221202救急隊員日誌(216)気づき

 
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救急隊員日誌
月刊消防 2022/05/01, p53
 
 
 
空飛ぶクルマ
 
 
 
 
妻が撮りためているNHKの朝ドラ「まんぷく」を非番・週休で観てみた。このドラマは、インスタントラーメンを生み出した日清食品(当時)創業者の安藤百福さんとその奥様の物語である。事実を知る由もないが、ドラマでは失敗の繰り返しで、その都度何かに気づいて、様々な角度から考えている。まさしく思考錯誤である。このように、何か気づくためには様々な角度から考えることが必要で、救急現場活動においても「気づき」は重要であると感じながらドラマを見入ってしまった。

 

 ちょっとしたことによく気づく人ってどんな人だろう。仕事の手順を少し変えて業務効率を上げたり、ちょっとしたアイデアで相手を喜ばせたり、他の人が気づかないところに目を向けられる人というのは、一目置かれるものだ。何か新しいことや珍しいことを見つけるためには観察力が鋭いことが必要で、ただ漠然と行動していては何も気づかない。ちょっとした現象や異常に気づいて、疑問をもって好奇心で追及していくという行動ができるのが「気づく人」なのだ。

 

 この事案は、私の教訓である。市内のクリニック(1次医療機関)から救急当番病院(2次医療機関)へ「転院搬送」で出動した事案。通信指令室からの無線は「65歳男性、腹痛の患者で、〇〇病院への転院搬送です。」との内容であった。出動途上、腹痛の中で、緊急度の高いものをイメージした。膵炎や胆嚢炎といった炎症性疾患、消化管穿孔などの臓器が破れることで腹腔内に炎症が生じる病態、上腸間膜動脈塞栓症や絞扼性イレウスなど腸管が壊死を起こし敗血症へ陥る病態、解離性大動脈瘤といった血管の病態などを思い描きながら、若手救急救命士の隊員と転院元のクリニックへと向かった。

 隊員が患者に接触すると顔面蒼白。橈骨動脈は微弱、徐脈であった。隊員は私に「搬送途上、意識レベルが低下するかもしれないので、救急車収容したら、心電図モニタを装着します。」と言ってきた。患者を乗せ、ストレッチャーを救急車に収容、クリニックの看護師が同乗し、私がバックドアを閉め助手席側のスライドドアから乗り込むと、隊員は胸骨圧迫を開始していた。私が総頸動脈を触知すると、触れない。隊員は「バックマスク準備お願いします」と声が出た。患者は「急性心筋梗塞」であった。

 帰署後、隊員と救急活動を振り返った。隊員は接触時の状況から腹痛に違和感を覚え「意識レベルが落ちるかも」と感じていて急変を察知していた。私は恥ずかしながら、腹痛という先入観から「急性心筋梗塞」の傷病名は思い描けていなかった。「わずかな異変に気づくこと」のできた若手救急救命士の活動を署内で情報共有して隊員を褒めた。

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