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事後事例検証会:事後事例検証 急性腹症の観察と処置について。プレホスピタルケア 2002:15(2)通巻48:67-9

事後事例検証会:事後事例検証 急性腹症の観察と処置について。プレホスピタルケア 2002:15(2)通巻48:67-9

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事後事例検証

本日の講義(第5回)
-急性腹症の観察と処置について-

傷病者の概要
16歳女性(高校生)が夕食中に急に腹痛を訴えたため母親が救急車の出場を依頼したもの。現着時傷病者は居間に仰臥位でおり、腹部全体の痛みを訴えていた。

観察結果
JCS 0、顔色蒼白、傷病者は軽く発汗しており、四肢には冷感が見られた。心拍数120回/分、血圧100/60mmHg、SpO2 98%。腹部全体の強い痛みと腹部膨満を認めた。

収容から病院到着までの状況
酸素をマスクにて10L/分投与した。車内収容時から血圧が低下しだし、病院到着時には血圧80/40mmHg。心拍数は130回/分。JCS 0、SpO2 98%。低血圧のためショック体位を取ったが血圧は上昇しなかった。5分後病院到着。到着時のJCS 1。

質疑事項
傷病者への対応は適切だったでしょうか。


座長:傷病者の概要について聞いておきたいことはありますか。

A:傷病者の既往については何かありますか。
救急:母親から聞いたところではずっと元気に学校に通っていたそうです。

B:お腹は急に痛くなったのですか。
救急:そうです。直前まで家族と夕食を食べていました。

C:体温は測りましたか。
救急:測っていません。四肢の冷感があり、発熱はないようでした。

D:腹痛の場所はどこだったのでしょう。
救急:傷病者は腹部全体と言っていましたが、手を当てていたのは下腹部でした。

E:生理との関係については尋ねましたか。
救急:先月はちゃんとあったとのことでした。

F:どのような病気を考えましたか。
救急:初めは急性虫垂炎を考えましたが、急に症状が出たことから虫垂炎ではなさそうだと判断しました。

G:ショック体位の効果はなかったとのことでしたが、血圧の変化について教えてください。
救急:現場での血圧は100mmHgでした。車内収容時には90mmHgとなり、これはまずいとショック体位を取ったのですが、血圧は低下し続け病院到着時には80まで下がってしまいました。

H:患者の様子に変化はありませんでしたか。
救急:特に変化はなかったようです。ずっと腹部の痛みを訴えていました。

I:病院選定はどのように考えましたか。
救急:腹部が痛いこと、血圧が低下してきたことから、腹腔内の出血を疑い外科病院に搬送しました。

座長:考えられる疾患としてはいくつかありますが、急性虫垂炎以外には何を考えましたか。
救急:お腹の中の出血ということで、子宮外妊娠をまず考えました。しかし、傷病者は妊娠を強く否定するものですから、そのほかの原因なのかなと思っていました。

座長:では先生に病院内の経過を発表していただきます。
医師A:はい。来院時患者の顔面は蒼白で、眼球結膜は白色でした。患者は下腹部痛を強く訴えていました。来院時血圧は82/45mmHg, 心拍数140回/分。すぐ輸液を開始しました。
症状から子宮外妊娠を疑い問診しましたが、患者は妊娠を否定しました。そこで家族を救急外来から出し、採尿するときに本人にもう一度確認したところ2ヶ月月経がないと言いました。尿検査ではhCGが妊娠レベルに達しており、経腟超音波断層によって子宮内に胎嚢がないことを確認しました。胎嚢は左卵管に腫瘤として認めました。
卵管妊娠の中絶と診断しました。手術は腹腔内に大量の血液があることから、開腹し卵管摘出術を行いました。手術中の写真を提示します(写真)。

