月刊消防 2023/10/1号 p24-7
目次
1.はじめに
はじめまして、今回「救助の基本+α」シリーズを担当させていただきます、茨城県笠間市消防本部の加藤健作と申します。現在は笠間市消防本部で警防課情報通信係の指揮隊として勤務しております。
笠間市消防本部は平成18年3月19日、旧笠間市、旧友部町、旧岩間町が合併し「笠間市」となり発足し、1本部3署体制職員数129名(令和5年3月1日現在)で消防業務を行っております。現在、災害に強い街づくりのため笠間市消防強靭化計画を組織の皆で取り組んでおります。(人材育成、消防団の充実、庁舎の建て替えなど)
管轄の笠間市は、人口が(令和5年3月1日現在)71,749人で茨城県の中央部に位置し、東西約19キロメートル、南北約20キロメートルで構成され、総面積は、240.40平方キロメートルです。JR常磐線、JR水戸線の鉄道、そして常磐自動車道及び北関東自動車道の高速交通体系が確立されています。首都圏から約100キロメートルのところに位置し、アクセスも良く、観光、グルメ、レクリェーション面においても県内有数で代表的地域となっております。
2.チェンソーについて
近年、台風や大雨による河川の氾濫、土砂災害、流木被害などが発生し、各地で甚大な被害が発生しています。そのような災害現場で流木や流された建物の柱などを撤去するためにチェンソーを使用する場面があると思います。今回は、切断などの手技的な部分ではなく、資器材を適正に管理し資機材の力を最大限に使えるように、使用後に行うチェンソーの必要最低限の整備の仕方を紹介したいと思います。
3.チェンソー各部名称
4.使用後最低限やらなければいけないチェンソー整備方法
(1)整備道具の準備
①目立てガイド付き丸ヤスリ
②平ヤスリ
③デプスゲージ
④コンビボックススパナ
⑤ブラシ
⑥エアコンプレッサー
⑦パーツクリーナー
(ゴム製品、プラスチックに使用可能なもの)
⑧ウエス
写真3
必要な整備道具
写真4
作業の際は軍手を着用することで、細かい部分を軍手の指先でウエスの代わりにして清掃することもできます。
(2)エアクリーナー部分の清掃
エアクリーナー部分はフライホイールから送られてくる空気のゴミを取るなどの重要な役割を担っています。
きれいに保つことでエンジンの力を最大限に生かせるので、必ず使用後は清掃しましょう。
写真5
カバーを開ける前にチョークを閉じてゴミが入らないようにします。
写真6
エアフィルターの清掃
エアフィルター(赤丸の部分)を外して内側からエアコンプレッサーを使用してゴミを飛ばす
エアフィルターの汚れがひどい場合は、水で薄めた中性洗剤とブラシを使用し洗浄します。
エアコンプレッサーを使用してエアクリーナー周りを清掃します。エアコンプレッサーを使用する際はキャブレター内にゴミが入らないようウエス等をかぶせます。
写真7
エアコンプレッサーを用いた清掃
落ちない汚れは、パーツクリーナーを使用してもよいが部品の破損や劣化を防ぐためゴム製品プラスチック製品使用可能のものを使用してください。
写真8
専用のクリーナーを使うこと
(3)チェーンスプロケットカバー内部
ここにはスプロケットなどの駆動部分、チェーンオイルが吐出されるオイル孔があります。ダイレクトに切りくずなどが付着するため、しっかりとした清掃が必要になります。ウイングナット部分を緩めカバーを外しソーチェンとガイドバーを外します。
写真9
ウイングナット部分を緩める
写真10
カバーを外す
カバーとスプロケット部分をエアコンプレッサー、ブラシ、ウエスを使用して切りくずを取り除きます。(細かい部分は軍手をウエスの代わりにするときれいにできます。)
写真11
エアコンプレッサーで木くずを飛ばす
写真12
ブラシを使用して木くずを除去する
※ 清掃の際は、オイルが正常に循環しなくなる恐れがあるため、切りくずがチェーンオイルの吐出口に入らないように押さえて清掃します。
写真13
チェーンオイル吐出口
写真14
切りくずがチェーンオイルの吐出口に入らないように押さえて清掃する
(4)ガイドバー、ソーチェン部
ガイドバーの溝のゴミをエアコンプレッサー、デプスゲージの裏側などを使用して清掃します。清掃を怠ると切りくずなどが固まってしまい、ソーチェンの動きの妨げ、チェーンオイルが回らなくなる恐れがあります。
写真15
ガイドバーの清掃
ガイドバーのオイル孔をエアコンプレッサーでしっかり清掃します。
写真16
ガイドバーのオイル孔をエアコンプレッサーで清掃
ガイドバーのバリなどは切断時の抵抗になるので平やすりなどで整えます。
写真17
バリを平やすりなどで整える
ソーチェンの刃は一番摩耗が激しいところに合わせて研いでください。ガイドなどを使用すると刃の角度を適正に保つことができます。目立てをする際、ぐらつきが無いようにコンビボックススパナなどを使用することで刃をしっかりと研ぐことができます。
写真18
コンビボックススパナを挟んで安定させる。研ぎ方向は一方向にする
デプスの調整はデプスゲージを使用して必要があれば調整します。デプスが出ていないか確認し、必要であれば平ヤスリで調整します。
写真19デプスの調整
デプスが出てないか確認
【注意】
※ タングステンカーバイト製の場合は、刃が固く丈夫なため、目立ての間隔は長いのですが、目立てを行うための専用工具が必要となり、研ぎ方にもコツが必要です。刃の目立ては業者に依頼をしたほうが、切れ味を保つことができます。
また、ソーチェンの中には研ぐことができないものもあり、状況によってはソーチェン自体を交換しなければならないものもあります。ソーチェンを整備する前に必ず取扱説明書などで確認し整備の方法を確認してください。
(4)清掃完了後の組み立て
ガイドバーは片側だけの摩耗を避けるため組み立て時は反転させて使用します。
写真20
ガイドバーはは反転させて組み立てる
組立て後ソーチェンの張りの調整を行い、最後にウイングナット部分を締め込みしっかりと固定する。組立て完了後はエンジン始動しチェーンオイルの吐出、各種駆動部分の動きの確認を行います。
5.終わりに
チェンソーは特殊な消防資機材と違い、一般に流通しているため、確保することが比較的容易な資機材だと思います。倒壊した建物の撤去、クリブ材などの作成、流木などの処理など、チェンソー1本を使いこなすことができれば活動の幅が広がると思います。一方で、日ごろから適切な管理を行わないといざというときに役に立ちません。チェンソーを適正に使用するため、整備を適正に行えることが災害対応の第一歩だと考えます。
昨年、当消防本部では、チェンソーの基本的な技術、現場活動での注意点、メンテナンス方法などについて、地元の森林組合職員の指導を受けました。
現場を知ること、プロに技術指導を仰ぐことが災害に対応するために最も大切なことだと思っています。
この度の投稿が皆様の今後の活動の一助となれば幸いです。
参考文献
スチールチェンソー、VentMaster取扱説明書
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