手技88:ベテラン救急隊員が伝承したい経験と知識(3)資器材の説明と処置・体位管理

 
  • 4624読まれた回数:
基本手技

OPSホーム>基本手技目次>手技88:ベテラン救急隊員が伝承したい経験と知識(3)資器材の説明と処置・体位管理

手技88:救急隊員を目指す初任科生へ

第三回
資器材の説明と処置・体位管理

今月の先輩

長屋伸成(ながや のぶなり)

紋別地区消防組合消防署滝上支署

北海道紋別郡滝上町出身

昭和60年消防士拝命

趣味は映画鑑賞・キャンプ


「救急隊員を目指す初任科生へ〜ベテラン救急隊員が伝承したい経験と知識」

シリーズ構成

亀山洋児(猿払)


はじめに

第2回では安全管理と接遇について説明しました。第3回目は資器材の説明と処置・体位管理について説明します。


A.資器材の説明と処置
写真00高規格救急車  救急用の資器材には、目的に応じて様々なものがあります。 救急指令(通報内容)を受けてから現場に到着するまでに車両から必要な資器材を選定し現場に携行しなければなりません。状況の評価を行い、傷病者の状態(観察結果)に基づき適応する救急資器材を選定して迅速な応急処置を行います。そしてストレッチャー(担架)に乗せて救急車に収容、病院に到着、収容(医師に引き継ぐ)するまで資器材は使用されます。また、帰署後は迅速に救急車や使用資器材の消毒と清掃、消耗品の補充を行います。そのため日頃から資器材の取扱に精通するとともに、維持管理を適切にしていつでも出動できる体制を整えておく必要があります。

写真01隊長バック他
 さて、おおまかな資器材の種類として観察用資器材、呼吸及び循環管理用資器材、創傷等保護・固定用資器材、搬送・保温用資器材、その他応急処置用資器材、消毒用資器材、訓練用資器材について説明します。 ※現場に持っていく資器材については救急(隊長)バック(背負えます)などに収納しています。中には体温計、ペンライト、聴診器、心電図モニタ-、酸素ボンベ、バックバルブマスク、血圧計、パルスオキシメ-タ、喉頭鏡、マギ-ル鉗子、経口・経鼻エアウエイ、滅菌ガーゼ、三角巾などがあります。

閉まっているはずのチャックが開いており背負った時に現場でバックの中身をまき散らしたことがありました。

1、観察用資器材
 現場に到着、状況の評価を行い傷病者に接触し、観察をはじめます。『見(視)て、聞(聴)いて、感じて(通常は呼吸と循環の評価に用いる。)』というように五感を働かせて観察します。具体的には、見て【顔の表情、顔色・嘔吐・失禁・出血・四肢の変形・呼吸の状態、胸腹部の動きなど】聴いて【呼吸(息)の音、咳・本人の訴えなど】感じて【呼吸(吐息)を肌で感じて、手で触れて脈の回数、強弱・冷汗の有無・体温・臭いなど】となります。これら五感を補うために体温計、聴診器、血圧計、心電計、パルスオキシメータなどの観察用資器材を使用しますが、傷病者の状態によって使用する資器材は変わり(以下他の資器材についても同じです。) 必要最低限の資器材を選定します。やみくもに資器材を多用したり救急車に資器材を取りに戻ったりするなどして病院到着時間を長くすることは、良くないことです。 それでは、観察用資器材について説明していきます。

写真02観察用資器材。左上から電子体温計(測定範囲32ー42℃、測定時間10-30秒)水銀体温計(35-42℃、5分)、温度計(低体温時に使用)。右列は各種ペンライト。
写真03耳式体温計。32-42℃,1-2秒で測定可能
( a ) 体温計(水銀体温計、電子体温計) 人間の体温を計ることを目的としたもので概ね32℃から42℃までの範囲で測定できます。これ以下の体温を測定したい場合は、低体温でも計れる体温計を使用すれば測定できますが、ない場合は、理科の実験等で使う棒温度計(写真1)などを使用します。救急では、すぐに測定できるものが多く使用されています。

体温を見てどうするかですが、発熱の程度を把握することにより保温、または、冷却などの応急処置をします。

(1)水銀体温計(写真2)測定範囲(35℃から42℃)測定時間約5分
(2)電子体温計(写真3)測定範囲(32℃から42℃)測定時間は、10秒~30秒ぐらいで測定できます。
(3)耳式体温計(写真4)測定範囲(32℃から42℃)測定時間は、1~2秒で測定できます。

(1)と(2)の測定場所は一般に腋の下で計りますが他に、口(舌下)や肛門でも可能です。(3)は、耳の穴(赤外線を鼓膜に当てて)で計ります。(2)と(3)は電池の点検も必要です。

( b ) ペンライト(検眼ライトとも言います。)

一般に瞳孔反応の観察に使用しますが、初めからペンライトを使用すると嫌がられるので異常があったときに使用します。また、口の中を見たり耳の穴を覗いた入りすることもあるようです。

普通は、瞼を開けて目に光りをあて目の中(瞳孔や目玉)の動きを見るものです。意識障害に先立って瞳孔不同が出現することがあります。瞳孔不同が確認された場合は生命に危険が差し迫っていると考えてバイタルサインのチェックを頻回に行います。
ペンライトの横に瞳孔の大きさが表示されているものが使いやすいです。

目に光を当てると病状が悪化(くも膜下出血疑い)する場合もあるので十分注意が必要です

電池の点検も必要です。


写真04上段:各種血圧計とパスルオキシメータ。人腕についているのはパスルオキシメータ。血圧計は左からアネロイド、自動2種。下段:各種聴診器。
(c ) 聴診器(ステート) 呼吸音、心音、腸雑音などを聴取して、呼吸、心拍の状態および腸管の状態を把握します。救急現場では、呼吸の有無や左右差などの呼吸音を聞くことがもっとも大事なことです。また、血圧測定にも使用します。シングル(膜)ヘッド型やダブル(膜とベル)ヘッド型などがあります。呼吸音を聞くのは、膜の部分で聞きます。ダブルヘッド型は切り替えがあるので確認が必要です。

