260405_救急活動事例研究_92_心室細動であるにもかかわらず反応と体動があった一例_上球磨消防組合_坂本直紀

症例

近代消防 2025/07/15 (2025/08月号) p44-7


心電図波形が心室細動の心肺停止状態であるにもかかわらず反応と体動があった一例

坂本直紀

上球磨消防組合消防本部

目次

1.はじめに

当消防本部は熊本県の南東部に位置する多良木町・あさぎり町・湯前町・水上村の4町村を管轄する、管轄人口28,413人、職員数66名と非常に小さな消防本部である。管内には日本三大急流の一つである球磨川が横断するように流れおり非常に自然の豊かな地域である(map1)。

今回、心電図波形が心室細動の心肺停止状態であるにもかかわらず反応と体動があった症例を経験したので報告する。バイスタンダーによる心肺蘇生と除細動が適切に実施されて社会復帰につながったが、救急隊の除細動直後及び胸骨圧迫中に体動が生じて対応に苦慮した。

2.症例

某日10時52分覚知。場所は管内の中学校。「62歳の男性教員が授業中に倒れて意識がなくなった」との内容の救急要請。救急隊3名と支援隊2名のPA連携で出動した。なお指令課から「心肺蘇生法・AEDについて口頭指導は実施済み」との情報もあり隊内で心肺停止の可能性が高いと申し合わせた。

発生時、傷病者は椅子に座って授業中、左側に卒倒(001)。生徒が近くの教員に伝え(002)職員室から119番通報がなされた(003)。その後教員3~4人で交替しながら胸骨圧迫を継続し(004)、学校設置のAEDにより電気ショック(005)が4回実施されていた。なお発生直後に生徒は別室(図書室)に移動させた。

事案後に学校から提供された心電図波形データを006に示す。通報直後から心室細動に対して約2~3分毎に時期を逃すことなく除細動を繰り返している。また赤文字は除細動後の反応を示している。1回目は反応がなかったものの2回目以降はそれぞれ顔をしかめたり死戦期呼吸や体動の出現があった。

救急隊到着時、傷病者は教室内に仰臥位の状態で教員による胸骨圧迫実施中であった(007)。意識レベルはJCSⅢ‐300。呼吸は死戦期呼吸で総頚動脈触知不可であったため心肺停止と判断して直ちに心肺蘇生を開始した。しかし胸骨圧迫を払いのけるような体動が出現(008)し、この時点で心拍再開を疑ったものの、再度総頚動脈を触れて心停止であることを確認し胸骨圧迫を継続した。

傷病者の体動を見た同僚の教員が「やった~」と歓声を上げて喜んだ(009)のを記憶している。

救急隊が除細動パッドを装着したところ心電図波形が心室細動であったため直ちに1回目の除細動を実施した(010)。直後に傷病者は「うー…」といううめき声を上げた(011)。ショック後は波形は一時無脈性電気活動に変化したものの、次の解析時に再度心室細動であり2回目の除細動を実施した。ショック後に体を起こそうとする(012)などの反応があったが波形は再度無脈性電気活動に変化した。

バイスタンダーと救急隊により合計6回の除細動を実施したが心室細動から離脱できないため、「難治性心室細動」である旨を2次病院医師に報告し指示要請した。これにより救急隊による3回目以降の除細動と静脈路確保・アドレナリン投与の指示を得て車内収容を急いだ。

車内収容からほどなくして心電図波形は無脈性電気活動から心室細動に変化した。救急隊による3回目の除細動を実施したところショック後に波形は無脈性電気活動に変化した。直近2次病院到着まで無脈性電気活動が継続した。

車内収容後も総頚動脈は触知できないものの胸骨圧迫を開始すると圧迫の手を払いのける動作(013)が強く、患者の手を払いながら胸骨圧迫を実施した。静脈路確保・アドレナリン投与については同じ理由で両上肢の動きが強く(014)実施を断念した。

状態は変化なく直近2次病院へ到着した。到着直後に心室細動となり、2回の除細動で自己心拍が再開した。その後急性心筋梗塞の診断で冠動脈形成術可能な管外2次病院へ転送となった。形成術3時間後には会話可能となり、約2週間後に後遺症なく隊員・社会復帰している。

活動全体の時系列を表1に示す。

001

傷病者は椅子に座って授業中、左側に卒倒

002

生徒が近くの教員に伝えた

003

職員室から119番通報

004

教員3~4人で交替しながら胸骨圧迫

005

学校設置のAEDにより電気ショック4回実施

006

事案後に学校から提供された心電図波形データ。赤文字は除細動後の反応を示している。1回目は反応がなかったものの2回目以降はそれぞれ顔をしかめたり死戦期呼吸や体動の出現があった。

007

救急隊到着時、傷病者は教室内に仰臥位の状態で教員による胸骨圧迫実施中

008

胸骨圧迫を払いのけるような体動が出現

009

傷病者の体動を見た同僚の教員が「やった~」と歓声を上げて喜んだ

010

救急隊が心室細動を確認し1回目の除細動を実施

011

除細動直後に傷病者は「うー…」といううめき声を上げた

012

2回目の除細動後に体を起こそうとした

013

車内収容後も胸骨圧迫を開始すると圧迫の手を払いのける動作を続けた

014

静脈路確保・アドレナリン投与は両上肢の動きが強く実施を断念

表1

時系列

考察

今回の事案後に「Cardiopulmonary resuscitation-induced consciousness, CPRIC」という病態(または状態)の存在を知った。これは心肺蘇生中に自発循環が回復していないにもかかわらず自発的な開眼・発語・体動等の反応が出現する状態をいう。この事案の傷病者もこの「CPRIC」の状態であったと推測される。今回の症例を広く共有しCPRICの場合でも適切な心肺蘇生法を継続することが傷病者の救命につながる。

ポイントはここ

Cardiopulmonary resuscitation-induced consciousness(CPRIC)について、2018年の総説1)を引用する。

2015年までにCPRICとして報告されたのは10例。患者の動きとしては「開眼、苦しそうな呼吸、痛み刺激の局在、意図的な腕の動き、蘇生チームとの言語的および非言語的コミュニケーション、指示に従うこと」であり、症例の半数で、患者が「救助者を押したりつかんだり、圧迫をやめたり、気管内チューブや機械装置を引っ張ったり」して蘇生を妨害するほど意識があった」ため、心肺蘇生が頻回に中断されることも報告された。

CPRICを起こした患者の属性として、若年、男性、初期リズムが心室細動または心室頻脈、心停止から救急医療サービスの提供までの間隔が短い傾向があった。

CPRICを起こすと自己心拍再開が期待できる、もしくは生存退院が期待できるかは、症例数が少ないため統計学的には不明であるが、CPRISが見られた患者は見られなかった患者と比較して生存退院率が高いという報告もある2)。

文献

1)Can Fam physician 2018 Jul;64(7):514-7

2)Resuscitation 2017 Apr;113:44-50

 

プロフィール
名前:坂本 直紀(さかもと なおき)
所属:上球磨消防組合 上球磨消消防署
出身地:熊本県球磨郡あさぎり町
消防士拝命年:平成18年(2006年)
救命士合格年:平成26年(2014年)
趣味:ファミリーキャンプ
症例
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