雑誌 健康教室 応急処置アップデートQ and A
2024年01月号(2023/12/10発行号)p56-7
応急処置Q and A
湿潤療法を保健室で行う?
目次
Q1
湿潤療法を保健室で行う必要はありますか。
Q2
児童が家でキズパワーパッド(R)をつけてきて「汁がもれてきた」「汁のにおいが嫌なので替えてほしい」と言われた場合の対処法が知りたいです。現状は、学校にはキズパワーパッド(R)を置いていないので、子供がつけているキズパワーパッド(R)の上から大きい絆創膏を貼っています。
A1
行っても行わなくてもいいですが、その前に専用絆創膏を備品としている学校はほとんどありません。
A2
そのまま押さえるくらいしかできません。
解説
この連載で何度も取り上げている湿潤療法。学校で問題となるのは、この治療が継続を要することと感染の危険を持っていることです。
1.湿潤療法とは(001)
ある程度の年齢から上の方なら、擦り傷の治療として「消毒」「乾燥」がセットであったことを覚えているでしょう。これを「消毒なし」「乾燥させない」に変更したのが湿潤療法です。
擦り傷の処置はこうなります。
(1)傷口を水道水などでよく洗い流す→範囲が広い場合や深い場合、極度に痛がる場合は病院へ
(2)傷口に砂やとげなどが残っていないか観察する→取れそうならピンセットなどで取る。取れない場合は病院へ
(3)水気を拭いた後にフィルム剤や専用絆創膏で密封する→一般家庭ならキズパワーパッド(R)などの専用絆創膏を貼る
(4)傷が治りきる5日間から7日間はフィルム剤や絆創膏は交換しない(傷の状態を観察するために2日に一回交換を勧める意見もある)→浸出液は拭き取る。
2.文献を調べてみた
(1)一回限りの消毒が治癒を妨げるという文献は見つからなかった
動物実験ではクロルヘキシジンやポビドンヨードを傷に接触させたままでいると傷の治りが遅くなるという報告があります1)。ただこの報告では傷を覆う材料がコントロール群とは異なるので、それが傷の治りを妨げた可能性があります。
細胞をずっと消毒液に漬けておけば変になるのは当たり前です。しかし、養護の先生からよく質問される「保健室での1回限りの消毒」がどれだけ治癒を遅らせるのかを調べて文献は見つかりませんでした。私個人の意見ですが、保健室で一回消毒をしたくらいで傷の治りが遅くなるとは到底思えません。
(2)湿潤状態は傷を明らかに早く治す
これは明らかに傷の治りに直結します。乾燥状態に比べ湿潤状態では、炎症の期間が短縮され、細胞増殖が急速に起こり早期に治癒します2)。
3.湿潤療法が持つ壁
(1)感染の危険
乾燥させても湿潤状態でも感染の危険性はあります。ただ、傷がむき出しなら感染して膿が出てきたのはすぐわかりますが、密閉した状態では発見が遅れる可能性があります。
(2)医療行為
湿潤療法は感染の危険から、継続して観察することが求められます。この継続観察が医療行為に当たる可能性があります。そのため学校でキズパワーパッド(R) を用いるときは、あとは家庭で観察するように保護者に申し送る必要があります。また質問のように家庭で絆創膏を貼って来た場合は、絆創膏を剥がさずに処置することしかできません。強い痛みや絆創膏周囲にまで広がる発赤は感染の兆候ですので、本人や保護者に病院受診を勧めてください。
養護の先生が経験した事例
1.擦り傷で困ったこと
・細かい砂が入り込んでしまい、保健室では取れない時。すぐに病院へ行かせるか迷う。
・グラウンドの土などで着色してしまっている時。流水で流すだけでは取れず、擦ると痛がるし、そのまま保護するのも気が引ける。
2.こんなふうに対処している(こうすればよかった)
・基本洗い流す対応。
・絆創膏が傷につかないよう、絆創膏側にうすくワセリンを塗って貼ることもあった。
・校外学習時は水場がないことも多く、マキロンを使うことも。
・擦り傷に関わるご家庭の考えは、どうして病院に行かせなかったのか、から、かさぶたにしといてください…までさまざま…。保健室でできるのは応急手当なので、その上でご家庭に引継ぐ連絡を丁寧にしていたと思います。
・家庭との連絡で、傷についての状況と今後の懸念を伝えながら、病院受診のことや湿潤療法のことなど、ある程度家庭との相談できる知識がないと…と思いながら対応していました。
文献
1)J Exp Pathol Oxford 1990 Apr; 71(2):155-70
2)J Invest Dermatol 1988 Nov; 91(5):434-9
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