呼吸の有無や左右差などの呼吸音を聴診器で聞くところ
 聴診器は傷病者にあてる前に、隊員自身の体温で聴診器のヘッドを温めてから聴診します。そうしないと傷病者が冷たく感じます。また、イヤーピースを確実に耳の穴に入れて聴診します。 救急救命士が医師の指示を受けて気道確保のためラリンゲアルマスクやコンビチューブなどを口(喉)に挿入した後必ず胸部の挙上と肺に空気が入っているかどうかも目と聴診器で確認します。
(ラリンゲアルマスクやコンビチューブは、呼吸、循環管理用資器材で説明します。)

訓練中の一こまです。せっかく高級で新しい聴診器(ダブルヘッド型)を購入しいざ呼吸音を聞こうとしましたが聞こえないではありませんか呼吸停止?いや意識清明です。膜の方に切り替えたらちゃんと聞こえました。


写真06a手首式
写真06b車載のアネロイド型血圧計。よく言う「タイコス」とは商品名。
( d ) 血圧計(水銀血圧計、アネロイド型血圧計、自動血圧計) すべての傷病者にとって血圧測定は循環評価の基本です。とくに、ショックの程度を判断するのに必要です。では簡単に見た目でショックとは、顔色の悪い人(顔つきの怖そうな人ではありません)顔面蒼白、呼吸の異状(速いか遅い)、脈拍の異状(速い、遅い・強弱)皮膚が蒼白・湿潤、大出血などがある場合などです。

(1)水銀血圧計 (あまり救急車には、積載されてないと思います。)
(2)アネロイド型血圧計(携帯に適し、振動の影響を受けにくいためⅠより救急では、多く積載されています。)
(3)自動血圧計(指用、手首用、腕用などがあり脈拍も表示されます。) 救急ではアネロイド型も使用されますが自動血圧計を使用する方が多いと思います。

(1)と(2)は、血圧を測定するために、聴診器も使用します。それにより最高血圧と最低血圧がわかります。また、聴診器がない場合や振動が多い時など聴診が困難な場合は、触診(橈骨動脈で脈を診る)して最高血圧を測定します。

詳しい取扱は、過去の月刊消防の記事を参照してください。

資器材の点検時ですが血圧を測定する時に、マンシェットの巻き方を上下逆に巻いたり裏表逆に巻いたりしたことがありました。裏表逆に巻くとマジックテ-プがはじけました。


写真08気道に関わる資器材。最上段:バックバルブマスク。中段:各種マスク。下段:左から喉頭鏡、マギール鉗子(ハサミのようなもの)、経鼻エアウエイ、経口エアウエイ、開口器(黒いねじのようなもの)舌圧子(棒のようなもの)
( e ) 舌圧子、舌鉗子、開口器 舌圧子は舌を押さえ喉の奥を観察するのに使用します。

舌鉗子は、舌をつかみ喉の奥の観察や吸引処置の際使用します。

開口器は、手を使って口が開かないときに使用します。

ほとんど使用したことはありません。


写真07左人腕:血圧計。右上段:心電図モニター。右下段:パスルオキシメータ。
( f )心電図モニター(ハートスコープ) 傷病者の心臓の動き(心拍数の変化、不整脈)を波形で記録しプリントする装置

前胸部3ヶ所(心臓を三角形に取り囲む)に電極のついたシールを貼って測定(II誘導)します。貼る部分が濡れているとシールが貼れないので乾いた布で拭きます。貼り方は『あ(赤)き(黄)み(緑)』と覚えます。通常の波形と心静止の波形、心臓がけいれん(心室細動)及び心室頻拍しているときの波形などを最低限覚えます。

詳しい取扱は、過去の月刊消防の記事を参照してください。

( g )パルスオキシメータ(動脈血酸素飽和度と脈拍を測定する資器材です。)

血液中の酸素が充分にあるかを確認する装置です。脈拍も測定され、酸素飽和度の数値(SpO2)は、パーセントで表示されます。正常範囲は96~100%です。最近は、小さな測定器も開発されています。

通常は、指にはめて使用します。指が汚れていたり、マニュキアなどがついていたりすると正確に測れない場合があります。また、手が冷たい場合なども、測れないときがあります。血圧を測定していない方の指に装着しましょう。

詳しい取扱は、過去の月刊消防の記事を参照してください。

2、呼吸管理用(気道確保)資器材

写真08呼吸管理資器材一式
 人は呼吸ができないと、生存することができません。普通、観察をはじめて、意識、呼吸の状態を確認していきます。正常な呼吸が感じなければ(呼吸の回数が異常に多い・少ない場合や、呼吸停止の場合)、気道確保や人工呼吸及び酸素投与が必要になります。方法としては用手的気道確保と、器具を用いた気道確保があります。 気道確保のための資器材は数多くあり、ポケットマスクやバッグバルブマスク、経口エアウエイや経鼻エアウエイ、救急救命士の行う特定行為としての食道閉鎖式エアウエイ、ラリンゲアルマスク、コンビチューブ、認定資格を有する救急救命士が使用できる気管挿管用資器材などがあります。

また、口腔内に異物(喉詰まり)がある場合、異物の除去が必要になります。指にガーゼなどを巻いて拭い取ったり、資器材を使用したりする方法としては、吸引器による場合や、喉頭鏡で喉の奥を見て、マギール鉗子で除去したりします。その他として背中を叩いたり、ハイムリック法(腹部突き上げ法)があります。また、体位変換により気道確保ができる場合がありますが体位管理のところで説明します。


