230604今さら聞けない資機材の使い方 113 高崎シンポジウムシリーズ()とっさの一言を母国語で伝えたい 羽昨郡市広域圏事務組合消防本部 半山武志

 
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基本手技

近代消防 2021/09/11 (2022/10月号) p86-88


氏名:半山武志
読み仮名:はんやまたけし
所属:石川県羽咋郡市(はくいぐんし)広域圏事務組合消防本部志賀消防署
出身地:石川県羽咋郡(はくいぐん)志賀町(しかまち)
消防士拝命年:平成12年4月拝命
救命士合格年:平成20年4月
趣味:読書(歴史関連:世界史、日本史)


とっさの一言を母国語で伝えたい:東京パラリンピック事前合宿での外国人視覚障害者の母国語訓練の紹介

半山武志、余海亮太、山科拓也、階戸琢巳、上野桂佑、本吉信久、上野信一、内田聖人

石川県・羽咋郡市広域圏事務組合消防本部

目次

背景

東京オリンピック・パラリンピック大会のホストタウン事業として、石川県羽咋郡志賀町において視覚障害を持つアゼルバイジャン・パラリンピック選手団事前合宿を受入れることになりました。

東京オリンピック・パラリンピックのホストタウン等における選手等受入れマニュアルによれば、コミュニケーションの配慮とポイントとして表1に示す4つが挙げられています。

視覚障害を持つパラリンピック選手に対して、寄り添った活動を行う必要性があります。選手の触診時に「触りますよ」の一言を、通訳を介して正確に伝えながらも、触診する隊員が母国語で伝えるだけで、印象が大きく変わってきます。そして、不安や緊張を和らげる効果が期待できます。

今回、現場に通訳者がいながらも、とっさの一言を母国語で行うことで、安心感を伝えていくことを目的とした救急訓練を行いましたので紹介します。

アゼルバイジャン

001, 002に示します。公用語はアゼルバイジャン語です。(テュルク諸語に属し、トルコ(共和国)語やトルクメン語に近い)。宗教は、主としてイスラム教(シーア派)です。ロシアからの帰化者もいるため、イスラム教でない国民もいます。

  

表1

コミュニケーションの配慮とポイント

 

         

 

001

黄色がアゼルバイジャン共和国

 

002

アゼルバイジャン共和国。拡大

 

訓練

(1)机上学習

筑波大学に留学中のアゼルバイジャン人女性(003)に講師を依頼し、WEB上において講習を行いました(004)。発音習得を目的に講師の発音をカタカナ表記することにより、文字の学習を省き、発音のみの学習に専念しました。

 

003

講師のギュゥナイアリバイリ(Gunay Alibayli)さん。筑波大学博士課程

 

004

WEB講習。生徒は筆頭筆者

(2)救急訓練

救急訓練講師の発音を実施隊員が復唱することにより、正確な発音が伝わるようにしました。場面ごとに模擬傷病者に声をかけながら活動するものです。

訓練の様子を003,004,005,006及び表2,3,4に示します。

 

005

接触時の訓練

 

表2

接触に用いるアゼルバイジャン語

 

006

ストレッチャー搬送時の訓練

 

007

車内収容時の訓練

 

表3

搬送開始時に用いるアゼルバイジャン語

 

008

車内での訓練

 

表4

車内収容から車内搬出時に用いるアゼルバイジャン語

 

結果

オウム返しの手法、カタカナ表記の発音により、アクセント、イントネーションを実施隊員に効率よく伝えることができました。限定的な状況とすることで、短時間に、最低限の文章を効率的に学習することができ、体験型学習をすることができました。そして、これら、パラリンピック選手への対応を通じて、視覚障害者に対しての理解を深めることができました。

しかしながら、これらの訓練が現場で使われることはありませんでした。コロナ禍のため水泳競技以外の事前合宿が取り止めとなり、選手との交流もできなかったためです。

考察

視覚障害者は、音声から多くの情報を得ているという観点から、言語による視覚化を図ることが重要です。視覚障害者は、ストレッチャーでの移動時、車内収容時、搬送途上の揺れ、病院到着時の雰囲気の変化などは不安を感じやすいことが予測されます。通常の傷病者以上に言語による接遇が重要であり、特に今回想定された外国人には母国語で対応することが、不安軽減につながると考えられます。

 

座長コメント

O15-1

●東京2020パラリンピック競技大会・事前合宿での外国人視覚障害者の母国語訓練の紹介

外国人の方の対応方法は色々あるが、今回の提案は、救急対応中のとっさの一言に母国語を用いることで、不安や緊張を和らげる効果を期待し安心感へ繋げようとする、相手を重んじる発想から、非常に日本人らしい「おもてなしの心」を踏まえた対応策である。また、視覚障害者以外の場合でも活用できるため、今後も外国人の方の誘致などで対応される消防にとって参考になると感じる。ただ、カタカナ表記で習得した母国語をとっさに使えるような工夫や通訳者が体調不良などで不在の場合といった不足の事態に備えて、英語対応を踏まえた多言語通訳サービスの活用を考慮しておくなど、バックアップ体制を構築しながらの活用が必要だろう。今後は、実際の活用事例とその反応についての検証報告が期待される。

 

プロフィール

・名前:木嶋 浩之(きじま ひろゆき)

・所属:高崎市等広域消防局 高崎北消防署群馬分署 係長代理(消防司令補)

・出身地:群馬県前橋市荒子町

・消防士拝命:平成18年4月1日

・救命士取得:平成26年救急救命士国家試験合格

・趣味:ダンス、散歩

 

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