近代消防2019年5月号
救急活動事例研究 27
救助現場では輸液回路を伸縮テープ全周固定とすべきである(大津市消防局高度救助隊 佐山真也)
佐山真也
大津市消防局高度救助隊
著者連絡先
佐山真也
大津市消防局高度救助隊
大津市消防局
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目次
はじめに
平成26年に救急救命士の処置範囲が拡大され、心肺停止前の要救助者に対し輸液が可能となった。救助現場では、ショックやクラッシュ症候群疑いの要救助者がその対象となる。しかし、救助現場では、救出の際に要救助者の体動を伴うことが多く、これまで救急現場で傷病者に対して行ってきた輸液の固定方法では、抜針してしまう恐れがある。
よって本研究では、救助現場を想定し、抜針しづらい固定方法を決定することを目的とした。
方法
要救助者の前腕に輸液をしたと想定し、以下の3つの固定方法を試した。
(1)通常固定(図1)
現在一般的に、救急現場や医療機関で行われている固定方法で、ドレッシングフィルムとテープで部分的に固定する方法である。
(2)非伸縮テープ全周固定(図2)
テープを、部分的な貼り付けではなく、前腕に1周巻いて、固定する方法である。
(3)伸縮テープ全周固定(図3)
テープを伸縮性のあるものに変え、2つ目の固定方法と同様、前腕に1周巻いて固定する方法である。
検討項目は2点である。実験回数は20回である。
(1)最大強度(図4)
バネ測りを使用して輸液回路を水平方向に牽引し、抜針までの最大強度を測定した。群間比較にはstudentt検定を用い、p<0.05を有意差ありとした。
(2)輸液の継続性
牽引による回路の折れ曲がりで、輸液が継続されるか否かを、滴下状態見て判定した。
結果
(1)最大強度(図5)
通常固定が平均1.18kgfであったのに対し、非伸縮テープ全周固定と伸縮テープ全周固定はそれぞれ平均4.68kgf、平均4.54kgfであった。通常固定に対して他の2固定は有意差を認めた。非伸縮テープ全周固定と伸縮テープ全周固定では有意差はなかった。
(2)輸液の継続性(表1)
通常固定は抜針まで輸液が継続された。
非伸縮テープ全周固定は、3kgfを超えたところで、輸液回路が屈曲し閉塞したため、輸液継続不能となった(図6)。
伸縮テープ全周固定は抜針まで輸液が継続された(図7)。
考察
輸液回路の固定方法には、ループをたくさん作る、テープを何周にも巻くといった、強固な固定方法がある。今回私がこの3つの固定方法を選んだのは、通常固定を基本に、あまり変わらない操作性(手間、手数)固定箇所で比較したかったためである。
通常固定は、輸液は抜針まで継続されたが、そもそも強度が弱く、救助現場では容易に抜針する恐れがある。非伸縮テープ全周固定は、ある張力以上で回路が閉塞し、輸液継続不可能となるが、それまでは、通常固定より強固かつ有効に滴下できるため、テープの特徴を理解した上ならば使用可能である。伸縮テープ全周固定は、最大強度、輸液の継続性ともに優れてた。テープを全周に巻くことで、接着面積が大きくなること、テープの端同士が重なるため剝がれにくいことが、強固な固定力に関与したと考えられる。また、同じ全周固定であっても伸縮テープが抜針まで輸液継続できたのは、テープが伸びることで輸液回路が緩やかに湾曲するため、閉塞に至らなかったと考える。
以上のことから、屋内や救急車内など、比較的安定した環境の場合は、通常固定でも問題はない。むしろ通常の現場では、必要以上にテープを張ることは皮膚障害の原因にもなるため、通常固定とすべき場面もある。しかし狭隘空間での活動や、要救助者の高所からの吊りおろし、低所からの引き揚げ、水平移動など、体動を多く伴う救助現場では、最大強度、輸液の継続性ともに優れた伸縮テープ全周固定が好ましいと考える。
今回、伸縮テープ全周固定が救助現場では最適と結論付けたが、救助現場で輸液回路にかかる張力は今回の研究で用いた力をはるかに超える可能性があり、伸縮テープ全周固定にしたから安心というものではない。回路に張力が加わらないように留意した上で、不意に加わった力による抜針事故を防止するために本研究を活用していただきたい。
結論
1.救助現場を想定し、3種類の輸液回路固定方法を比較検討した。
2.伸縮テープ全周固定は最大強度・輸液の継続性ともに優れていた。
3.伸縮テープ全周固定を救助現場に導入したとしても、張力が不意に加わらないように留意するべきである。
著者
プロフィール
出身地:滋賀県草津市
所属:大津市消防局 中消防署 消防第1課救助係
高度救助隊
気管挿管、薬剤投与、拡大処置認定救急救命士
消防士拝命年:平成21年
救命士合格年:平成21年
趣味:ランニング、旅行
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