写真09酸素ボンベ
(a)酸素投与資器材 呼吸、循環の異常、意識レベルの低下などがある場合や外傷、酸欠事故による事例などに酸素投与を行います。酸素は酸素ボンベに充填されており酸素ボンベのバルブを開いて加湿流量計、酸素マスクやバックバルブマスクを介して人体に供給します。携帯用酸素ボンベでは加湿器を使用しません。携帯用酸素は、通常救急バック(隊長バック)に収納されています。

(1) 酸素ボンベ

黒いボンベに白い文字で酸素と表示されており、いろいろな大きさがあります。車内には10Lが2本積載しており携帯用は2Lを積載しています。消防では、空気ボンベ(灰色)も使用されていますので間違えないようにします。酸素ボンベには、ヨーク式とドイツ式があり必ず減圧弁を装着します。使用時は、支燃性の気体であるため減圧弁のフィルターにアルミ・鉄粉などの異物が混入すると火災の危険性があるので注意が必要です。また、換気扇を使用し喫煙、火気は厳禁です。バルブは、ゆっくり開けます。急激にあけると発火の危険があります。

酸素ボンベを自分の足に倒して親指の爪が内出血しました。前科二回です。


写真10加湿流量計
(2)加湿流量計 酸素ボンベから供給される酸素は、乾燥しているので水道水を適量入れており、定期的に交換する必要があります。長時間の搬送に対し加湿されないと口鼻腔の粘膜に悪影響があります。
(3)酸素マスク 自発呼吸があっても、観察所見(ショック状態、呼吸不全など)やパルスオキシメータの測定値により酸素投与の判断を行います。酸素投与は、ほとんどの場合リザーババック付き酸素マスク(高濃度)を使用しています。他に、鼻カニューラやフェイスマスク・ベンチュリーマスク(低・中濃度)などいろいろな種類があります。

かなり前ですが転院搬送のときに救急車内の酸素を使用した時に酸素が出ていない方のマスクを傷病者に装着したときがありました。その傷病者は、それなのに楽になったと言っていました。すぐに気が付き付け替えました。まだ高濃度マスクを使用していない時で中濃度マスクでした。

( b )気道確保及び換気用資器材(1)ポケットマスク

一般市民の行う人工呼吸法では、確実な気道確保と換気が可能な器具として推奨されています。呼吸が停止している傷病者に対して人工呼吸をするときに使用する資器材です。また、感染を防止できます。救急隊が使用することは少ないと思います。


バックバルブマスクによる人工呼吸
(2)バッグバルブマスク(BVM)人工呼吸 呼吸停止または、異常な呼吸の傷病者に対して使用します。シリコン製のバックと一方向弁とマスクを組み合わせた最もシンプルな人工呼吸器です。使用方法を十分に習熟すれば気管挿管と同じくらいの換気効率を有します。

使用方法の例としては、左手で十分にマスクを密着させ保持しながら下顎を挙上し傷病者の頭部を両足で挟むなどして固定します。右手でバッグを1秒かけて握ります。人工呼吸だけの場合は、5秒に1回換気できれば1分間に12回の呼吸数が確保できます。CPRの時は胸骨圧迫心臓マッサージ30回に対して人工呼吸2回換気します。また、酸素に接続しリザーバが十分にふくらんでいることを確認します。

過去に月刊消防で取り上げています。


経口式エアウエイ
経鼻式エアウエイ。 安全ピンは絶対に付けること。
(3)エアウエイ(経口・経鼻) 一般の救急隊員が気道確保に使用する資器材で、口に入れるものや鼻の穴に入れるものがあります。自発呼吸のある傷病者で意識障害のため、舌根沈下などにより気道閉塞を起こすおそれのある場合に使用します。

経口エアウエイは、舌を喉に押し込まないで挿入することが必要です。

咽頭反射や開口困難などで、経口エアウエイが使用できない場合は、経鼻エアウエイを使用します。挿入するときには、キシロカインゼリーなどの潤滑剤を塗り長さを十分見極めます。経口エアウエイのサイズの選択は、口から耳たぶまで、経鼻エアウエイの場合は、鼻の穴の大きさに合わせ、鼻の穴から耳たぶまでです。経鼻エアウエイは、ゆっくりと垂直に挿入し呼吸が良く感じるところまで挿入したならばクリップ、安全ピンなどで固定します。経鼻エアウエイは、鼻血や、鼻の付近に骨折や変形が見られる場合には、使用できません。

挿入後は、必ず気道開通を確認します。


気道確保チューブ類。上段:気管挿管チューブと挿管必要物品。下段:気管挿管以外のチューブ類
スミウエイWB挿入中
(4)スミウエイWB(食道閉鎖式エアウエイ) ・ラリンゲアルマスク(LM)・コンビチューブ(食道ー咽頭コンビチューブ、ツーウエイチューブとも言われる)ラリンゲアルチューブ(咽頭—気管チューブエアウエイ) これらのチューブ類は、有効な人工呼吸を行えるようにするため口腔内(喉の奥)に挿入するもので救急救命士が心肺停止状態の傷病者に対して医師の具体的指示のもとに行われる処置です。医師から指示がもらえないと処置はできません。

また種類も大きさも様々です。チューブを口(喉)に入れ適切な位置に挿入されたなら他の隊員がシリンジ(注射器)により適量の空気をカフに注入します。その後換気の確認を行い、必要に応じて救急救命士がチューブの固定を行います。

(5)気管挿管用資器材 気管挿管を実施するためには、次のような資器材が必要です。
気管内チューブ・スタイレット・喉頭鏡・注射器・潤滑剤・固定用バンド・バイトブロック・聴診器・口腔内吸引チューブ・気管内吸引チューブ(これらも医師の具体的指示が必要です。)

