200711最新救急事情(215-2) ユニバーサル蘇生終了ガイドライン

 
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最新救急事情

プレホスピタルケア 33巻2号(2020/4/20)

最新救急事情(215)

ユニバーサル蘇生終了ガイドライン

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200711最新救急事情(215-2) ユニバーサル蘇生終了ガイドライン
プレホスピタルケア 33巻2号(2020/4/20)最新救急事情(215)ユニバーサル蘇生終了ガイドライン前回の連載(2020/2)でDNAR(Do-net-attempt-resuciate order蘇生を試みないという要請)を取り上げ...
最期はどう迎えようかのう

最期はどう迎えようかのう

前回の連載(2020/2)でDNAR(Do-net-attempt-resuciate order蘇生を試みないという要請)を取り上げた。調べていくと世の中にはユニバーサル蘇生終了ガイドラインというのがあったのでお伝えしたい。

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目次

最初の蘇生終了ガイドライン

助からないとわかっている人に救急隊員の貴重な時間と労力と資機材を投入するのは無駄である。では、何をもって「助からないとわか」るのか。助からない人の特徴を「助からない3条件」として示したのが蘇生終了(termination-of-resuscitation)ガイドラインである。最初にガイドラインが発表されたのは2002年8月。さほど有名ではない雑誌上であった1)。筆者らがカナダでの700例の病院外心停止患者について後ろ向きに調べたところ、(1)時期を問わず自己心拍再開(2)搬送開始前に放電可能(3)救急隊員が卒倒を目撃、の3条件に一つでも当てはまっていれば生存する確率が高かった。このことから筆者らは、現場で蘇生を終了する条件としてこの逆の3条件の全てを満たす、つまり
(1)救急隊員が卒倒を目撃しておらず、
(2)病院到着まで自己心拍再開がなく、
(3)除細動の放電ができなかった
症例では蘇生を終了すべきであるとし、蘇生終了ガイドラインとして提唱した。

現在のガイドライン

最初のガイドライン提示から4年後、同じ筆者らは今度は前向きの研究によって3条件の妥当性を確かめた。今度は世界最高峰の臨床医学雑誌であるNew England Jornal of Medeicineで発表されている2)。
この論文ではまずこの3項目が妥当か検討している。カナダ・オンタリオにある24の救急病院において18歳以上の病院外心停止患者1240例を対象とした。平均年齢69歳、69%は男性である。57.4%は目撃のある卒倒であり、卒倒から救急車要請まで平均8分かかっていた。1240例のうち心拍再開が得られなかったものが94.5%、除細動適応外が70%、救急隊員が卒倒を目撃していないのが90.3%であった。病院での経過を加えると、1240例の91.9%が救急外来で死亡宣告され、4.8%は入院後に死亡し、0.2%は6ヶ月の経過観察中でも入院していて、3.1%は生存退院している。
次に上記の3条件を当てはめてみる。3条件全てに当てはまる患者は776例。このうちで生存しているのは4例で、死亡率は99.5%となる。逆に3条件に一つでも当てはまらない患者は464例。そのうち生存は37例あるから死亡率は92%である。なお、3条件に当てはまるのに生存している4例のうち3例は脳機能カテゴリー1で通常の生活が可能だが、1例は全介助必要のカテゴリー3となっている。
さらに筆者らはどのような条件になれば死亡を予測できるか検討している。卒倒から救急車要請まで8分を超えた場合を4条件めとして加えると死亡率は99.7%となる。バイスタンダーが卒倒を目撃していないことを条件に加えると死亡率は100%となる。この結果から、筆者らは蘇生終了ガイドラインを差し替えている。すなわち
(1)搬送開始までに自己心拍が再開しない
(2)除細動対象ではない
(3)バイスタンダーが卒倒を目撃していない


蘇生終了ガイドラインは優れている

2010年のアメリカ心臓学会AHA心肺蘇生ガイドラインで蘇生終了ガイドラインが取り上げられたことで、蘇生終了ガイドラインはユニバーサルガイドラインと認められることとなった。しかしながら実際に運用している救急隊は限られているらしく、自己心拍再開がないということだけ、もしくはそれに加えて蘇生を行なった時間を根拠に蘇生を終了している。蘇生終了ガイドラインは従来の心拍再開を判断根拠とした心肺蘇生終了よりも優れているのか、比較検討した報告がある3)。
検討した院外心肺停止患者は36543例。現場から病院までで一度も心拍が再開しなかったのはそのうちの9467例あった。蘇生終了ガイドライン3項目に全て一致する患者で生存したのは0.7%であったのに対し、1項目でもガイドラインから外れた症例、つまり現場で一度でも放電できたかバイスタンダーが卒倒を目撃できた症例で生存したのは3%あった。このことから、自己心拍再開だけではなく蘇生終了ガイドラインを適応することで無駄な労力を軽減できるとしている。
またこの論文では蘇生継続時間と自己心拍再開の割合をグラフで示している。それによると蘇生開始から15分までは自己心拍が再開する確率は直線的に低下する。再開する確率が5%となるのは20分であり、1%となるのは37分である。40分を超えると誤差範囲も含めて再開確率は0%となっている。

それほど普及していないようだ

このガイドライン、ユニバーサル(世界的とか普遍の、という意味)で始まるので簡単に調べられるのかと思ったらなかなか見つからなかったので、ユニバーサルとは名前だけかも知れない。また、最後に挙げた2017年の論文を見ると、蘇生終了ガイドラインがあるにもかかわらず、救急隊員は伝統的な自己心拍再開の有無によって蘇生を終了していることがわかる。
ガイドラインの項目を見ると、いかにも助からない条件が並んでいる。発見された時には心臓が止まっていて、心電図では心静止で現場で胸骨圧迫をしても心拍が再開しないのだ。だから、時間はかかるかもしれないがこのガイドラインも世界的に普及していくだろう。

文献

1)Acad Emerg Med 2002;9:671-678
2)N Eng J Med 2006;355:478-87
3)Resuscitation 2017;111:96-102

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