対光反射鈍い、左上下肢に運動を認めるが右はなし、頭部にあきらかな外傷なし、両手背に打撲痕及び擦過傷があり止血状態。既往歴は糖尿病。バックボードにて全脊柱固定し直近の2次医療機関へ収容しましたがすぐに3次医療機関に転院搬送となりました。

この事例ではクッシング徴候が認められた。また開眼しているが意識はない状態(写真6)だったのでJCSではなくGCSで意識レベルの評価をしました。呼び掛けや痛み刺激による反応はありませんが開眼しており、自分のテキスト上の未熟な覚え方のため、開眼しているか・開眼していないかという言葉だけの覚えかたをしていたためにE4と判断してしまいました。

写真6
開眼しているが意識はない状態

収容先の医師に意識レベルについて助言を求めたところ、GCSのEでは瞬きのない開眼はE1と判断するようにと助言を頂きました。意識レベルの判断に苦慮する事例であった為もう一度、JCSとGCS*2をしっかりと再確認し現場で判断に迷わないよう活動していこうと思う症例でした。

解説
*2 JCSとGCS

表2 JCS:ジャパンコーマスケール(3−3−9度方式)

 

表3 GCS:グラスゴーコーマスケール

事例2 内因性クモ膜下出血

平成××年3月×日 覚知17:00

通報内容

94歳 女性 帰宅したら母親が嘔吐し倒れていて呼び掛けに開眼せず唸っている。喉が詰まっているようだとの事。

現着時、居間ソファーにて家族に支えられ座位でいました(写真7)。

写真7
居間ソファーにて家族に支えられ座位

意識レベルJCS300、GCS−E1,V1,M3計5点、努力呼吸を呈し少量の嘔吐痕あり、仰臥位にしバイタル測定実施。呼吸12回/分、脈拍132回/分、血圧157/88、SPO_ 97%、瞳孔不同(右3㎜、左2㎜)を認めます。用手にて気道確保実施し、インハレーター酸素を接続し補助呼吸を実施しました。念のため除細動器を装着したところ一源性のPVCを確認しました。

この方は17時頃にウォーキングから帰宅したあと激しい頭痛と嘔気を訴え嘔吐し(写真8)その後すぐに意識消失したとのことです。

写真8
ウォーキングから帰宅したあと激しい頭痛と嘔気を訴えた

この事例ではくも膜下出血の臨床症状である激しい頭痛と嘔気・嘔吐が見られたため初期観察段階でくも膜下出血を疑い観察を行いました。血圧上昇を回避するためペンライトでの眼球への直接照射を避け、また搬送時の振動をなるべく軽減させるため機関員に指示し院内へ収容しました。ストレッチャーで傷病者に与える振動は救急隊員が思っているより大きいことを伝え、機関員には道路(アスファルト)上にできた轍を避け傷病者に振動を与えないような走行をするよう指導(訓練)しています。(写真9,写真10)

写真9
轍を避け走行する。車内から

写真10
轍を避け走行する。車外から
考察

脳血管疾患は救急の勉強をする際に大きなウェイトを占めよくテストの問題にも出題されます。解説1では重要箇所を強調していますのでこれから救急隊員や救命士を目指す皆さんの参考になれば幸いです。

くも膜下出血の患者数は多く、救急搬送時によく見かける症例です。くも膜下出血の原因である脳動脈瘤が再破裂すると高い確率で死亡します。このため、救急活動時には最破裂を避けるために細心の注意を払わなくてはなりません。もう一度病態生理を見返し、それに伴う観察や処置、判断を間違えないようしっかりと覚えなおす必要があるとこれらの症例を経験して感じました。これからも知識と経験を向上させテキストにとらわれない臨床力を身に着け地域住民のために力を発揮できる救急隊員になりたいと考えています。


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17.9.10/12:01 PM]]>

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