必要な研修を受け認定資格をもった救急救命士が使用できます。気管挿管の適応は窒息による心肺停止の傷病者で従来の器具では十分な気道確保が困難な症例に対して気管挿管は、実施されます。例えば、溺水などで水を飲んだ状態が疑われる場合です。

挿入するときには喉頭鏡を使用します。挿入後は、必ず換気の確認を行い、バイトブロックを噛ませるようにしてとチューブの固定をします。バイトブロックは挿管チューブを挿入したときなど、挿管チューブを噛まないようにさせるために挿入します。

器具(食道閉鎖式エアウエイ ・ラリンゲアルマスク・気管挿管資器材)を用いた気道確保の場合の心肺蘇生法は次のとおりです。

胸骨圧迫(心臓マッサ-ジ)が約100回/分、人工呼吸は、約10回/分で送気します。つまり胸骨圧迫をしながら中断せずに人工呼吸(送気)します。気管挿管資器材以外のエアウエイで、適切な換気が出来ない場合は、30対2(15歳より上)で心肺蘇生法を行います。


マギール鉗子を右手に、喉頭鏡を左手に持っている
(6)喉頭鏡(直型・マッキントッシュ型)及びマギール鉗子 喉の奥の異物・固形物(喉つまり)を確認しマギール鉗子で取り除くときに使用したり気管挿管用のチューブを喉に挿入したりするときに使用する資器材です。口の中に入れる部分をブレードと言います。ブレードには、年齢に応じた各種サイズがあります。取っての部分には、電池が入るようになっており、ブレードの先端から光が口の中を照らします。マギール鉗子にもサイズがあります。

写真17吸引器。後方:電動式。前方;手動式。
写真18吸引中
(7)吸引器(サクション)及び吸引カテーテル 電動式及び手動式があります。傷病者の口腔内にたまった嘔吐物や痰、血液などの液状のものを吸引し呼吸しやすいようにします。車外では、バッテリ-使用なので充電状態を確認します。

写真19デマンド式人工呼吸器。デマンドとは「要求」のこと。ボタンを押すことが「要求」とされる。
(8)デマンド式(オキシレ-タ)人工呼吸器(車内専用です) バックバルブマスクのようにバックを握ることなく、ぼたんを押すことにより100%酸素を体内に送気でき、マスクを両手で保持できるので密着が良く効率の良い換気ができます。

気道確保を確実に行い胸部のふくらみを注意深く観察します。気道確保が不十分な場合や送気量が多すぎると胃膨満を起こします。気道確保用の資器材(4)と(5)などが挿入されているときにも使用できます。自動も設定でき胸骨圧迫(心臓マッサ-ジ)に同期しながら送気することができます。なお、自発呼吸にも対応できます。


写真20小型人工呼吸器。右手棚内に見える。
(9) 小型人工呼吸器(オ-トクル-ズ)(車内専用です) 心肺蘇生実施中にある一定の時間毎(胸骨圧迫心臓マッサ-ジの回数など)に適正な間隔で100%酸素を体内に送気できます。この資器材が使用される多くは、気道確保用の資器材(4)と(5)などが挿入されているときです。
3、循環管理用資器材
 観察をしていて循環のサインを確認する場合は息、咳、体動、を確認します。つまり息、咳、体動、があれば循環があることになります。人体の循環には、二酸化炭素を排泄して酸素を全身に供給させる肺循環と胃や腸などで吸収した栄養素を全身の臓器や器官へ供給する体循環の二つの重要な役割があります。 肺循環の役割は、まず呼吸により空気中の酸素が口(鼻)から気管をとおり肺(肺胞)でガス交換が行われます。肺胞で、酸素が血液中のヘモグロビンに結びつき、反対に血液中の二酸化炭素を排泄します。肺(肺胞)でガス交換(外呼吸)されたきれいな血液(動脈血)が心臓の収縮・拡張(通常60から80回/分程度)を繰り返し、体内の隅々まで動脈(血管)、毛細血管をとおり供給されます。そして末梢の細胞(脳、各臓器、筋肉、皮膚など)でガス交換(内呼吸)が行われ静脈(血管)、心臓をとおり肺に戻ってきます。特に脳に酸素化された血液が循環することが大切な要素です。

もしも心臓の異常(心停止や心室細動などの重大な不整脈など)が起きると血液を体内の隅々まで送ることができません。心肺停止状態なら心肺蘇生法を実施し、自動体外式除細動器のパッドを胸部に貼付け必要に応じて心臓に電気ショックをします。又、大出血により血液が不足しても体内の隅々まで血液を送ることが困難になるので止血処置などをします。

循環資器材としては観察用資器材で説明した、血圧計、心電図モニターやパルスオキシメ-タも含まれます。心肺蘇生中に血圧計とパルスオキシメ-タ-は使用しません。


写真21救急車内の循環管理用資器材。心電図モニター、AEDなどが見える
(a)血圧計
(b)心電図モニター
(c)パルスオキシメ-タ- これらが一緒になった資器材があります。プロパック:傷病者監視装置(ダッシュ3000)は救急車内において、傷病者の心電図・脈拍数・血中酸素飽和度・血圧・(呼吸・カプノグラフィー(CO2)・体温も測定できるがセンサーを購入していない為使用できません)などの測定ができ、循環不全等の傷病者に対し、経過観察することができる装置です。

写真22自動式心臓マッサージ器。
写真23装着時及び起動中
( d ) 自動式心臓マッサ-ジ器(コムスタット) 長時間の胸骨圧迫心臓マッサ-ジを実施する場合に使用します。コンビチュ-ブなどのエアウエイや気管挿管用チュ-ブが挿入されていれば同時に人工呼吸もできます。作動には酸素ボンベを使用するため酸素を多く消費する事がネックです。

