050130「本を作る」座談会
「本を作る」座談会
嘉津山修司(K)炭谷貴博(S)吉田寿美(Y)玉川進
2005-1-29 sat 23:12
Y:「救助隊のための救急の本」、そういう本ってないよなあ、ないのなら作りましょうかっていうことなんだけど、最初は冗談だと思ったよ。そんな、勢いだけで本なんで作れるものじゃないだろうし、大勢の人が読むものなので、大丈夫なのだろうかとは思ってた。
K:最初は、ヘーっていう感じでしたよ。やるんだ、すげーなってくらい。
Y:救助のための救急の本がないのは知ってたよ。自分が外傷プログラムを受講していてこれはみんな知らないとだめだなとは思ってもいた。実際に事例検討の場で病院側から「頚髄損傷がありました」っていう発表もあったし。
S:僕は正直なところ、救助ってそんなに知っているわけじゃないので、自分なんぞに作れるのか、と思いました。でも、この機会に救助の勉強をするのもいいかなと。
Y:3月になってメーリングができた時には「本当にやるんだあ」と思ったけど、でもやっぱり半信半疑で、しかも東京法令でしょ、お堅い出版社というイメージがあるんですよ。ホームページ見ても堅いし。
S:メーリングを作ってからずうっと何もなかったですしね。きっと人集めに苦労しているのかなとか、先生自体が忙しいんだろうなって思っていました。
Y:俺は東京法令のほうで企画が通らなかったんだと思ってた。でも東京法令から積丹に編集者を派遣するって聞いて、いよいよ本気なんだって。
Y:水内さんは意外に若い人だったね。「東京もんは違うなあ」って。普段田舎の人間しか見てないからね。先生が温泉に行っているときだったんで、二人で救助の全国シンポジウムの話をしてた。
Y:積丹のホテルのロビーで「東京法令の水内です」って自己紹介されて、「オーッ」て。ほんとに来たんだ。水内さんが来るっていう話は知ってて、それで自分も積丹まで会いにきたんだけど、でも水内さんを見るまで半信半疑だったんで、挨拶受けて、こりゃ本当に本を書かないとなんないんだって。後戻りできないって。
K:俺は積丹の写真を見て、東京から来た人、すごい酒飲むんだって思いました。でもこの二次会の写真、周りで飲んでいるのに二人だけで打ち合わせしているんですよね。ガンガン酒飲んで、それでもきっちり編集の話をしていく、きっとこのあたり(頭)にICチップでも入っていたんじゃないですか。
K:俺としては歌登の編集会議が衝撃的でしたね。会議室に入るなり、「ヤバい、俺手ぶらで来た」って、これは炭谷貴博がケーキを持ってきたからなんですけど、それで一気に頭が白くなって、そのあと俺以外はノートを広げてカリカリやり始めて、すごいって。
自分は想定事例を考えたんですが、電車があったり、窓拭きの転落とか、高圧電線にパラグライダーが引っかかったとか、これ、救助じゃないな、一発で死んじゃう警察ものばかりで、どもこもならんていうのばかり。
S:本を作ることがちゃんと決まって、嫁さんに「本を作るっていう話が来ているんだけど、どうしようか」って言ったら「断ると絶対後悔するよ、あんたの性格なら」って言われました。結構喜んでくれましたよ。
K:うちのは「本作る」って言ったら「大丈夫?」って。これ、お父さんで大丈夫なのかっていう意味ですよ、それで、「大丈夫じゃねーよ」って言ったら笑っていました。
今ですか。冷たい妻になりました。俺って興が乗るとずっとこもって絵を描く人間なんで、子供が「どっかいこう」「遊ぼう」っても「今描きたいから」って、朝から晩まで別室にこもって描いていますからね。
Y:うちは、「本」「ふーん」て。ま、早来も積丹も行ったし、その延長としてしか捉えてないんじゃないのかな。
K:妻は俺が真剣に描いた絵を初めて見たんですよ。結婚して9年経っているんですけどね、いままではリアルドラえもんばかり描いていましたから。
で、俺の絵を見て「売れる本を思いついた」って。主婦は心肺蘇生手技なんか知らないし本も読みたくないから、パラパラマンガで蘇生法を描いたらって。で、描いてみたんですけど、あんな大変なの手で描くもんじゃないですね。
OPS Extra in 稚内 聴診
Y:それから1ヶ月後に稚内で撮影会、その前の日がOPS Extra in 稚内か。OPSも楽しかったな。参加者全員がみんな真剣だったのが良かったよ。
