プレホスピタルケア 2020/10/20日号 p89
最新救急事情(218-2)
新型コロナ:ステロイドだけが有効な薬
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https://ops.tama.blue/?p=20786
今月号も2記事とも新型コロナ関連である。世の中新型コロナを中心に回っているので容赦していただきたい。なにせ、一般市民の心肺蘇生で人工呼吸禁止となったり(患者が成人の場合。厚生労働省2020年5月21日)、ガイドライン2020が来年に先延ばしになるほどの感染症である。
前回2020年8月20日号ではワクチンの話を書いた。ワクチン開発の難しさについて記載したのだが、9月に入って世界のワクチン開発でトップを走っていた英国アストラゼネカの第3相試験が中断したというニュースが入ってきた。ワクチン接種者の中に横断性脊髄炎を発症した例があると報道されている。横断性脊髄炎は他のワクチンでも報告があるので、これだけで第3相試験が中止されることはなさそうだが、ワクチン開発の難しさを示していると言える。
薬の話に戻ろう。今年春の段階では富士フイルムのアビガンが有力な薬剤と思われていたのだが、現在に至っても薬事承認されていない。執筆時点で間違いなく治療効果が見込めるのはステロイドの一種であるデキサメタゾンだけである。特別承認されたレムデシビルもこの先の評価でどうなるかわからない。
目次
1.デキサメタゾン
現在のところ、確実に「効く」と断言できるのはこの薬だけである。1958年からずっと使われている薬で、ジェネリックも多数出ている、ごく一般的なステロイド注射液である。日本では新型コロナへの適応承認は下りてはいないものの、標準的な治療法として使用されている。
新型コロナで肺炎が悪化するのは、ウイルスが肺を直接壊すのではなく、ウイルスを排除するために感染している細胞をリンパ球が攻撃するためである1)。デキサメタゾンは免疫抑制剤であり、このリンパ球の働きを抑えることで肺の破壊を防ぐ役割を持っている。
免疫抑制作用はステロイドならどの製剤も持っている。そのため臨床ではハイドロコルチゾン(商品名コートリル、サクシゾン・ソルコーテフ)やメチルプレドニゾロン(ソルメドロール)も使われている2)。
2.ファビピラビル
商品名「アビガン」富士フイルムに買収される前の富山化学で開発された純国産の抗インフルエンザ薬である。日本では新型インフルエンザに備えて国が備蓄しているだけで市場には出ていない。中国では特許が切れていることからジェネリック薬が多くの患者に投与されている。元阪神タイガースの片岡篤史やタレントの石田純一もアビガン投与によって回復したと述べている。
アビガンはRNAポリメラーゼを阻害する薬で、ウイルスの複製を抑える効果を持つ。催奇形性が報告されており、妊婦への投与は禁止。さらに妊娠する可能性がある場合には男女とも避妊する必要がある。
このアビガン、新型コロナに対する評価はまだ出ていない。Pubmedで信頼できる論文を探しても、症例報告レベルのものしか出ていない。報道によれば藤田医科大学が全国47医療機関と共同して調査を行ったところ、アビガン投与の有無で症状の改善は変わらなかったとしている。片岡篤史や石田純一は、アビガンを飲んでも飲まなくても同じように回復した可能性が高い。
3.レムデシビル
商品名「ベルクリー」。日本では特別承認によって使用できるようになった。アビガンと同じくRNAポリメラーゼ阻害薬である。アビガンは錠剤で比較的軽症の患者に投与されるのに対し、ベルクリーは注射薬で酸素化能の阻害された重症患者、特に人工呼吸やECMOを付けている患者に使用する。吸入薬の開発が進められている。
特別承認されたのはアメリカのデータで酸素投与期間を有意に減少させたとしている。減らし回復までの期間を3割減少させることからである。死亡率は改善させない3)。
このベルクリー、実は効かないのでないかという流れになってきている4,5)。有効であったのは薬事申請時のデータだけで、その後有効だというデータは出てきていない。
4.その他の薬
急性膵炎に使われるナファモスタット(商品名「フサン」)とカモスタット(商品名「フイオパン」)はともに蛋白分解酵素阻害薬であり、私も使った経験がある。この両方の薬とも日本で開発されたものである。さらにノーベル賞を受賞した大村智先生が開発したイベルメクチン(商品名「ストロメ区トール」)も効果が期待されている。3種の薬剤とも現在臨床試験が行われている。
一方、一時効果があると期待されたマラリア治療薬のヒドロキシクロロキン(商品名「プラケニル」)は効果がないばかりか重大な副作用を招くとされ、薬事承認は取り消された。
これだけの重大な感染症である。将来的にはインフルエンザに対するタミフルのように、特効薬は出てくるはずだが、今のところ全然見通が立たない。薬よりワクチンの方が先になりそうだ。
文献
1)Biol Regul Homeost Agents. 2020 Jun 4;34(3). doi: 10.23812/20-EDITORIAL_1-5. Online ahead of print.
2)Trials. 2020 Aug 24;21(1):734. doi: 10.1186/s13063-020-04641-3.
3)N Engl J Med. 2020 Jun 11;382(24):2327-2336.
4)Front Pharmacol. 2020; 11: 791.
5)Diabetes Metab Syndr. Jul-Aug 2020;14(4):641-648.
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