疲労が少ないため他の処置が行えますがすばやく傷病者に装着する必要があります。空気ボンベでも作動させることができます。(サンパ-やHLRなども自動式心臓マッサ-ジ器です。)


写真21黄色い器材・パッド装着時サイナス波形
( e ) 自動体外式除細動器(ハートスタート4000・二相性波形除細動器)AEDとも言う 意識がなく、呼吸も停止しており、脈拍も感じられない場合に心肺蘇生法を実施します。そして早期に除細動パッドを心臓を挟むように貼って心室細動又は、無脈性心室頻拍が認められた場合、心臓に電気ショックをします。

胸部にパッドを貼るためには、濃い胸毛があれば剃り、汗などで濡れていたら汗を拭き取ります。貼付薬があればはがして、薬剤が残っていれば拭き取ります。貴金属があればできる限り取り外します、ペースメ-カ等があればパッドをペースメ-カから3センチ程離します。

除細動をするためには、感電しないよう傷病者から離れる必要があります。酸素マスクも安全な位置によけます。電源は、バッテリ-で起動するため充電状態の確認は、必須です。除細動用パッドも使用期限があり一度使用したものは、使えません。

我が所属でも一度だけVF波形を認める事例がありました。初めてのこともありかなり緊張したようです。配線の確認をしなおしたそうです。


写真24静脈確保用資器材。
写真25輸液用ポンプ
( f ) 静脈路確保の資器材(輸液用資器材) 乳酸リンゲル液、輸液回路(ドリップチャンバ-、ローラークランプ、三方活栓、延長チュ-ブ)静脈留置針、(追加・これも医師の具体的指示が必要です。) 止血帯、輸液用ポンプ

心肺停止状態の傷病者に対して救急救命士が静脈路確保のため乳酸リンゲル液を輸液したりすることができます。簡単にいえば点滴です。 さらに研修を受けて薬剤(アドレナリン)も投与できる救急救命士もいます。

我が所属では、輸液の経験はありません。なお、薬剤救命士はまだ養成されていません。


写真26ショックパンツ装着時
( g ) ショックパンツ 骨盤骨折や下肢骨折の固定処置や下肢の血管を圧迫することで血液を脳や重要な臓器部分に移動させ血圧の保持に使用することができます。

使用方法は、ショックパンツを広げ、その上に傷病者をのせて両下肢、下腹部を覆ってマジックテ-プで固定します。圧迫のかけ方ですが両下肢の部分から少しずつ圧を掛けて目標血圧になるまで加圧します。それでも十分な血圧上昇が得られない場合に下腹部を圧迫します。

脳内出血の疑いや、胸腹部の臓器損傷が疑われる場合などでは使用できません。使用する適応が非常に限られていることと、装着には時間がかかります。一度加圧したならば、基本的に病院に収容するまで外すことができません。病院内で外す場合、ハサミなどで切られ急に圧迫を解除されないよう(急激な減圧などで血圧が低下)にします。

これを訓練以外で使った事は無いのですが、実際に装着すると脳圧があがるので普段血圧の高い人は、絶対装着しないで下さい。

4.創傷等保護・固定用資器材
 交通事故や墜落、爆発事故、スポ-ツ、傷害暴行(刺傷、撃たれた、殴られたなど)動物に咬まれた、熱傷(ヤケド)、などの外傷で怪我(骨折や出血など)をした場合の応急処置に使用します。又、高エネルギ-事故により脊椎や脊髄損傷が疑われるような場合、全身を固定し急いで搬送します。

写真27a全身固定完了
( a ) バックボ-ドなどの固定用資器材 交通事故や高所からの墜落事故、動力機械の事故などの高エネルギ-事故により脊椎や脊髄損傷が疑われる場合などに全身固定(全脊柱固定)資器材を使用します。そのときに、頸椎保護や、酸素投与(高濃度マスクで10L)、循環の評価(ショックの判断)をします。活動性の出血などがあれば圧迫止血をします。呼吸状態を聴診して、胸部に変形や動揺、穴(開放性気胸)があり呼吸異常がある場合、腸管脱出、骨盤や四肢の開放性骨折などの場合それぞれ必要な処置をして迅速に搬送します。また、意識がなく心肺停止の場合は、早急に心肺蘇生をしながら搬送を急ぎます。

バックボード
(1)バックボード (搬送用資機材) プラスチックなどでできた丈夫な板で脊髄損傷のおそれのある傷病者の全身固定(全脊柱固定)資器材です。使用時は、ログロールなどでバックボードに載せベルトでがっちり体を固定します。但し呼吸は抑制してはいけません。その後頭部をヘッドイモビライザーで固定します。

(2)ヘッドイモビライザー、毛布

頭部固定する資器材でバックボードとセットです。頸椎カラーの代わりに、毛布などで固定した場合は、毛布ごとバックボードに粘着テープなどで固定します。この時、ヘッドイモビライザーは使用しません。

(3)頸椎カラー(ネックカラー)、シーネ

頸椎損傷を疑う傷病者の首に装着します。全身固定をする場合は、最初に装着します。頸椎カラーが装着できない場合は、毛布などで固定します。

シーネは、この場合使用しません。軽い首の痛みのときに巻く程度です。

(4) スピードボード、ショートボード、KED

バックボードが腰から上部分だけのようなものです。自動車内の傷病者の救出に使用します。首を頸椎カラーで固定した後ボードを傷病者の背中に差し込んで上半身を固定しそのままバックボード上に移動させ全身をさらに固定します。


写真28全身用バキュームスプリント装着時
写真29持上げ時
(5)全身用バキュームスプリント(全身用陰圧副子固定具) 全脊柱固定資器材としても使用できます。付属のポンプを使用して固定具の空気を吸引すれば、固くなり全身をベルトで締め付けながら固定します。軽量で、レントゲンの透過性があるのでそのまま撮影できます。