K:OPS Extra in 稚内ですか。看護婦さんまでは良かったんですけどね、それから地獄でした。心電図の話を始めたら途端に眠そうな顔をするので、それで黒板借りたんですよ。で、熱血になるんですよ。言葉で説明してもだめだから書かないとだめだって。
稚内撮影会
Y:翌日の撮影会はすごかったね。本川隊長がぽそっと何か喋ると隊員たちが物音一つ立てずにスーって流れていく。うちらみたいに怒鳴りまくったりしないんだな。あれは、すごく勉強になった。普段我々の注意の届かないところをきちっとケアしている。あれが安全管理なんだな。二次災害を絶対防ぐんだ、自分たちの代わりはいないんだぞっていうことなんだろうな。
K:稚内の本川宏樹隊長、格好良かったね。登場した時少し赤ら顔だったけど。かっこいいなあ、でも二日酔いだったんだろうな。
で、動き始めたら隊員が黙々と仕事をこなしているのが、プロだなって思った。
Y:いろんなところから稚内に集まってきてて、リハーサルもなしの一発撮影なのによくスムーズに進んだよな。
S:映画の撮影現場みたいでしたね。あの何とも言えない雰囲気。オレンジが大量にいて。それに、仕切りのすごさ。若松淳(早来)さんと大井雅博(興部)さんと。あの人たち商売間違っているんじゃないかと思いましたよ。上から命令するんじゃなくて、上手く乗せて人を動かす。あれが一番印象に残っています。
K:自分は、いろいろな角度から見たくてうろうろして、あ、ここ盲点だとかポイントだとか、ガシガシ絵を書いていました。だめなのが多い中で、ちょこっとはものにして本に入れています。各論中総論の部分とか。
S:自分が撮影で一番気をつけたのは、カメラマンがいっぱいいるので、その人たちと同じアングルは避ける、なるべく人が撮っていない角度を狙うようにしていました。
そうしたら大型車のときなんか自分だけ後部座席にいて、若松淳(早来)さんがメガホンで「炭谷さんのOKで終了です」とか言ってて、緊張しましたね。
K:撮影じゃ、本山りえさんがきつかっただろうなって思った。寒いところに浸かったりして。最北の地であんなことを経験する女性はもういないだろうな。
Y:水難見たかったなあ
S:あれ、見ていた立場からすると、信じられないっていうのが正直なところでした。水温4度ですよ。撮影以前の問題なんですよ。
最初に潜水士の方が水に潜ったんですけど、上がってきて一言、「これ死ぬぞ」って。
本山りえさん、度胸座っていてびっくりしました。本職が「死ぬ」って言っているのに、そこに入って顔を付けちゃう。度胸が座っているというか、私がやらなきゃ誰がやるみたいな、役者魂っていうのか。
低所のコンクリートも冷たいんですよ。外に出た時に外の暖かかったこと。
Y:とにかく、5万人都市の消防本部の救助隊が全面協力してくれたことが嬉しかったよな。市長もいらしてくれて。
恐らく、この撮影に至るまでには内部的にいろいろ調整が必要だったんだろうと思うんだけど、そういったことはいっさい口にせずにやってくれた。
それに自分たちにとっても、本では知っていてもなかなか目にすることのない救助手技、例えば低所からの縦釣りってああやってやるんだって確認できたし。
S:写真見ると紐だけ写っているとか、人物がない写真もあるんですよ。あれって、ロープの縛り方を写真に収めているんですよね。バックボードをどう固定するとか。でも、他の人の写真にもやっぱり写っている。
みんなここのやり方を記録して所属に持って帰ろうって思っているんだ、考えることは一緒だなって思いました。
K:できあがった写真はきれいでびっくりしましたね。手ぶれもなくて、消防車の赤と救助服のオレンジがきれいだったな。
S:執筆に移って、まず始めに手元の本からパクったんですけど、書いていて、これなら結局同じものができるだけだ、独自性をださないとだめだと思いました。それと救助の本にどこまで深く書くべきなのか、それが一番悩みました。
Y:原稿を書くのは遅れたなあ。でもちゃんと書いてはいたんだ。最初に書いたときはものすごい量を書いたんだよね。で、こんなの誰も読んでくれないやって思って、自分が現場に出た時に何を見るべきかって考えて、そうしたら今度は短くなりすぎた。
あとは、どうやって表現すれば読む人に分かりやすいか。喋って伝えるのとは違うからね。どう伝えるのが分かりやすいのか悩んだよ。
K:俺は、みんなとずれていることを書いているんじゃないかと心配でしたね。で、やっぱりずれていました。多分性格ですよね。
自分が読んだら読みやすいんだけど、見る人が見ると「なめてるんじゃないか」ってことにならないですかね。
