200520救急事例報告(14)_24歳女性くも膜下出血の1例

 
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症例
200512_VOICE#50_優先順位
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200520救急事例報告(14)_24歳女性くも膜下出血の1例
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近代消防2020年4月号p72-74

近代消防

「救急事例報告」投稿

24歳女性くも膜下出血の一例

藤元 宏冶

高砂市消防本部

〒676-0078 兵庫県高砂市伊保4丁目553-1

079-448-0119

 

目次

初めに

くも膜下出血は頭蓋内のくも膜下に出血が起こるものである。発症は40歳から増加し70歳代で最多となる。また他の脳卒中と異なり女性が多い1)。今回私は24歳という若年齢で発症したくも膜下出血を経験したので報告する。なお、現場写真は全て再現である。

症例

24歳女性。

x年x月x日23時37分頃、女性が子供をあやしていたところ、後頚部痛を訴えた後に突然倒れ意識朦朧状態となったと家族から救急要請があったため出場した。指令センターからは既往症等は無いと無線連絡が有った。出動途上に隊員間では首ということから頚損や脳幹部に異変があるのかまたひょっとしたら精神疾患もあるのか、などと考えながら現場到着となった。

隊長1名が先行して傷病者と接触した。傷病者の足は正座の状態で腹臥位(写真1)。「痛い、痛い」と言っており、どこが痛いか質問するが意思の疎通はできずやや不穏状態であった。携行パルスオキシメーターを装着したところ経皮的酸素飽和度と脈拍は異常なく脈圧にあっても左右差は無し。周囲には家族が数名いたため、家族と協力して(写真2)ゆっくりと足を伸ばし仰臥位にした(写真3)。仰臥位にするとTシャツの首周辺と上肢に若干の湿潤を認めるが冷感はなく、瞳孔を確認しようとしたが開眼させられず確認できなかった(写真4)。傷病者の意識状態は以前と変わらず不穏状態で手足はばたばたさせていた(写真5)ため麻痺は認めず。隊員が搬送準備を行いながら、家族に事情聴取すると傷病者は兄弟の1歳~2歳の子供をあやし高い高いを長時間行い首が痛いと言ったあと、崩れるように倒れた(写真6)と聴取する。

車内収容後にバイタル測定を行った。意識レベルは不穏状態で変わらず、痛いという言葉と理解出来ない言葉を発しており、若干の頻呼吸はあったが血圧(左右差無し)や脈拍、心電図に異常なし。瞳孔は不同等なく対光反射も正常であった。家族から病歴もなく夕食も20時頃にしっかり食べていたと聴取した。

病院選定にあっては、意識障害があったが2次救急病院が5分以内のところにあったため、そちらから連絡して、「転送や転院搬送になっても構いませんのでまず検査をして下さい」と説明したが収容不可であった。当地域は2市2町輪番病院の体制をとっており、この日は3次救命センターが2次救急病院となっていたた。次に当該3次救命センターに電話をかけ概要等を説明している時に、傷病者が小さい声で「左頭痛い」といった直後に多量の嘔吐をした(写真7)ため、連絡中の医師に脳外科の対応も必要と伝え、脳外科対応も含めて収容可能との回答を得た。

病院搬送途上、意識レベル、バイタル等変化無く嘔吐にあっても1度きりで病院到着となった。

病院内においても若干の不穏状態が継続していたため、鎮静をかけバイタル測定等を実施、その時の血圧測定で上が90台と低下していたのを確認した。CT検査にてくも膜下出血と診断された(写真8)。動脈造影で内頸動脈に動脈瘤が確認された(写真9)ため直ちにカテーテルによる脳動脈瘤塞栓術が行われた(写真10)。約一ヶ月後に後遺症無く退院となった。

001

傷病者の足は正座の状態で腹臥位でいた

 

002

体位変換では家族に手伝ってもらった

 

003

足を伸ばし仰臥位にした

 

004

瞳孔を確認しようとしたが開眼させられず確認できなかった

 

005

意識状態は以前と変わらず不穏状態で手足はばたばたさせていた

 

006

高い高いを長時間行い首が痛いと言ったあと、崩れるように倒れた

 

007

傷病者が小さい声で「左頭痛い」といった直後に多量の嘔吐をした

 

008

CT写真。脳槽が血液で満たされているため白く見える

 

009

動脈造影。内頸動脈の動脈瘤

 

010

脳動脈瘤塞栓術後の動脈造影。写真9で見ていていた動脈瘤の部分が白く抜けている。

考察

くも膜下出血は若年者では珍しい。脳卒中データバンクに登録されているくも膜下出血1183例のうち20歳代は10例に満たない1)。出場途中の私の隊でも頚損・脳幹部異変・精神疾患は考えたがくも膜下出血は考えなかった。幸いにも最初に搬入した病院で適切な治療が行われ、傷病者は後遺症なく退院することができた。

本症例での反省点は3点ある。

1点目は疾患の判断について。私が頭蓋内出血を考えたのは救急車内で傷病者が「左頭痛い」と言ったことによる。傷病者の母親は「子供をあやしていて首が痛くなった」ことを強調しいた。傷病者のいた室内は若干暑く汗をかいていてもおかしくない環境であったこと、傷病者が健康で病歴は無くバイタルも意識以外は特に異常が見当たらないことから、結果として病院選定や滞在時間の延長(滞在時間20分)に繋がってしまった。

2点目は傷病者の体位変換について。家族の中に男性がおり体位変換の補助をしてもらった。くも膜下出血で再出血を避けるためは愛護的な体位変換が必要であり、一緒に訓練を積んでいる隊員の到着を待って慎重に退位変換を行うべきであったと考える。

3点目は病院選定について。頭蓋内出血を少しでも疑ったのなら脳外科を第一選択として病院選定しても良かったのではないかと考える。他救命士に色々聴取するとバイタル等が安定していれば直近2次病院から選定すると答えたものもいれば、湿潤があり意識障害があるのならば脳外科を第一選択とするものもおり、まちまちであった。だがもし早期にくも膜下出血と確信できれば脳外科を第一選択にすることは当然である。

私の古い救命士テキスト、また最新の救命士テキストにも若い女性のくも膜下出血に関しては記載が無く、以前研修会に参加した際に話を聞いたくらいで、実際に救急出動したのは初めてであった。そのため項部硬直などの確認も行わなかった。自身のさらなるスキル向上と隊としてのスキル向上を目指し、特異事例や困難事例を各隊員へ周知し、少しでも迅速な活動が行えるよう日々邁進していくことが必要であると痛感した事例であった。

結論

(1)24歳女性のくも膜下出血の1例を報告した。

(2)若年者のくも膜下出血事例は初めてであり、病院選定の途中まで頭蓋内出血を考えなかった。

(3)特異事例や困難事例を各隊員へ周知することで迅速な活動を行う必要がある。

文献

1)鎧谷武雄、七戸秀夫、黒田敏、他:脳卒中データバンクを利用したくも膜下出血の解析ー発症年齢、性差、予後における全国・地域別の検討ー。脳卒中の外科 2006;34:49-53

 

名前       藤元 宏冶

ふりがな     ふじもと こうじ

出身地     兵庫県加西市

消防拝命    平成12年

救命士合格  平成17年

趣味       ドライブ

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