写真30aバキュームスプリント。固定する範囲によっていくつもの種類がある
写真30b固定中、陰圧中


写真32完成

(6)バキュームスプリント(マジックギブス)陰圧副子固定具 骨折などは基本的に、そのままの状態で固定し搬送します。足がねじれている場合などでは、ねじれを戻してから固定した方が良いでしょう。固定することで痛みの軽減につながります。折れた骨が皮膚から突き出ている場合、骨は感染しやすいので滅菌ガーゼなどで確実に被覆し骨を体内に戻さないように固定します。

バキュームスプリント(マジックギブス)は軽量で四肢の骨折や脱臼などをそのままの形で固定できます。レントゲンの透過性があるのでそのまま撮影できます。

写真のマジックギブスは、重量がありレントゲンの透過性はありません。


写真34創傷処置用資器材一式


三角巾の使用例

コールドパック(瞬間冷却剤)

(b)創傷等の処置用資器材 創傷面を感染から保護したりそれらを固定したりします。また、止血に使用したりします。創傷部に泥などが付着している場合は、洗浄してから被覆などを行います。創傷面をこすったりしてはいけません。

(1)滅菌ガーゼ、滅菌タオル(大・中・小)、絆創膏、サージカルテープ:布製、紙、プラスチィック(粘着テープ)、三角巾、包帯

滅菌ガーゼや滅菌タオル(大・中・小)などは、創傷部分の感染防止のため創傷部分を被覆しサージカルテープで留めたり三角巾で縛ったりします。ナイフなどが刺さっている場合は、ナイフなどをタオルなどで固定しサージカルテープで留めて搬送します。決してナイフを引き抜いてはいけません。

絆創膏(カットバン、サビオ、バンドエイドなど)は、滅菌ガーゼと粘着テープが一緒になったもので軽い切り傷や擦り傷などに使用します。

三角巾は、滅菌ガーゼなどの固定、創傷面の被覆、直接圧迫止血や骨折時の副子固定、止血棒の固定にも使用します。包帯の代わりに使用したりするので包帯は、ほとんど使用していません。

(2)滅菌アルミ(シート)ホイル、ラップやビニール類

ラップやビニール類などは、開放性気胸(胸部の開放創より泡の混じった血液などが見える状態)などの処置に使用したりします。滅菌アルミホイルは、湿潤のまま創傷部(腸管脱出)を保護したり、低体温時の保温の際にも使用します。やけどは水道水による適度な冷却が推奨されますが、高齢者や幼児は、低体温になりやすいので要注意です。また広範囲なやけどの場合も保温処置が必要になりますので滅菌アルミホイルなどで保温します。

(3)ハサミ

サージカルテープや包帯など必要な長さに切ります。傷病者の観察や処置をする場合で衣類を脱がすことができない場合、傷病者や関係者の承諾を得て衣類などを切ります。特に高級な衣類だと切ること(承諾)が難しい場合があります。また、傷病者が女性などの場合も、十分な承諾を得てから不必要に切ってはいけません。出産時においては、へその緒を切ることもあります。

(4)コールドパック(瞬間冷却剤)

発熱時の冷却や、骨折や捻挫等の冷却に使用します。冷却のしすぎにも注意します。

(5)熱傷用資器材(アイシングキット)

日焼けや、やけどの処置に皮膚に巻き付けて使用します。冷却効果があります。

5 搬送・保温用資器材
 メインストレッチャーには、エクスチェンジャーを使用しており点滴棒も付いています。その上に枕とスクープストレッチャーがあり毛布が載せてあります。布担架もありますが私たちの町では、あまり使用しません。走行中の振動を軽減するため防振架台の上にメインストレッチャーが載っています。心肺蘇生法を実施する時には、防振架台を固定することができます。保温には毛布及び必要に応じて滅菌アルミ(シート)ホイルを使用しますが服などが濡れている場合は、服を脱がせタオルなどで水気を拭き取り毛布などを掛けます。寒ければ車両のヒーターを入れます。傷病者を担架に乗せ移動する時には、必ず落下防止のためベルトで固定します。

写真38搬送資器材一覧
写真39確実に固定
(1)メインストレチャー(エクスチェンジャー) 救急現場から救急車内そして医療機関へ傷病者を搬送するために使用する車輪付きの担架です。必要に応じてストレッチャーの高さを5段階に調整でき傷病者の状態に応じて頭部側を5段階に上げたり下げたり調整できます。また、足側を高くすることもできます。

傷病者を乗せる時には、ストレッチャーを一番低くし車両に乗せるときには一番高くします。頭部側の脚が上がりきっていないことがありスムーズに車内に収容できないことがありましたので確実に上がったかどうか確認し車内に収容、確実に固定(写真39)します。

医療機関に到着して救急車からストレッチャーを降ろした時には、一番高い位置にあります。院内処置室まで、そのままの状態で移動し処置室では、処置しやすい高さに調整したり、処置用のベッドに移したりします。傷病者をストレッチャーへ移動したりする時は、腰を痛めないように十分注意が必要です。ストレッチャーへの収容時の注意事項については第2回を参照して下さい。

(2)スクープストレッチャー(写真38搬送資器材一覧)

私たちの町では、ほとんどの救急出動で、スクープストレッチャーを一般住宅内に持ち込んで搬送に使用しています。アルミ合金製とABS樹脂製のものがあり樹脂製の方が軽くレントゲンの透過性があります。両方とも長さの調節が容易で左右に分けることができます。

(3)布担架(写真38搬送資器材一覧)

布でできておりコンパクトに折りたためます。狭いところに持ち込むことができます。

(4)サブストッレチャー(屈折式担架)

