近代消防 2021/03/10 (2022/4月号) p72-3
救急活動事例研究 59
救急講習会受講者のバイスタンダー心肺蘇生と 1 か月生存率の関連性
百々瀬稔、久保真乃、山田光隆、桐敷拓実
埼玉県央広域消防本部
目次
著者
名前 |
百々瀬 稔 |
フリガナ |
モモセ ミノル |
所属 |
埼玉県央広域消防本部 |
出身地 |
埼玉県鴻巣市 |
消防士拝命 |
平成13年 |
救命士合格年 |
平成26年 |
趣味 |
スノーボード、登山 |
はじめに
当消防本部の普通救命講習開催例数は年間約110回、受講者数は約1,800人と年々増加している。当消防本部の平成30年度の心肺停止(CPA)事例は323例で、そのうち54%の174例においてバイスタンダー心肺蘇生(バイスタンダーCPR)が実施された(図1)。そこで、バイスタンダーCPR事例で、バイスタンダーの救命講習受講歴の有無を調査し、傷病者の生存率の関連性を検証した。
001
平成30年度の心肺停止323症例においてバイスタンダーCPRが行われた割合
対象と方法
検証対象は、当消防本部管内で、平成26年度から平成30年度の5年間のバイスタンダーCPR事例698例においてバイスタンダーが医療従事者であった場合の124例を除く574例を対象とした。これらを救命講習受講あり群と受講無し群に分けた。
評価項目は1ヶ月生存率と、1ヶ月生存者の初期心電図波形とした。
統計処理はFisherの正確確率検定を用い、p<0.05を有意とした。
結果
574例のうち救命講習受講ありは47%の272例、受講歴なしは53%の302例であった(002)。1ヶ月生存者数は44人。そのうちの、受講あり群では29人、受講無し群では15人であり(003)、受講あり群で生存率が有意に高かった(p=0.0117, オッズ比2.232)(表1)。
1ヶ月生存者44名における初期波形を004示す。1ヶ月生存者の初期波形は心拍再開と心室細動(Vf)が多く、さらに受講あり群と受講無し群にわけた場合、受講ありは心拍再開が62%となっている。またVfも23%あった。受講無し群でも心拍再開は30%あるが、無脈性電気活動や心静止の割合が高かった。
002
バイスタンダーCPRが行われていた症例で、バイスタンダーが救命講習を受けていた割合
003
心肺停止の生存者数とバイスタンダーの関係
表1
受講歴による1ケ月生存率の有意差
004
1ヶ月生存者の初期波形
考察
バイスタンダーCPRが行われた事例の47%、1ヶ月生存が認められたCPA事例の66%以上の事例で救命講習受講ありのバイスタンダーが関与していた。また、受講ありのバイスタンダーCPRが行われた1ヶ月生存者初期波形の85%は心拍再開とVfであった。バイスタンダーが救命講習受講ありの場合、救急隊到着までに除細動を実施、もしくはVfが継続していた確率が高いといえる。
多くのバイスタンダーを育成するにあたり一般市民の救命向上を計るとともに講習会の実施が必要と考える。そして緊急時に活かせるバイスタンダーの応急手当により、傷病者の社会復帰率が向上することを目標とし、バイスタンダーという存在の認知度を浸透させるため多岐にわたり業務を遂行したいと思う。
結論
1)バイスタンダーCPRを受けていた病院外心肺停止の1ヶ月生存例ではバイスタンダーが救命講習を受けていた割合が受けていなかった割合に対して有意に高かった。
2)バイスタンダーが救命講習受講ありの場合、救急隊到着までに除細動を実施、もしくはVfが継続していた確率が高い。
3)バイスタンダーという存在の認知度を浸透させるため多岐にわたり業務を遂行したい
ポイントはここ!
バイスタンダーが救命講習を受けていれば1ヶ月生存率が向上するという論文である。今までは大学の研究としてでてきた結果であり、一つの消防本部が単独で発表したことは素晴らしいと思う。今日以降、引用論文として用いられることに期待したい。
新型コロナはバイスタンダーCPRに大きな影響を与えている。バイスタンダーCRPの実施率は変わらないという論文はある 1,2)もののごく少数で、日本からの論文 3)を含めて大多数はバイスタンダーCPR率が減少したと報告している。また生存率はもっと悲惨で、読んだ全ての論文で有意に低下している。パンデミックが終息するまではこの傾向は変わらないだろう。
1)J Clin Med 2021Mar 15;10(6):1209
2)Int J Environ Res Public Health 2021 Mar 31;18(7)3646
3)Resus Plus 2021 Mar 5:100088
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