200727救助の基本+α(46) 火災人命救助 今治市消防本部 今治市北消防署 消防救助係 難波江修一郎

 
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基本手技

月刊消防2020/5

「救助の基本+α」

【火災人命救助】

 

目次

はじめに(図―1・写真―1)

「救助の基本+α」シリーズの火災救助編を投稿させていただくことになりました、今治市消防本部の難波江修一郎と申します。私は現在、今治市北消防署(写真1, 図1)消防救助係に配属されています。

今治市は、愛媛県の北東部に位置し、瀬戸内海のほぼ中央部に突出した高縄半島の東半分を占める陸地部と、芸予諸島の南半分の島しょ部からなり、緑豊かな山間地域を背景に、中心市街地の位置する平野部から世界有数の多島美を誇る青い海原まで、変化に富んだ地勢となっています。また、造船・海運・舶用産業が集積する世界に冠たる海事都市であり、日本一のタオル産地であって、これら古い歴史を持つ地場の産業群は立派な地域資源のみならず異彩を放つ観光資源でもあります。市域は、東西25km、南北45km、総面積419.89k㎡で、人口は158,698人(2019年8月末現在)となっています。

当消防本部は、1本部3署5分署で構成され、消防職員数213名で市民の安心・安全なまちづくりに取り組んでおります。火災概況(平成30年)は、火災件数67件で、前年に比べ12件増加しており、このことは約5.5日に1件の割合で火災が発生したことになります。火災種別ごとの件数では、建物火災が43件で、全体の約64%を占めており、次いでその他火災19件、林野火災2件、車両火災2件となっています。また、火災による死者数は4人で、前年より4人増加、負傷者は4人で前年に比べ2人減少しており、死者0人を目指して、自助・共助の向上と消防団・防災士との連携強化を図り、人命救助最優先のもと日々邁進しております。

今回は、火災救助における初動活動と使用資機材について、次のとおり紹介したいと思います。火災・救助(基本)+取組み(ベクトル)※ここでいうベクトルとは、「人命」に対して隊員一人ひとりが同じ方向を見て、「救助」に対し同じ強い気持ちを持つことを表します。

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今治市北消防署の位置

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今治市北消防署

 

火災(写真―2)

 火災とは「人の意図に反して発生し若しくは拡大し、又は放火により発生して消火の必要がある燃焼現象であって、これを消火するために消火施設又はこれと同程度の効果のあるものの利用を必要とするもの、又は人の意図に反して発生し若しくは拡大した爆発現象をいう。」(火災報告取扱要領 平成6年4月消防庁長官通知)と定義されています。

火災は、普通の事故と異なり、急速に変化進展していきます。建物火災では、初期・中期・最盛期・減衰期に区分して防ぎょ行動の判断材料としています。防ぎょ方法は、建物の構造や用途等の火災建物の状況や消防活動障害の有無によって大きく異なります。したがって、火災現場へ到着したならば速やかに、火災の進展状況や火災建物の状況、活動障害の有無を把握して火災防ぎょの方法を決定しなければなりません。

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火災での消火活動

 

人命救助

火災防ぎょ活動における最重要課題は、安全・確実・迅速な行動を必要とする人命救助です。現場において要救助者が居る場合は、火災の大小、延焼危険の有無に関係なく、他のいかなる行動よりも優先し、全隊の全機能をあげて人命救助活動に従事することが鉄則です。

一般に人命救助は、避難誘導・人命検索・救出・応急救護・医療機関への搬送があり、すべての活動が人命に関することから格別の注意が必要です。そのため、火災救助に必要な知識・技能を確実に習熟していなければなりません。

さらに、火災現場で逃げ遅れた要救助者を効率的に救出するためには、消火活動と救助活動を一体化させた組織的な活動が必要となります。

例えば防火造2階建ての建物で、1階が延焼拡大中の2階に要救助者が居たとします。2階には、当然のように濃煙熱気が充満しています。この場合、各隊員は人命救助という目的に一体となって行動します。各隊の筒先統制をする者、2階へ進入するための三連はしごを搬送して救助に向かう者、空気呼吸器を着装して屋内進入する者、救助者、要救助者を熱気から保護するための注水をする者が協力しあってはじめて救助活動は効率的に行われます。もしも注水を担当する者が要救助者の居ることを知らず、要救助者の居る側に注水をすれば濃煙熱気を噴きつけてしまうことになり、救助活動は極めて困難なものとなることは想像できます。

 

消防車両(資機材) ※消防救助車両(写真―3,4)

 日野自動車デュトロXZU344M(型式)車両総重量6615kgを採用しています。また、本州四国を結ぶしまなみ海道で起こる重大な事故を想定し、CAFSシステムを搭載、積載水600L、フロントウィンチ、油圧器具一式、三連はしごが積載され、火災救助、交通救助に適応する車両となっています。

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日野自動車デュトロXZU344M

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火災救助、交通救助に適応する車両となっている

 

 

 

使用ホースバック(50mmホース)(写真―5,6)

50mmホースを充水した状態での曲がり限界は、直径118cmであり、円周に直すと約371cm(118cm×3.14=370.52cm)のループの長さが必要になります。

従来の島田巻きでは60cm~80cmで折り返し作成し、狭所展開を行う場合は奇数番目の折返しをとって狭所展開を行うのが基本です。その際のループの長さは、約300cmとホースに屈曲ができるループの長さとなっています。ホースに屈曲ができてしまうと、転戦時にホースが破損し、貴重な水を失ってしまうことにつながります。

