210903_VOICE#63_目線

 
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主張

月刊消防 2021/04/01, p86

月刊消防「VOICE」



目線



 救急車が3秒に1台出動していると言われている今の時代。救急救命士の処置拡大、様々なツールの開発、導入、社会的環境の変化。救急隊の業務は非常に多岐に渡り、高度化している。救急件数は増加の一途を辿り、不要不急の救急時代となっている。救急隊も人間である。絶え間のない救急出動により、心身共に疲労が蓄積し、傷病者についつい感情をぶつけてしまうこともある。私もその1人だった。
 
 人を助けたくて、消防士になりたくて、救急救命士になりたくて、遠回りもしながらなんとか夢にたどり着いた。人のために働いている。苦しんでいる人の助けになっていると実感していたはずだった。しかし、日頃の活動を思い返すと、高いところから話をしている自分がいることに気がついた。救急隊員として経験を積み、救急隊長としても出動を重ね、一人前にでもなった様な気でいたのだろう。なんだか急に恥ずかしくなった。自分はこれからどうあるべきか。一行の文書に色々なことを考えさせられた。
 
 私はその日以降、傷病者やその家族と目線を合わすことを意識している。目線を合わせるというのは何も物理的なものだけではない。心を同じ位置に合わせるのだ。傷病者やその家族の心を救うことも救急隊の大切な業務である。人を救うとはそういうことだ。肉体的苦痛を緩和し、傷病者を適応医療機関に速やかに搬送するだけであれば、これから先の時代、機械でもできる。私は目に見えるものばかりに囚われ過ぎて、いつの間にか大切なことを忘れていたのだ。
 
 現場に行くと、緊急性が高い傷病者ばかりではない。軽症者も半数以上。処置が必要ないこともある。しかしそこには必ず、助けて欲しいという気持ちが存在する。それを決して忘れてはいけない。
 
 救急隊は時代時代のニーズに合わせ、常に進化し、深化していかなければならない。プレホスピタルのプロフェッショナルとして。私はこんな時代だからこそ、傷病者の心に寄り添う救急隊が必要であると考える。知識・技術の向上に励むことはもちろんであるが、接遇のスキルを磨くことも非常に重要なことだ。私たち救急隊は行政機関の一部であり、市民サービスというものが根本にあるのだから。
 
 この投稿を読んでくれている隊員はどうだろうか。モニターに映し出される数字ばかりを見ていないだろうか。日頃の活動を思い返してもらいたい。
 
 私は高いところから話をしていないだろうか。話をするときは目線の位置を合わせて。
 
 
名前:佐々木 寛文(ささき ひろふみ)

所属:総社市消防本部

出身地:岡山県高梁市

消防士拝命年:平成23年

救命士合格年:平成24年

趣味:スニーカー取集

主張
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