近代消防 2021/07/11 (2022/8月号) p92-5
今さら聞けない資機材の使い方 111
高崎救急隊員シンポジウムシリーズ(3)
自作静脈路確保訓練キット
高崎市等広域消防局 高崎北消防署
神保勝矢
目次
はじめに
静脈路確保(IV)の成功率を高めるため、簡単に作成できるIV訓練キットを考案しました。 またこのキットを用いて訓練も行いましたので報告します。
1.キットの作成方法
001
訓練用の輸液バッグを空にします。次に、そこから三方活栓と延長チューブを取り外し、三方活栓をハサミで切り取ります。
002
切り取った三方活栓に100円ショップのおもちゃ用の細長い風船、バルーンを取り付け、結束バンドで固定します。そして、絵の具で赤く色付けした水を、三方活栓からバルーンに充てんします。今回はわかりやすいように赤く色付けしましたが、普段訓練する際は色付けしなくても十分に訓練が可能です。
003
その水で満たされたバルーンを、同じく100円ショップのおもちゃ用のスライムで覆って、ラップフィルムで包んで好みの形を作成します。その際、三方活栓は閉めておきます。
004
虫ゴムで模擬血管を細くしたり、下の写真のように、粘土でバルーンを目隠しすることも可能です。形は自由に変えることができますので、蛇行させることも可能です。
005
穿刺すると、内筒のフラッシュチャンバーにバックフローが確認できます。その後、右の写真のように、輸液ラインを接続します。
006
滴下確認する前に、右の赤丸のように、空にした輸液バッグを取り付け、三方活栓を開きます。
007
左の写真がキットの全体写真になります。穿刺し、接続した輸液ラインの赤丸のクレンメを開放し、滴下を開始すると、右2枚の写真のように、空の輸液バッグに水が流れていきます。
以上が、キットの作成方法と使用方法です。この構造を利用して、実際にシミュレーション訓練を行います。
2.シミュレーション訓練
シミュレーション訓練は3種類の訓練を行います。低血糖、ショックそして心肺停止症例です。
低血糖とショックの症例は生体に、心肺停止症例はダミーにそれぞれ、先程のキットを取り付けて訓練を行います。
(1)低血糖症例のシミュレーション訓練(008)
キットを取り付ければ、実際に三方活栓からブドウ糖を投与する訓練が可能です。わかりやすいように、ブドウ糖溶液を赤く色付けしていますが、赤い矢印のように空の輸液バッグに流れていくのがわかります。生体にキットを取り付ける際は、針刺し事故防止のため、厚めのクリアファイルをキットの下に設定します。
008
低血糖症例のシミュレーション訓練
(2)ショックの症例のシミュレーション訓練(009)
生体にキットを取り付けることができますので、リアルな傷病者役を演じることが可能です。空の輸液バッグを取り付けるタイミングは、穿刺し、滴下確認する時に接続してから、三方活栓を開きます。この訓練では、病態に応じた、滴下速度を調節することが可能です。ちなみにこの写真は交通外傷による循環血液量減少性ショック症例でしたが、その他にも様々なショック症例の訓練が可能です。
009
ショックの症例のシミュレーション訓練
(3)心肺停止症例の症例のシミュレーション訓練(010)
キットをダミーに取り付けて心肺停止(CPA)症例の訓練をしている写真です。キットを使用すればアドレナリン投与前後の一連の流れを訓練することが可能です。
010
心肺停止症例の症例のシミュレーション訓練
3.シミュレーション訓練をした結果
共通事項としては、留置針で穿刺した際、バルーンに充てんした水がフラッシュチャンバーに流入してくるので、バックフローを体験することができました。低血糖症例では実際の現場のようにシリンジに入ったブドウ糖2本を投与する手技を体験することができました。ショック症例では病態に合わせた滴下速度を調節する体験ができました。そして、心肺停止症例ではアドレナリン投与前後の一連の手技を体験することができました。
職員からは、「キットは血管(バルーン)、真皮(スライム)、表皮(ラップフィルム)の三層構造なので穿刺する感覚が生体の時と似ている」「実際の現場のように、ブドウ糖溶液やアドレナリン投与が実施でき、滴下速度を調節する訓練ができた」「心肺蘇生以外は傷病者役が生体で実施可能なので、臨場感のある訓練ができた」といった意見が寄せられました。
考察
自作のキットを使用しても訓練を中断することなく、一連の流れの中で、リアルに訓練が実現可能であることがわかりました。そして、キットの作成は簡単で安くできます。作成する時間は慣れてくれば約2分で完成します。キットで必要なものは輸液資器材以外は、全て100円ショップで用意することができます。しかも、バルーン以外は何回も再利用することができます。自由に難易度を調節することも可能です。
また、キットを生体に取り付ければ、救急車内で静脈路確保の訓練をすることができます。ちょっとした空き時間に訓練することができるのです。
これらのことから私は、このキットを有効に活用し、静脈路確保成功率の向上を目指していきたいと考えています。そして、今後の課題としては、今回考案したキットを使用した訓練の教育効果を検証していきたいと考えています。
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