写真
傷病者の術中写真。
卵管には胎嚢を認め、卵管膨大部妊娠と診断された。この後卵管は切除された。

座長:ありがとうございました。さて、救急隊員の皆さんは出産についてはいろいろ勉強するでしょうが、子宮外妊娠については漠然とした知識しかないと思います。そこで先生から子宮外妊娠についてレクチャーをお願いします。
医師B:子宮外妊娠は全妊娠の2%程度にみられ、その97%は卵管妊娠です。近年子宮外妊娠の頻度は急速に増加していまして、東京の一部では100妊娠に1例まで増加しています。アメリカでは多いところでは66妊娠に1例にも上ります。原因には妊娠中絶や流産が指摘されています。
卵管妊娠では卵管が破裂するのが8-12週です。症状としては妊娠中絶もしくは破裂までは妊娠徴候のみでその他の症状はありません。
典型的な症状としては、妊娠しているのですから月経がないのは当然として、妊娠の中絶や破裂の前には性器出血が見られます。その後中絶に伴って突然激烈な下腹部痛がおこります。出血が多くなると横隔膜下の痛みや肩の痛みが起こります。腹腔内出血が多くなってくれば当然出血性ショックとなり、血圧低下・頻脈・顔面蒼白・冷や汗・無表情となります。最近は診断技術の発達によりショック症状まで至る症例はほとんどなくなってきました。
診断は尿中hCG測定による妊娠の確認に続いて経腟超音波断層法により子宮内に胎嚢がなく子宮外に胎嚢を認めることで行います。
治療法は破裂前であれば抗ガン剤であるメトトレキセートを投与することによって妊卵の流産させ自然吸収させます。破裂していても出血が少ない場合には腹腔鏡で妊卵のみを除去する方法がとられます。
この症例の場合には、病院にかかっておらず卵管破裂が初めての症状であり、出血もショックを起こすほど多量であったことから腹腔鏡は施行できず、開腹手術となり卵管切除術を行いました。もし患者が妊娠に対して前向きな姿勢でいたのなら子宮外妊娠も早期に発見できたでしょうし、卵管破裂に至る前にメトトレキセートの注射で事なきを得たと思います。
卵管妊娠の再発は約10%に起こり、子宮外妊娠の手術後50%が不妊症になると本にはありますが、実際に不妊症になる比率はもう少し少ないのではないかと思います。

座長:ありがとうございました。さて、ここで救急隊としての問題点を考えましょう。まず、今回救急隊員は傷病者に妊娠の有無を尋ねましたが、それは必要なことなのでしょうか。
医師C:可能ならば聞くべきでしょう。妊娠していれば妊娠を念頭に疾患を考えられるでしょう。切迫流産は妊娠期間のいつでもあるし、目の前で出産が始まることもあるからです。
ただ、本人が妊娠のことを正直に救急隊員に告げるかどうかはまた別です。救急室に運ばれて医者が尋ねても妊娠のことを言わない人は結構いますし、ひどくなると尿検査で妊娠の結果を見せても否定しようとする人すらいます。

座長:次に、傷病者に対して今回は酸素投与とショック体位を取らせていますが、これらの処置は正しかったのでしょうか。
医師D:救急隊の処置は正しいと思います。今回の症例に対して救急隊ができることはショック体位を取ることと励ますことです。

座長:病院選定についてはどうでしょう。
医師E:総合病院なら対応が可能なので、選定に誤りはないと思います。

座長:今回の事例に関して質問はもうないでしょうか。
医師F:ちょっと付け足してよろしいでしょうか。
今回の症例は高校生でした。自分では妊娠に気づいていたようです。しかし、高校生なのに妊娠したことに加え、突然の腹痛、ショック症状と事態はどんどん悪化していきました。救急室で初めは妊娠を否定しましたが、これは致し方のないことだったと思います。子宮外妊娠であること、すぐ開腹手術が必要なことを本人と家族に別々に説明しましたが、本人は意外としっかりしていました。母親がいちばん取り乱していました。
私たち医師の間の鉄則として、「女性を見たら妊娠と思え」があります。これは診察・診断するときの除外診断としての意味だけでなく、レントゲン写真を撮る場合や薬を処方する場合にも常に考えなくてはいけないことです。
また、特に婦人科の診察では「患者は嘘をつく」という言葉も忘れてはいけません。若い女性の場合、初めから正直に話をしない人もいます。自分の隠したいことを聞かれるとなおさらでしょう。医師の場合には長い時間をかけて真実を探ることが可能ですが、救急隊の場合、患者と接するのは現場から病院までの数分でしょうから、信頼関係を築くことはかなり難しいと考えられます。
患者には触れられたくないこともあることを承知した上で、接遇や対応に心を配ることにより正確な情報を得るよう努力するしかありません。日頃から接遇には関心を持つことが重要です。
座長:ありがとうございました。他に意見がなければこれで終了とします。


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06.10.29/12:32 PM





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