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201115救急隊員日誌(196) ショックの原因はなんだ?

月刊消防2020/8/1, p86
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「ショックの原因はなんだ?」
ショックの原因はなんだ

ショックの原因はなんだ

 その事案は、工事現場で起こった。3メートル下に転落した作業員が呼吸苦を訴えており、足が変形しているという通報だった。顔面は蒼白で呼吸は早く、橈骨動脈も速く触れた。傷病者はしきりに呼吸苦を訴えていて、よくよく観察してみると肋骨は数本折れていそうだ。仰臥位だけど頸静脈は怒張していて、言われてみれば左胸郭の動きが悪いように思える。呼吸音を聞こうとして聴診器は当てたものの、この事態で周囲が騒がしく何も聞こえやしない。下肢は変形しているがとりあえず後回し。酸素を投与して、ドクターヘリを要請して・・・。工事関係者と協力してバックボードに収容しようとした時、「腰が痛いですか?」という隊員の声が聞こえた。どうやらログリフトをした際に腰をひねる動きがあったようで、その時に顔が歪んだのを、若い隊員は見逃さなかった。傷病者は意識朦朧状態なので聞いても教えてはくれない。全身観察では全く骨盤部の所見は無かったけど、念のためということで車内収容した後に内反固定とサムスリングを装着することになった。継続観察を行いつつ、心停止前輸液も行なってドクターヘリに引き継いだ。救急車内では胸郭運動の左右差もなく、呼吸音もいたって普通に聞こえる。FASTも陰性だった。
「・・・でもショックですよね」ドクターヘリの医師も悩みながら「現時点では原因がはっきりしない外傷起因のショックです。」と搬送先の病院へ連絡していた。もちろん「腰痛を一時訴えたそうで、サムスリングが付いています。」とも伝えてくれた。

その傷病者が骨盤骨折による循環血液量減少性ショックだとわかったのは数日後。隊員の気づきがなければ分からなかった。私の目は完全に胸部にしか向いていなかったのだから・・・。

ここ数年で骨盤骨折に対する考え方が大きく変わった。以前は腸骨稜や恥骨結合を圧迫して痛みがあれば骨盤骨折を疑っていたが、今は、このような痛みがあれば当然で、原因のよくわからないショックもとりあえず骨盤骨折があるものとして活動するようになった。JPTECのテキストもこのように改定されていて、私の周りでコースを担当してもらう外傷を専門とする先生曰く、近年の外傷分野で最も価値のある変更点なのだそうだ。骨盤部周辺を触診して骨盤骨折を発見できる割合は5割くらいしかないとテキストにも書いてあって、骨盤骨折を発見する難しさを説明している。腰部の痛みが全くない傷病者でも、蓋を開けてみれば骨盤骨折があったなんて話はよくあることで、医師ですらレントゲンやCTを撮るまで気づかないことがある。あれこれ診察や検査をしてもショックの原因となる出血源が全くわからない。わからないから全身CTを撮ってみたところ、骨盤骨折があって大慌て!なんて経験もあるくらいだとその先生は話してくれた。画像検査ができない私たち救急隊員にとって、骨盤骨折を発見することはよっぽど難しい。怪しいと感じたら内反固定(膝小僧をくっつけて固定する)やサムスリング(救急隊が使える骨盤固定具)を積極的に行うことをしっかりと頭に叩き込んでおくことだ。

あとは現場あるあるを2つ。腰痛を訴えたためサムスリングをつけたら、単なるぎっくり腰だった(骨盤部だけが腰痛ではない)。サムスリングを巻いたはいいが、本来の大転子の位置ではなく、腸骨稜にがっつり巻いてドヤ顔している残念な救急隊(正しい使い方をしましょう)。

正しい観察に基づいた正しい判断をして、正しい処置を行なった上でその効果を正しく評価する。どれが抜けても医療従事者としてはイマイチ。日進月歩の救急医療!さらなる高みを目指して頑張っていきましょう。

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