Y:文章に個性があって面白かったな。書く目的は一つで書く内容も同じなのに、表現が全然違う。個性があるんだよね。堅いとか、くどいとか。
S:言葉尻とか表現とか、いっぱいありますよね。
Y:それとさ、自分の当たったところが、救急の人間なら誰でも知っているところだったんだよ。で、改まってどうやって書いたものか。何種類か本は読んだけど、結局ああいう文章にしかならなかったな。
S:メーリングリスト作ったでしょう、あれ、楽しかったですね。ほとんどチャットですもの。
返事しようかと思って書き始めると他の人のメールが入ってきてその人がちゃんと返事しているんですよね。パソコンやってて良かったなって思いましたよ。あんなにパソコン使ったことなかったですしね。
K:メールはいっぱい来たなあ。いままではマックの電源を入れてもsafariでホームページを見るくらいだけど、今はすぐメールチェックをするようになったわ。
今まではメールチェックはほとんどしてなかったんですよ。チェックしたって見なくてもいいメールばっかりだったんで。でも今は見ないわけにいかないでしょ。一旦見逃すとメールが山のように積もってきて、どこに行ったか分からなくなる。
Y:俺のメールは催促専門だったな。メールで催促が来て、返事も来ていないってまた催促が来て…。
K:それと、作った文章がホームページに載ることが楽しかったな。お、ここまでできているって。
S:コンピュータネタでは、マックとウインドウズの間の壁が結構高いというのも面白かったですよ。
先生からファイルが送られてきて、見れない~って思って、フォント変えたりしてみれたときは、ヤッターって感動していました。
FFFTPでサーバーに写真をアップしたときも、サーバーに繋がったのは分かったので、チェックを一つずつ入れたり外したりして、ようやくアップできた時も感動しましたよ。
Y:あれ? Fetchならドラッグして離すだけで勝手に全部入ったけど??
S:一応、終わりましたね。仕事するのと違って、嫌々やっているのとも違って、好きでやっていたことなので、振り返ればあっという間に終わったなっていうのが感想です。
Y:俺は、やったんだなっていう充実感と、虚無感と、かな。しっかりゲラになったものが手元に来るとまた新たな感動があるんだろうな。
今井睦(興部)のいうように、これが救助の新しい展開のきっかけになるものには仕上がったと思うよ。そこ(歌登国保病院会議室)でお茶飲んでケーキ食べたのがついこの前なんだけどね。
K:いいなあ。俺の苦労は今ですよ、今。絵。
下書きの時代が終わって清書をしているんですが、きれいに書くのが苦痛です。捨てカットということで自分の思っている線が使えないんですよ。それに本になった時にきれいに絵が出るかどうかも不安です。描きすぎで今指が痛い。
S:今回の本は、それこそ全く新しい試みですよね。他に見本を求めることもできなくて、どこまで書けば完成といえるのか分からないから、これで大丈夫だっていう自信は湧かないですよ。
K:不安なんですよね。同期が見たらどう思うかなとか、どっか知らない大きな消防から電話が来て、「カツヤマさん、あんたの言うこと間違ってる」って言われたらどうしようかって。
Y:そうだな、今までなかった本を作るんだからなあ。書き手がいなかったのかなあ。
S:救命病棟24時で使ってくれれば売れるんでしょうね。
Y:あの番組は影響が大きいからね。
S:この前嫁さんに、「トリアジーって知ってるの」って聞かれましたよ。「ちょっと待ってくれよ、一応、俺、救命士なんだぞ」って言っちゃいました。
S:本、自分はやっていて良かったですよ。何にもすることのない空いている時間があると結局何もしないので、何かに打ち込める時間はいいですね。
また本を作る話があれば参加したいです。面白いですもの。
K:俺は、時と場合によります。
やってもいい場合とは、自分の得意な分野の時。やってだめな場合というのは自分の不得意な分野の時。
絵を描く分には参加できるんじゃないのかな。文章は、くどいんで、おまけにきついし。
Y:俺は、「勉強します」かな。
今までいかに身のあることをやってこなかったか今回分かったよ。いつ「やるぞ」っていわれてもいいように勉強する。
S:でも、本を書くことって勉強になりますよね。嫌が応にも本を読みますからね。あとは売れてくれれば…ですね。
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