階段や狭いエレベータ内でも使用することができます。通常二つ折りになっており、椅子のようにもなります。サブストッレチャーを椅子のようにしたりするときに手を挟んだ事があります。

(4) バックボード(写真27a・b)

全身固定(全脊柱固定)用担架です。主として救助用の担架として用いられています。

(5) 毛布や滅菌アルミ(シート)ホイル(写真38と写真34)

傷病者の体温の低下を防ぎ保温に使用します。場合によっては背中側も覆う必要があります。

(6)雨覆いカバー

雨天時などに傷病者に雨が当たらないようにするものです。

6、その他の(応急処置用)資器材
(a)分娩用資器材 救急現場や救急車内でお産が始まった場合に必要に応じて救急隊が感染防止を行ったうえで分娩の介助をします。女性ですので慎重に説明をして協力を得られるようにします。出産後は、赤ちゃんの処置もして出産時刻を必ずメモします。

分娩用の資器材には滅菌ガーゼ、清拭用タオル、新生児用バックバルブマスク、臍帯用はさみ
濃盆、酸素マスク(大・小)、救急包帯(中:会陰部保護用)、救急タオル(大:保温用)、滅菌アルミホイル(保温用)、新生児用吸引カテーテル、臍帯クリップ(2個以上)、などが用意されています。

(b)感染防御・保護用資器材等(第1回写真8、第2回写真10参照)

ヘルメット、皮手袋、ゴーグル、マスクや滅菌ゴム手袋、シューズカバー、感染防止衣などがあります。すべての出動において安全管理上、感染防止を行った上で出動する必要があります。ゴム手袋は、自分の手に合った物を使用することと複数の傷病者がいる場合には傷病者ごとに取り替えます。交通事故等の外傷の出動では、ヘルメットや皮手袋(ケプラー)、特に夜の活動は反射素材つきベストも必要です。第2回「活動中 (1)装備」を参照して下さい。

ゴム手袋の使用にまだなれていないときです。サージカルテープを滅菌ガーゼに貼り付ける時にゴム手にテープが貼り付いてはずれない時がありました。またストレッチャーに挟まって破けたこともあります。


写真41セーフティコーン他
(c)その他 ティッシュペーパー、ビニール袋(大・小)、膿盆、汚物入れ(ゴミ箱)、尿瓶(尿器男・女用)、携帯電話・無線機、浮き輪、ロープ、セーフティコーン、簡易救助資器材、ガスマスクや防毒衣

携帯電話は、現場から特定行為をする場合、医師に指示要請をするときに使用します。膿盆は、吐いたものや、使用したガーゼなどを一時的に置いておくための物です。溜まってきたら汚物入れに移したりします。尿瓶(しびん)は、傷病者が搬送中に小便がしたくなったときに使用します。

ビニール袋は、汚物入れに使用したり、傷病者の貴重品(時計、指輪)や衣類などを入れる場合に使用しています。

7 消毒用資器材
 帰署後は次の出動に備えて速やかに救急車内と使用資器材の洗浄消毒を行い消耗品の補充を行います。車内の洗浄消毒は、ゴム手袋を必ずはいて血液や体液などの付着の場合は消毒液を用いて清掃します。終了したら必ず手洗いもします。消毒には、次亜塩素酸ナトリウム(ピューラックやハイター:漂白剤)や消毒用アルコール、グルコン酸クロルヘキシジン(ヒビテン液)などを使用します。救急現場で発生した廃棄物(ゴミ)や消毒後の廃棄物は感染廃棄物として処理しましょう。消毒剤や感染廃棄物については第2回帰署後を参照して下さい。

紫外線滅菌装置
(a) 紫外線滅菌装置 日産パラメディックは、救急車内の後方、バックドアの上に付いています。車内で換気扇を回して車内の空気を滅菌しています。車内で作業する場合は、必ず紫外線滅菌器の電源を切ります。

( b )高温蒸気滅菌器(オートクレープ)

高温の蒸気で資器材を滅菌します。(喉頭鏡のブレード、マギール鉗子、経口・経鼻エアウエイやフェイスマスクなどの消毒)高温に向かない物は、EOGなどで滅菌消毒します。


写真43資器材一式
( c )EOG滅菌器(全自動酸化エチレンガス滅菌器) この滅菌器は低温(40℃・60℃)でも滅菌できるメリットがあります。毒性の強いエチレンオキシドガスを使用しているため労働安全衛生法で作業主任者の選任が義務づけられています。また、引火性・爆発性があるので火気厳禁です。換気のいい場所で使用します。使用方法は、滅菌する資器材をよく洗浄し乾燥させ滅菌パックに入れ密封します。その後滅菌器の中に入れて約22時間で滅菌が完了します。
8 訓練用資器材

写真44座っているダミーさん2体
 訓練用資器材としてダミー人形が2体あり、定期的な訓練を実施しています。出動回数が少ない分事例検討や想定訓練で経験を補います。実際には、現場経験にまさるものは、ありません セーブマン(写真)は心肺蘇生法ができるとともに、除細動器を実際にダミーに貼り付けて波形を見ながら心室細動があれば除細動などを実際に行うことができます。また、気道異物の除去や、食道閉鎖式エアウエイ ・ラリンゲアルマスク(LM)・コンビチューブ・ラリンゲアルチューブ・気管挿管などを使用した気道確保や輸液の訓練もできます。

