亀山洋児、渡辺光司、山川 博、他: 倉敷病院前脳卒中スケールは職種を問わず使えて信頼できるスケールである。 プレホスピタル・ケア 2010;23(1):52-54

 
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倉敷病院前脳卒中スケールは職種を問わず使えて信頼できるスケールである

亀山洋児1、渡辺光司1、山川 博1、長屋 篤1、河口 力1、小山内 忠1、森 克彦1、玉川 進2

1稚内地区消防事務組合 消防署猿払支署
2旭川医科大学病院病理部

著者連絡先

亀山洋児(かめやま ようじ)

稚内地区消防事務組合消防署猿払支署
098-6233 北海道宗谷郡猿払村鬼志別南町1
電話01635-2-2119
fax 01635-2-3159
写真 kameyama2.JPG

はじめに

最近各地で脳卒中病院前救護(Prehospital Stroke Life Support, PSLS)コースの開催を耳にする。PSLSは日本臨床救急医学会・日本救急医学会・日本神経救急学会の三者が共同で立ち上げたプログラムであり、脳卒中に対する病院前救護の体系化・標準化を目指すものである1)。

このプログラムの目的は、日本における死亡原因の第3位に位置する重要な疾患である脳卒中の傷病者に対し、発症してからできるだけ早期に適切な医療機関に搬送し治療を開始することにより、後遺症を減らし救命率の向上を図ることにある。また、QOLという観点から見ても『防げ!寝たきり』という目標は家族や傷病者自身にとっても大変重要な意義を持つ事は言うまでもない。

そのPSLSコースにおいて脳卒中の重傷度を数値化するために倉敷病院前脳卒中スケール(Kurashiki Prehospital Stroke Scale, KPSS)2) が用いられている。このスケールは脳血栓溶解剤である組織プラスミノゲン活性化因子(t-PA)静脈投与療法の適応傷病者の抽出という目的も担っている。具体的には(1)意識水準、(2)意識障害、(3)運動麻痺、(4)言語の4項目(表1)についてそれぞれ評価を行い、正常な場合は0点、全障害は13点とし3点から9点はt-PA静脈投与療法の適応としている1)。

以上のようにPSLSにおいてKPSSは重要なスケールであるが、問題となるのはその点数の信頼性と職種を問わず使えるかどうかである。KPSSはその名の通り病院前で患者に接する消防職員を対象としているものの、調べた限りでは医師以外が症状を正しく点数化できるか検討した報告は1編もない。今回我々は消防職員と看護師が同時に一人の模擬患者に対して点数を付けることで、職種間の差と経験年数を問わない信頼性が得られるか検証する事とした。

対象と方法

救急隊員群として救急救命士6名及び救急課程修了者8名の計14名、看護師群として看護師6名、保健師3名の計9名の2群を対象とした。救急隊員群の経験年数は12.8±4(平均±標準偏差)年、看護師保健師群の経験年数は13.9±10年であり、両者に有意差はなかった。対象群はPSLSやKPSSに対しての予備知識はなく、その場で採点用紙を手渡して評価方法について手短に簡単な説明を行いすぐに実践してもらった。

図1
デモンストレーション風景

模擬患者は、PSLS受講の経験があり、また1当務あたり5-15回の出場件数を数える大都市中心部の救急救命士2名とした。デモンストレーションではこの2名の一人が患者として、残り一人が救急隊員役とした。救急隊員群・看護師群の23名はこの二人を囲んで採点を行った(図1)。

評価した3症例は以下の通りである。

  1. 脳梗塞症例:意識清明、言語障害あり、片麻痺あり(KPSS3点)
  2. 過換気症例:神経学的症状なし(KPSS1点)
  3. 重症脳出血症例:深昏睡(KPSS13点)

検定はMann-Whitney test、Pearson’s correlation coefficient を用いp<0.05を有意差ありとした。

結果

図2
脳梗塞症例での点数

図3
過換気症例での点数

図4
重症脳出血での点数

図5
脳梗塞症例での経験年数と点数との関係
救急隊員群
y = -0.044x + 3.8615
R2 = 0.0611
看護師群
y = 0.0205x + 2.8234
R2 = 0.0757

図6
過換気症例での経験年数と点数との関係
救急隊員群
y = 0.0704x – 0.5634
R2 = 0.4304
看護師群
y = 0.0502x – 0.0365
R2 = 0.2763

図7
重症脳出血症例での経験年数と点数との関係
救急隊員群
y = 0.0149x + 11.663
R2 = 0.0063
看護師群
y = 0.0959x + 10.213
R2 = 0.3072

救急隊群と看護師群の点数の比較では、3症例とも両群に有意差はみられなかった(図2,3,4)。

経験年数と点数の相関比較でも、全ての症例で経験年数と点数の間に相関は見られなかった(図5,6,7)

考察

KPSSは観察によって点をつけるものである。観察には主観が入るため数学のような正解は存在しない。そのためKPSSの信頼性を検証するに当たり、われわれは一つの症例を多人数で採点し、確率を用いて2群間の数値を比較する統計学的手法を用いた。

最初に上記3症例を救急隊員群と看護師群との2群に分けることによりKPSSが職種を問わず信頼できるスケールか否かを検討した。全体を通してみた結果、救急隊員群と看護師群には点数に有意差がないことから、このスケールは職種を問わず信頼できるスケールであると言える。

次に経験年数と点数の相関を検討したが、これにも相関が認められなかった。経験年数に関わりなく目の前の症例に対して一定の評価を下せるスケールであることが証明された。

各症例を個別に見ると症例の特色とこのスケールの長所と短所が見えるので各症例を通じて考察を導く。

脳梗塞症例(図2)では2点から4点の間に点数が納まった。3症例の中では最も狭い範囲に点数が納まっており、KPSSがこの症例の症状「意識清明、言語障害あり、片麻痺あり」を最も得意としていることが伺われる。過換気症例(図3)では意識障害はなかった。傷病者がこちらの問い掛けをどの程度理解し従命(運動)できるかを評価する際に、傷病者に意識障害がなければ自分の評価に不安を感じることは少なくなる。つまり、このスケールは意識状態の良い傷病者には使いやすい。重症脳出血症例(図4)では8点から13点までと点数が最もばらついた。これは過換気症例とは全く逆の理由、つまり意識状態や従命(運動)の悪い傷病者の評価は難しく、それゆえ点数に差が生じ易くなっているという推測に至った。意識障害や運動麻痺の可能性がある傷病者を評価する際は慎重を心掛けるべきである。

結論

(1)KPSSは職種・経験年数を問わず用いることのできる信頼できるスケールである。

(2)意識障害や運動麻痺の可能性がある傷病者を評価する際は慎重を心掛けるべきである。

謝辞

大島基靖氏(札幌市消防局総務課札幌市消防学校)と森出智晴氏(札幌市消防局)のお二人にデモンストレーションを行っていただきました。この場を借りて感謝いたします。

文献

1)日本臨床救急医学会報告 http://jsem.umin.ac.jp/psls/PSLS_kossi070706.pdf
2)Kimura K, Inoue T, Iguchi Y, et al: Kurashiki prehosputal stroke scale. Cerebrovasc Dis 2008; 25:189-191


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10.8.24/1:19 PM

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