こういったことを改善するために、大小小折り島田を導入しています。

大の長さは70cm、小の長さは60cmの島田巻きを作成します。なぜ大(70cm)小小(60cm)であるかというと、大の折り返し部分をとって狭所展開を行うとループの長さが、70cm×2+60cm×4=380cmであり、充水した際にホースに屈曲ができない長さであるからです。さらに、狭所展開を行う際は大の折り返し部分をとって作成するため容易に狭所展開でき、隊員の技術による差がでにくいメリットもあります。現在使用しているホースバッグの長さは70cmの物を使用しているため、ホースバッグからはみ出ることなく収納でき、50mmホース2本の延長、2本分の狭所展開も容易に行うことが可能となっています。従来の島田巻きに一工夫加えた大小小折り島田は、現場活動をより安全・確実・迅速に行うことができ、出動態勢を整える際にも即座に対応することができます。

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大小小折り島田巻き

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大の長さは70cm、小の長さは60cm

 

 

初動活動 ※要救助者あり又は不明

 

 

1 指令(1分30秒)(写真―7)

① 防火衣着装(30秒)(写真―8)

② 指令書とゼンリン地図で場所の確定(1分)(写真―9)

経路、水利、部署位置、ホースの種類と本数の決定(写真―10)

2 乗車・出動(走行時の安全確認は全隊員で実施)(写真―11)

① 空気呼吸器の着装

② 活動方針の決定(無線交信)

現場直近部隊の当直司令が前進指揮を宣言し、活動方針を周知徹底

3 現場到着(写真―12)

① 現場統括指揮者(写真―13)

■情報収集(関係者の確保)

火災の実態、人命危険、防ぎょ活動危険、拡大危険の把握

消防団との連携、筒先統制の確立、支援隊の有無

指揮本部設置後指揮権交代

② 前進指揮者

■人命救助活動最優先

ア 筒先配備位置の確定(1線2口)、消防水利の確保(初動:タンク水使用)

イ 救助活動方針(優先)の決定をし、背面隊との密な連携

ウ 隊員(空気呼吸器の面体着装時)の活動時間の統一と周知

 

火災救助活動時の筒先配備

火災救助の筒先配備は、活動隊員6名の1隊が3名の活動となり、進入隊(玄関)と背面隊(進入隊の背面)に別れて活動します。

第一筒先配備は、延焼状況や風向を考慮して配備しますが、基本的に玄関を選定します。また、火災防ぎょ活動を効率的に進めるためには、延焼拡大中の建物に屋内進入して人命検索や注水を行う必要があります。迅速な進入口の選定と筒先配備が必要になり、玄関などの出入口が使用できない場合は、建物の一部を破壊しての進入を想定に入れておくことも火災防ぎょ活動技術において重要になります。さらに、濃煙、熱気、落下物や様々な障害物があり、それぞれの障害に対処しながらの活動になり、進入隊員は更なる危険を伴います。(写真―14)

第二筒先配備は、第一筒先配備の背面側となります。背面隊は、活動上有効な開口部を選定するため1階からの進入が困難な場合は、三連梯子を使用し上階進入を考慮します。(写真―15)

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第一筒先配備は基本的に玄関を選定する

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第二筒先配備は、第一筒先配備の背面側に位置する

 

進入要領

 

 ①筒先統制

■筒先配備が完了後、指揮本部による筒先統制

※消防団との連携を密にしておく必要があります。

②温度確認

■進入隊と背面隊の連携を密にし、交互に開口を実施

・見て、触って、開ける

確認事項

「見て」変色・変形

「触って」手袋着装・下から上(写真―16)

※隊員進入が活動可能な温度であれば進入可

「開ける」進入可否、屋内延焼状況(延焼箇所と延焼方向)、中性帯の有無、濃煙状

況の確認

※開口時に半径1m以内の検索を実施し、必要に応じて放水を考慮する。

③屋内進入(吸排気・延焼状況・風向を考慮し進入側を選定)

■温度変化に留意しながら屋内検索を実施

・面体着装、活動時間の統一と周知(写真―17)

・進入は2名1組(バディ)

・左手壁伝え時計回り(写真―18)

※要救助者を発見すれば、救出開始

 

まとめ

今後、少子高齢化の進行等による人口減少や社会構造の変化により、災害に対する自助・共助の地域防災力が低下していくことが懸念され、これまで以上に将来を見据えた消防体制の充実強化に取り組んでいく必要があります。後輩達に求めることは、まず「プロとしての自覚を持つ」ことです。常日頃から自己研磨に努め、消防の任務をそれぞれが自覚し、その崇高な使命達成のために強固な責任感を持って職務に取り組むことが重要であり、次に「1/213の責任を持つ」ことです。「組織は人なり」と言われるように、職員一人ひとりには役割と責任があり、職責に応じた知識・技術の向上を図ることが組織力を高めることに繋がると考えます。最後に「様々な発想とチャレンジ精神で業務に取り組む」ことです。これまでの枠組みや前例に捉われることなく、新しい発想と失敗を恐れないチャレンジ精神で業務に取り組むことを強く促しています。今後も、今治市民の安全・安心に暮らせるまちの実現を目指し、213人全員が同じベクトルで「令和」という新しい時代に見合った消防人になる所存であります。

 

自己紹介

名前    難波江 修一郎(なばえ しゅういちろう)

所属    今治市北消防署 消防救助係

出身地   愛媛県今治市

消防士拝命 平成19年4月

趣味    ソフトテニス

 

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