レサシアンは、一般向け用の心肺蘇生法用のダミーです。それにセットで外傷訓練用の上肢と下肢があります。小児、乳児のダミーは、残念ながらありません。

B。体位管理
 傷病者の状態に応じて体位管理を行う必要があります。適切な体位を取らないと病態が悪化することがあります。通常、応急処置(心肺蘇生など)をする場合は、仰臥位が多いです。意識がはっきりしている場合は、本人の苦痛が軽減する楽な姿勢が一番いいと思います。バックボードによる固定も仰臥位ですが、かなり苦痛な体位の一つです。仰臥位や側臥位などと難しい言い方をしますが仰臥位はあお向けのことです。 左側臥位・右側臥位は、左横向き・右横向きです。吐きけ、吐いている時などは、側臥位をとります。薬物中毒の傷病者や妊産婦(妊娠後期)は左側臥位にして搬送します。

左側臥位は搬送中、体が背面になる為、顔などの観察がしにくいです。

腹臥位は、うつ伏せです。背中に外傷などがある場合この体位をとりますが、呼吸が少し抑制されます。

膝屈曲位、頭部を少し高くして膝を曲げた状態です。腹痛の時の体位です。

ショック体位は、下半身を高くした状態です。出血などで血液が減少時、足側を高くすることで頭側に血流が異動します。

起坐位、半坐位は上半身を起こした状態です。主に呼吸が苦しそうな傷病者を搬送する場合にこのような体位をとります。他に心不全や膵炎、腹痛などの場合です。

回復体位は、側臥位に似ています。外傷以外で意識障害があり呼吸は正常で確実な脈がある状態の傷病者の体位です。また、舌の落ち込みによる気道閉塞と吐いた場合に喉詰まりを防止することができます。

普通、傷病者の意識があれば自然と楽な体位をとります。また、意識状態が悪くなり、呼吸の異常や停止した場合は、ただちに仰臥位にして人工呼吸をはじめなければなりません。


まとめ

救急隊員の行う応急処置については、傷病者に接触してから医師に引き継ぐまで行われます。傷病者の生命の危機を排除し病状やケガの状態を悪化させない、時には改善を図ることだと思います。また、応急手当つまり手当は手を患部に当てること(さすったり・撫でたり)も立派な処置です。各種資器材をうまく活用するためには、目や耳、鼻、手などの感覚(五感を活用する)が最も大切な要素です。「見て聞いて感じて」と言うように。それを補完するための資器材です。(しかし舐める(味)ことだけはないと思います)そして自分の家族だと思っておもいやりのある応急処置を心がけてください。
それぞれの資器材について使用方法などを十分熟知して維持管理(電池の予備やバッテリーの容量、プリントペーパの予備も含む二回目参照)を適切にしてください。使用方法を誤ると大変な事故(爆発や火災、感電、感染)になります。


用語解説

*1五感:ごかん。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五つの感覚。感覚の総称

*2体温:たいおん。動物体の温度。正常はおおむね36.5℃。体温には中心温(脳や心臓の温度)と末梢温(手足や皮膚の温度)がある。生命維持に関係するのは中心温であるため、重症患者では脳温や中心静脈温の測定を行う。

*3発熱:はつねつ。体温が平常より高まること。体内の異常により体温が上がることを指す。

*4意識障害:いしきしょうがい。自分の置かれている状況が理解できないこと。

*5瞳孔不同:どうこうふどう。左右の瞳孔の大きさが異なること。頭蓋内に重大な病変が進行しているサインである。

*6バイタルサイン:Vital sign。生命兆候という。通常は意識、呼吸、循環(血圧心拍数)などを指す。

*7ショック:shock。医学では急激な血圧低下に伴うさまざまな症状を総称してショックという。「それきみこ」と覚える。そ=蒼白、れ=冷感、き=虚脱、み=脈減弱、こ=呼吸減弱

*8触診:しょくしん。触って診察すること。

*9橈骨動脈:とうこつどうみゃく。手首で親指の付け根にある動脈。

*10不整脈:ふせいみゃく。脈が等間隔に打たず乱れること。

*11SpO2:エスピーオーツー。S=saturation(飽和、浸潤)p=パルスオキシメータのこと、O2=酸素。パルスオキシメータで計った酸素飽和度を指す。単位は%

*12支燃性:しねんせい。自分では燃えないが燃やすのを助けること。

*13自発呼吸:じはつこきゅう。傷病者が自分で呼吸すること。

*14心室細動:しんしつさいどう。心臓の筋肉が痙攣を越して小刻みにふるえるのを細動という。心室(体に血液を送り出すポンプ部分)に起こると血液が体に回らなくなるため死亡する。

*15無脈性心室頻拍:むみゃくせいしんしつひんぱく。心室が勝手に毎分200回以上収縮すると血液が心室に溜まらないうちに収縮してしまうので体に血液が回らなくなる。これを無脈性心室頻拍という。

*16電気ショック:でんきしょっく。高圧の電気を流して短時間流して生体になんらかの作用をもたらすこと。

*17乳酸リンゲル液:にゅうさんりんげるえき。LactateRingerSolution.リンゲルとは人の名前。細胞外液に似せた組成のリンゲル液に乳酸を加えたもの。

*18アドレナリン:Adrenarin。エピネフリンEpinephrinともいう。副腎髄質から出るホルモンで血圧を上昇させる作用を持つ。

*19骨盤骨折:こつばんこっせつ。骨盤は大きく、一度折れると長い骨折線から大量に出血する。しかも出血は外から見えないので気づかないうちにショック状態になる。

*20高エネルギー事故:こうえねるぎーじこ。生体に高い力が加わる事故をいう。高所からの転落や自動車に突き飛ばされたなど。

*21脊髄損傷;せきずいそんしょう。背骨の中に走る小指ほどの太さの神経を脊髄という。これが傷を受けるとその場所以下は感覚がなくなり動かなくなる。


OPSホーム>基本手技目次>手技88:ベテラン救急隊員が伝承したい経験と知識(3)資器材の説明と処置・体位管理

07.10.26/6:03 PM

コメント

タイトルとURLをコピーしました